UK総選挙: ダグラス・マレーのコラム「英国の分断は、北 vs 南でも、赤 vs 青でもない。醜く非寛容な左派とその他の人々との間の分断である」を訳してみた

 

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20191212(木曜日)に行われたUKの総選挙は、ご存じのように保守党の圧勝に終わりました。これで来年1月末のブレグジットはほぼ決定。歴史的大敗を喫した労働党のコービン党首は辞任。自由民主党党首のジョー・スウィンソンは、獲得議席数こそ1減と踏みとどまったものの、本人が落選して、こちらも党首を辞任しました。

 

 

なぜ労働党は敗れたのか。選挙結果を受け、『西洋の自死』の著者であるダグラス・マレーが、ディリー・メール紙におもしろいコラムを書いていたので訳してみました。題して、「英国の分断は、北 vs 南でも、赤 vs 青でもない。醜く非寛容な左派とその他の人々との間の分断である」。

 

www.dailymail.co.uk

 

(翻訳ここから)

 

私たちの国に厄介な分断が新たに生じている。しかし、それは、人々が想像するような分断ではない。それを最もよく表したのが、ロンドン西部のパトニー(Putney)の選挙結果だ。裕福な人々が住むパトニーは、労働党が保守党から議席を奪った数少ない選挙区の1つである。

 

パトニーには、ケンジントンやチェルシーと同様に、100万ポンド(15000万円)を超える法外な値段の家が立ち並んでいる。労働党が政権をとれば、ここに住む人々の税金は跳ね上がるだろう。それでも、この選挙区の有権者は、ジェレミー・コービンやジョン・マクドネル(訳注: 労働党の国会議員、影の内閣の財務大臣)が約束する社会主義者の実験に投票することを選んだ。そして、そうすることで、すべての定説を覆した。

 

その一方で、ダービーシャーのボルソーバー(Bolsover)などの選挙区では、これまで聞いたことがないことが起こった。この選挙区選出のデニス・スキナーは、半世紀近くにわたって労働党の国会議員を務めており、ボルソーバーは労働党の牙城の代名詞であった。

 

ボルソーバーでは、瀟洒なセミデタッチトの家が10万ポンドで買える。これはパトニーの10分の1の値段である。しかし、左を向いたのがパトニーであり、右に向かったのがボルソーバーだった。(訳注: セミデタッチトの家とは、2つの世帯が中央の壁で区切られた1つの建物に住むような設計の家。日本では俗にニコイチと呼ばれ、公営住宅のイメージが強いが、イギリスでは中産階級のエリアでも普通にある)

 

先週の桁外れの大混乱を、左右の対立だと捉えるのは正しくない。

 

ほんとうの分断は、人々の意思を実現することに取り組んでいる保守党と、3年半にわたってそれを覆すことに専心してきた2つの左翼政党の間に生じている。

 

それは、現実世界の懸念を持つ人々と、ニッチでほとんど重要性のない懸念を持つ人々との間の分断だ。政府がどのような統治を行うのか、国民の暮らしはどうなるのか、大量の移民はどうあるべきなのかなどについて懸念を持つ人々と、そうしたことに気付いたというだけで、彼らを時代遅れで偏狭だと怒鳴りつける人々との間の分断だ。

 

どうしてこんなことになってしまったのか、とあなたは尋ねるかもしれない。そのヒントは、木曜日の破滅的な敗北に対する労働党の機能不全の反応にある。

 

保守党の地滑り的と言ってよいほどの勝利の後でも、労働党の実権を握る左翼装置は、何も学ばないことを選んだ。

 

彼らはこの機会を、自省のために使ったり、新しい分断にどうアプローチするかを考えるために使ったりはしない。彼らは、これまでと同じ言葉を繰り返す。しかも、ボリュームを上げて。

 

その完璧な例が、自称エコノミストで、コービンのフルタイム応援団員であるグレース・ブレークリーだ。彼女は、金曜日にITVの『Good Morning Britain』に出演し、視聴者に向けて「コービンは神」的なマントラを唱えた。彼女の親愛なる指導者が党を歴史的な敗北に導いた数時間後、労働党の「民主的に策定された」政策は「信じられないほど人気が高い」とテレビ番組で盲目的に主張したのである。

 

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スタジオにいた他のゲストは、労働党のジャッキー・スミス元内相も含め、彼女の意見に反対した。しかし、ブレークリーは別の宇宙に住んでいるかのようだった。

 

「この国の人々は、相当に急進的な左翼思想を支持している」と彼女は叫んだ。スタジオが紛糾する中、ブレークリーは品位のかけらも見せなかった。ピアース・モーガンやその場にいる全員に対し、「彼らは支持している」と繰り返し叫んだ。

 

これが示すことはただ1つ。ブレークリーのような人々が負けを認められないのには理由がある。彼らに同意しない人に会ったことがないのだ。

 

いや、ソーシャル・メディアでは会うこともあったかもしれない。だが、そこでは、簡単にフレンド解除したり、ブロックしたりすることができる。だが、英国の有権者全体を無視するのは、それよりもずっとずっと難しい。

 

しかし、これが起きてしまった。近年、ブレークリーのような英国左派の一部は、非常に注意深くエコー・チェンバーを構築し、その中に閉じこもってしまった。

 

このチェンバーの中では、英国一般市民の大部分の考え方を、一貫して無視することができる。その最たるものが、2016年の国民投票の結果だ。

 

このロンドンを中心とした小集団は、そのプロセスにおいて、この国に住むほかの人々を置き去りにした。

 

