「アイルランドには中国のスパイがたくさんいる、と活動家が主張」という記事を翻訳しました

アイリッシュタイムズ紙に「China has ‘a lot of spies’ in Ireland, activists claim (アイルランドには中国のスパイがたくさんいる、と活動家が主張)」という面白い記事の掲載されていたので、全文を翻訳してみました。記事の公開は2019/11/30 (オンライン版)。

 

香港の民主運動を応援しているアイルランド在住の 3 人 (香港出身2人、中国本土出身1人) のインタビューを中心とした記事。中国共産党が、海外在住の中国人をどのようにコントロールしているのかが詳細に語られます。

 

www.irishtimes.com

<翻訳ここから↓>

フェイスマスクを付け、ミラーレンズ・サングラスを掛け、黒い野球帽を目深に被った姿で、取材の相手が現れることは稀だ。しかし、これが、今回取材に応じてくれた、香港の民主運動を支持する3人の恰好だった。2人が香港出身、1人が中国本土出身。全員がダブリン在住だ。

 

「彼らは人を殺している」。取材が始まってまもなく、香港出身の女性がそう言った。「それが今起こっていること。香港政府。警察。彼らはほんとうに人を殺している」

 

アイルランドのメディアの取材に応じたことがバレたらどうなるのか。3人ともそれを心配していた。1人は、ダブリンで行われた抗議運動に参加した写真が中国のソーシャルメディアに投稿されたため、仕事を失うという経験を既にしていた。経営者は中国人だった。

 

この2週間、アイリッシュタイムズでは、北京政府当局に気付かれないように注意しながら、アイルランドに住むチベット人および香港人のコミュニティの話を聞いてきた。中国北西部の新疆出身のウィグル人(チュルク系ムスリム)もアイルランドに小さなコミュニティを作っているが、取材を受けてくれる人はいなかった。

 

中国政府は、少なくとも100万人のウィグル人と他のチュルク系ムスリムを、抑圧作戦の一環として、再教育収容所に収監していると考えられている。

 

「故郷に残る家族に深刻な影響が出ることを恐れ、海外在住のムスリムは迫害について語りたがらない。激しい迫害による恐怖はそれほどまでに広がっている」。クロンスキー(ダブリンの地域名)にあるイスラム文化センターのアリ・セリム博士はそう言う。ここのモスクにはウィグル人も何人か通っている。

 

中国に家族を残している人にとって、北京政府が認めない意見を表明する人物だと認識されることは、重大な事態の発生につながる可能性がある、と活動家たちは主張する。アイルランドに住んでいるのであれば、家族のもとを訪れるためのビザを取得するのが難しくなるかもしれない。アイルランドで何かを言うと、中国に住む家族が罰せられるかもしれない。そう彼らは主張する。そして、アイルランドに住む人は、中国に帰った後、自分の身に何か起こるのではないかと恐れることもある。

 

今週、中国共産党 (CCP)の文書が流出した。「中国電報(The China Cables)」と名付けられたこの文書は、新彊で何が起きているのかについて 、新たな知見を提供する。

 

この機密文書を手に入れたのは、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)だ。ICIJは、アイリッシュタイムズを含むメディアパートナーとこの文書を共有した。

 

この文書により明らかになったことの1つは、新彊での作戦の一環として、中国政府がどのように国際的な外交ネットワークを使っているのか、ということだ。

 

流出した文書によれば、中国の大使館や領事館のネットワークと関わった海外在住の新彊出身者には、コンピュータ化された監視システムによって要注意のフラグが立てられる。海外に住んでいるというだけで、彼らやその家族は疑いの目で見られ、拘留の候補になるのだ。

 

香港のデモ参加者を支持する本土出身の中国人男性は、アイルランドのより広範な中国人コミュニティも、監視ネットワークの一部であると信じている。「中国のスパイがたくさんいる」と彼は言う。頼まれたからスパイをする者もいるし、中国と中国共産党を愛しているからスパイをする者もいる、と彼は言う。「彼らは、中国と党を同じものだと見ている。しかし、党は非常に邪悪だ。それは独裁政治だ」

 

民主化を求めて抗議する3人は、香港で逮捕された人が、新彊と同様に再教育キャンプに送られることを恐れている。「将来どうなるのか、私たちにはわからない」。香港で育った1人は、英国統治下の学校ですら、中国の歴史について真実を教わらなかった、と言う。「中国共産党は、第二次世界大戦中の日本よりも多くの中国人を殺してきた。誰もこれを知らない」

