チェルシー・センディ・シーダーが消し去りたい米軍の過去

 

チェルシー・センディ・シーダー (Chelsea Szendi Schieder) は、ラムザイヤー論文の撤回を要求している歴史家グループの1人である。米国コロンビア大学で日本現代史の博士号を取得している。現在は青山学院大学の准教授である。

 

シーダーは、「The History the Japanese Government Is Trying to Erase」(日本政府が消そうとしている歴史) という記事をザ・ネイション誌に寄稿した (2021年5月26日公開)。日本政府や右翼が第二次世界大戦時の歴史を変えようとしていると主張する記事である。

 

この記事の中でシーダーは、青学の自分の生徒たちが慰安婦について教えられていないことを嘆いてみせる。戦時の国家が何をしたか教えないと、ミソジニー(女性差別)やレイシズム(人種差別)がはびこることになるというのである。

 

では、翻ってアメリカはどうなのか。約10,000人の女性が第二次世界大戦直後の沖縄で米兵にレイプされた。ノルマンジー上陸後のフランスでも数多くの女性が米兵にレイプされた。これらの事実はアメリカの高校で教えられているのだろうか。そうは思わない。

 

高校生どころか、コロンビア大学で博士号まで受けたシーダーすらこうした事実には頬かむりをしたままだ。記事の中でシーダーは連合軍の中にあったミソジニーに言及している。しかし、日本軍の「慰安婦」制度の全容の解明が遅れているのは連合軍のミソジニーによるものだとするだけで、米軍を始めとする連合軍が積極的に犯したレイプ等の性犯罪には一切触れていない。

 

日本の「慰安婦」制度を非難するにあたって、シーダーが記事中で触れる内容には説得力が欠けるものも多い。

 

  1.  いわゆるスマラン慰安所事件の犠牲者を一般の「慰安婦」と混同しているか、読者に混同させようとしている。スマラン慰安所事件は軍の命令に背いた明らかな犯罪である。詳細は、こちらに記した。

  2. 慰安婦の数を 5万人から20万人と書いているが、20万人というのは「挺身隊」が基本的に工場勤務に送り出された女性を指す言葉であるのに、それを「慰安婦」と勘違いしたことで出てきた数字である。これは間違いであることが証明されて久しいのだが、シーダーはいまだにこの数字を持ち出している。

  3. 裁判で「慰安婦」関連記事を捏造したと認定された元朝日新聞記者の植村隆を、極端な例を持ち出すことによってハラスメントの純粋な被害者のように描写する。記事を捏造したことには触れられているが、植村に対立する人間の発言として引用されているだけなので、記事の捏造がほんとうに認定されたことなのかどうか読者には分からない仕掛けになっている。

 

シーダーは、こうしたあやふやな「事実」を書き連ね、さらにストローマン論法を駆使することで、戦時の日本軍や現在の日本政府、そしてラムザイヤーを支援する人々を悪魔化しようとする。

 

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第二次世界大戦時の沖縄やノルマンジーで米軍兵士がひどい性犯罪の加害者だったことは既に上に書いた。そのことで、私が Whataboutism (そっちこそどうなんだ論法) を使っていると思われる方もいるかもしれない。だがそれは違う。

 

ノルマンジー上陸後の米軍兵士による現地女性への性犯罪において、強姦犯に占める黒人の割合は非常に高かった。その理由の1つは、米軍上層部が責任逃れのため「レイプは米軍の問題ではなく、黒人の問題だ」というイメージ操作を行う意図があったからだ。

 

1940年代の話だから軍にも被害者の側にも偏見はあった。名ばかりの裁判では、黒人が被告の場合は被害者のフランス人女性の証言が信用されたし、白人が被告の場合は被告の証言の方が信用された。「黒人は性欲が強い」という当時はびこっていたステレオタイプのイメージも利用された。

 

強姦犯は有罪になると、公開で絞首刑になった。処刑の場所は、犯罪が行われた地域。住民の心をなだめるためだ。メアリー・ルイーズ・ロバーツの『兵士とセックス』に記載されたある事例を次に紹介する。

 

憲兵が被害者の前に12人の黒人兵士を並ばせ、ただちに確認するよう迫った。女性がようやく1人の兵士を指さすと、兵士は即刻、彼女の庭で絞首刑に処せられた。「そんなことするなんてひどすきます!」。恐怖におののいた彼女は叫んだ。

 

私は別にアメリカはレイシストの国だと主張したいためにこれを書いているわけではない。70年以上前の話だし、今の基準で過去のことを断罪するつもりもない。しかし、今でもこのような偏見に満ちた、そして自分ではそれに気付いていないかもしれない人間はどこの国にも存在する。米国も例外ではない。

 

たとえば、ザ・ネイションに上記の記事を寄稿したシーダーである。「日本人は残酷だ」というステレオタイプを増幅し、それを利用しつつ、戦時における女性の性被害という普遍的な問題を、日本人の問題だと矮小化し、自国の汚点を覆い隠す。強姦は米軍ではなく黒人の問題だとした米軍首脳部の精神をいまだに受け継いでいるのがシーダーではないのか。異論を唱える人に「ネトウヨ」などとレッテルを貼る彼女こそ、他人に罪をなすりつけることで自国の黒い歴史を消し去ろうとする偏狭な心の持ち主なのではないか。

 

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魚拓: The History the Japanese Government Is Trying to Erase