これが、英国の政治に存在すると以前は言われていた分断 ( vs 南、赤vs )が、完全に取って代わられた理由である。現在の分断は、急進的左派とその他の人々の間にある。(訳注:赤と青は、それぞれ労働党と保守党のシンボルカラー)

 

こうはならない選択肢だってあったはずだ。2015年の総選挙でエド・ミリバンド(訳注: 当時の労働党党首)が失敗した後、その敗北の主な教訓は「急進性」が足りなかったことだと結論付ける必要はなかったはずだ。しかし、彼らが党首に選んだのはコービンだった。それこそが彼らがやったことだ。

 

2016年の国民投票の後も同じだ。以前であれば、労働党も自由民主党も、こうした結果を受け入れていただろう。しかし、私たちの歴史で初めて、こうした政党の実権を握るカルト集団が結果を受け入れないことに決めた。結果を無視しただけでなく、一般大衆をばかだ、無知だと嘲笑って侮辱し、だまそうとした。

 

2回目の国民投票を求めるキャンペーンを「People’s Vote (人々の票)」と名付けるなどの仕掛けを弄する彼らは、私たちは鈍いから彼らが何をしているのか気付かないと思っているのだ。

 

彼らは、私たちの政治をシンプルな二項対立に落とし込んでしまう。「希望」か「恐怖」か。レイシズムか寛容か。国民医療サービス(NHS)を潰すのか救うのか。

 

加えて、微小な問題に取り組み始めたことで、彼らは一般大衆の支持を完全に失った。木曜日の潔くない敗者をもうひとり紹介しよう。ジョー・スウィンソンだ。今では自由民主党の 党首となった彼女は、投票日の前日にBBCラジオ4の『Today』という番組に出演し、英国有権者の約0.01%にしか影響しないことについて話した。トランスジェンダーの人々のために、自由民主党はパスポートの性別欄に “x” を付け加えるというのだ。(訳注: M - 男性、 F - 女性に加えて、どちらにもあてはまらないと思う人向けに x を用意するということ)

 

スウィンソンのエコー・チェンバーでは、こうした物事をきちんとすることが重要なのだ。一歩間違えば、 Twitterで焼かれる。その後もスウィンソンは、生物学的な性は社会的構成概念に過ぎず、人は男性か女性のどちらかであると信じる人々はトランスジェンダーの人を悪魔化しているのだという主張を延々と続けた。これ以上にニッチな問題を想像することは難しい。

 

それからほんの数日後、自身の選挙区の開票所で、イースト・ダンバートンシャーの有権者が彼女を下院議員に再選しなかったことにスウィンソンが顔色を失くす様は、ほんとうに美しい光景だった。彼女はお馴染みの態度で、「暖かさ」「寛容さ」「希望」に反対した人々を責めた。しかし、彼女は149票差で敗れた。皮肉なことだが、もし彼女がイースト・ダンバートンシャーの人々に対して、もう少し寛容さと暖かさを示していたなら、彼女は今でも国会議員を続けていられたのではないか。

 

私はたまたま、この国の大多数の人々と意見が同じである。私は、長年にわたって、左翼のロボットたちを間近で見てきた。公会堂や放送局のスタジオで彼らと同じテーブルに座り、一般大衆と同じような侮辱を彼らから受けてきた。

 

彼らは私のことを「ちんけなイングランド野郎(Little Englander)」と呼んだ。私がたまたま、イギリスはEUの中ではうまくいかないと考えていたからだ。彼らは私のことを「レイシスト」「くず(scum)」と呼んだ。移民が非常に多いことを私が懸念したからだ。彼らは私のことを「偏狭な人間(bigot)」「トランス嫌悪(transphobe)」と呼んだ。私が、生物学的な性など存在しないというふりをすることを拒んだからだ。(訳注: Little Englander - 元々は、19世紀に大英帝国の拡大に反対した自由党の一部を指した言葉。最近では、イングランドのナショナリスト、または外国人を嫌悪する人や過剰なナショナリストに対する侮蔑語として使用される)

 

こうした仕打ちを受けた後、その前よりも彼らに票を入れたいという気持ちには私はならなかった。一般市民も同じではないかと思う。

 

言うまでもなく、このメッセージはまだ彼らに届いていない。

 

木曜日の出口調査の結果が発表された直後、元ジャーナリストのポール・メイソンは、保守党の勝利が示すのは、「若者に対する老人の勝利であり、有色人種に対するレイシストの勝利であり、この惑星に対する利己主義の勝利である」と宣言した。

 

金曜夜のウェストミンスターのデモでは、負けを受け入れられない人たちが、警察を攻撃し、民主主義を侮辱した。

 

(ボリス・ジョンソンが)惨たらしい死に方をすればいいのにと思う」と、雄弁な若い女性のデモ参加者がカメラに向かって言った。「私はNHSで働こうと思っている。私は医者になろうと思っている。人をほんとうに大切にしようと思っている」。信じがたいことに彼女はこう続けた。「くそったれ(Go f*** yourself)のボリス・ジョンソン。心の底から言うわ。このくずが(What a c***)

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現在の英国に分断が存在するのは事実だ。しかし、それは過去の分断のどれとも似ていない。それは、都市に住む醜く非寛容な左派とそれ以外の人々との間の分断だ。そして、木曜日に美しい形で示されたように、彼らよりも私たちの方が数の上では勝っている。

(翻訳終わり)

 

 ダグラス・マレーの著書:『西洋の自死: 移民・アイデンティティ・イスラム』東洋経済新報社、2018/12/14発売、価格 3080(税込み)

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