 

アイルランドに住む教育を受けた中国人ですら、真実を知ろうとしない。「彼らは、アイルランドにいるときも、自由に話すことを恐れている。彼らは洗脳されているのだ」

 

南ダブリンのカフェで、現在はダブリンに住んでいるチベット出身の2人の男性が、匿名を条件に取材に応じてくれた。2人とも家族がチベットにいる。

 

チベットは、中国西部に位置し、新彊のすぐ南にある。新彊と同様に、ここ数十年で、チベットにも多数派民族の漢族が大量に移住してきた。また、これも新彊と同じだが、チベットは、分離を希求する感情やダライ・ラマへの忠誠心を恐れる北京政府による大規模な監視および抑圧政策の対象となっている。

 

「新彊では最近始まったが、チベットで何年も前から行われてきた。私はここに X 年住んでいるが、家族はチベットにいる。勇気を出して家族に連絡したことは一度もない」

 

10年か、それよりもう少し前、状況が改善されたことはあった。しかし、2013年に中国国家主席の習近平が中国共産党のトップに登り詰めて以降、状況は悪化した。

 

「電話は常に盗聴されていたが、今では統一戦線プロパガンダチームが村を回って質問するようになった。息子はどこにいる? 善い振舞いには褒美が与えられる [悪い振舞いは罰せられる]。アイルランドに住んでいて、政治的な活動をしていなくても、ダライ・ラマの話を聞きにいくだけで、家族が危険に晒される可能性がある。彼らは家族に警告するのだ」

 

家族に会いに戻るためにビザを取得するのも難しくなる可能性がある。家族は、訪問者が「母国を不安定化し、社会の調和を乱す」ことがないという手紙に署名する必要がある。家族はそれを保障する必要があるのだ。

 

「私は一度も帰っていない。私にとって、家族に連絡するのはつらいことだ。私は自由な世界におり、家族はそうではない」

 

彼らには、中国本土出身の友人がアイルランドにいる。

 

「彼らは、[中国が]チベットを貧困から救っているのだと信じている。彼らは、自身をチベットの救済者だと考えている。彼らは、文化大革命で[チベットの]数多くの文化遺産がどのように破壊されたか、そして現在も破壊されているか、理解していない。彼らは、それはアメリカのプロパガンダだと言う。そして、私たちのことを帝国主義の犬だと呼ぶ」

 

中国当局は、中国人とアイルランド人の団体や学生グループを利用している、と活動家は主張する。こうした組織には、中国共産党の人が入り込み、全員に目を光らせている、と彼らは言う。「こうした方法で、国外に住む中国人を操っている。露骨な方法ではなく、わかりにくい方法で」

 

すべての文化交流団体が、こうした行為に関与しているわけではない。しかし、大きな議論を巻き起こしてきた団体が1つある。アイルランド支部もあるその国際ネットワークの名前は、中国学生学者連合会 (CSSA)だ。現地のCSSAは、中国国外で研究・実務に勤しむ中国人学生および学者に有益な支援を提供する。しかし、ワシントンDCに本拠を置く米中経済・安全保障問題検討委員会の昨年の報告書によれば、忠誠心を推進および監視するために中国共産党がこの組織を利用している。

 

報告書によれば、CSSAは「中国大使館や領事館を介してCCPからガイダンスを受け(こうした政府とのつながりは隠されることが多い)、北京政府の統一戦線戦略に沿った中国の海外活動に積極的に関与している」

 

ベルリンにある世界公共政策インスティチュートが昨年発表した『権威主義の前進(Authoritarian Advance)』という報告書には、CSSAの欧州ネットワークに関する情報が詳細に記載されている。「CSSAは、中国政府が神経を尖らせる活動に参加した中国人学生を、中国大使館に報告している」と報告書は言う。「こうした学生や中国にいる彼らの家族は、中国当局者からの強迫という報復を受ける可能性がある」

 

ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン、アイルランド国立大学ゴールウェイ校、ダブリンシティ大学、ウォーターフォード工科大学にCSSA の支部がある。この組織のアイルランドのWebページは、ダブリンにある中国大使館のWebサイトの一覧にも掲載されている。アイルランドの支部に電子メールで問い合わせたが (Webサイトには電話番号が記載されていない)、この記事を印刷に回すまでに応答はなかった。

 

ベルリンのシンクタンクは、中国という一党支配の国家を海外の中国人コミュニティと区別することが重要であると指摘する。しかし、報告書によれば、中国共産党の考えは逆だ。党の関心が、すべての民族的中国人の関心と同じであると示すことができるからである。

 

この記事で指摘した点について、ダブリンの中国大使館に問い合わせたところ、次のような回答があった。「私たちは、どこに住んでいようと、中国のどこの出身であろうと、すべての中国人の表現の法的権利を尊重する」

 

回答は続く。「言論の自由が他の中国人によって脅かされているとあなたに話した中国人については、残念ながら、被害妄想の症状が出ているか、意見を異にするアイルランド在住の大多数の中国人を貶め、中傷することで、同情を引こうとしているのだろう」

 

“ケイト” は、香港出身で、何年もダブリンに住んでいる。彼女の家族は香港にいる。彼女は、自分は民主主義派ではなく、独立支持派だと言う。「だから、中国人に私のことが知られるのはとても怖い」

 

彼女にとって、中国は国ではなく、チベットを含む56の国からなる帝国だ。彼女は、新彊 (”新しい領土” を意味する) と言わず、東トルキスタンと言う。それがより適切な名前だと思うからだ。「中国人の友人を持つのはかなり危険なこと。私は彼らを中国人工作員だと考えている」。ほとんどの中国人は、香港独立を支持する人を 売国奴と見なしている、と彼女は言う。

 

「私は、アイルランドにいる中国人は諸手を上げて中国共産党を受け入れていると思う。彼らは中国共産党を愛している。中国共産党がなければ、中国は貧しいままだったと考えている。台湾、香港、チベットの独立運動に反対している。中国共産党を支持している」

 

彼女はこう続ける。中国人は中国共産党が崩壊すれば、中国も崩壊するのではないかと恐れている。そして、それは彼らにとって悪いことだ。彼らは、中国共産党に権力の座に居続けてほしいのだ。

 

「左派は、自分のことを反帝国主義者だという。しかし、中国の帝国主義には目をつぶる。パレスチナ、カタルーニャ、クルドについて語る人々を見てきたが、彼らがウィグル人を支持しているようにはまったく見えなかった。彼らは単に知らないだけなのか、それとも何も起きていない振りをしているだけなのか?」

 

「誰が最大の憐憫に値するかという競争をしたいわけではない。東トルキスタンの死もパレスチナの死も同じだと言いたいだけである」

 

これは、中国が中国共産党に支配されているためではないか、と彼女は考えている。「ソ連は崩壊した。もし、中国が崩壊したら、左派イデオロギーはもうもたない。たぶん。しかし、これは一種の偽善だ」

 

アイルランド国会の Webサイトによれば、上院と下院を合わせてウィグルという語は4回言及された。新彊は0回、クルドは25回、カタルーニャは12回、パレスチナは25回だ。

 

トリニティ大学ダブリンで中国の歴史を教えるイザベラ・ジャクソン准教授によれば、西洋に来て、西側メディアや政治的議論に触れた多くの中国人は、中国をより肯定的に見るようになるという。

 

「中国人は、自国メディアがニュースや時事問題を非常に肯定的に取り扱うのに慣れている。そして、西側のメディアでは、悪いニュースが毎日報道されることに驚く。西側の社会のうまくいっていないさまざまな点を知るようになる。これにより、中国政府は一般的に正しいことをしているのだという意識が強化される。慣れ親しんだ中国文化に回帰することが安らぎになる場合もある」

 

政治的および歴史的な問題について、独善的な国家主導の単一の見方に縛られるのではなく、複数の解釈の存在が許されるのだということを中国人学生が理解するには時間がかかる場合がある、とジャクソン准教授はいう。

 

「新彊における少数民族の処遇などの問題について、中国政府の主張と異なるニュースを聞いた場合、中国人は最初、それは西側のプロパガンダの結果であると考えることが多い」

 

「共産党国家のナラティブに疑問を持ち始める人もいるが、矛盾する中国と西洋のストーリーのどちらが正しいか判断できないため、ニュースソースをまったく信じなくなる人もいる」(了)

 

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