tarafuku10 の作業場

たらふくてんのさぎょうば

八坂神社の騒動に関する英国タイムズ紙の記事を批判します

八坂神社の騒動について英国タイムズ紙にリチャード・ロイド・パリー記者が書いた記事を批判します。この新聞記事では、一方の当事者である英国人ガイド氏が潔白な善意の被害者として描かれ、もう一方の当事者である現地女性はモブをけしかけてガイド氏の生活を台無しにした悪者として描かれます。あまりに偏った内容です。全国紙の記事として表向きは公平に見える体裁を整えているだけにたちが悪いとも言えます。

 

具体的に見ていきましょう。

 

1 英国人ガイド氏のガイド業は繁盛していたのか?

記事ではガイド氏のガイド業が繁盛していると書かれています (”a thriving business”)。この記述が疑わしいのは、前回の投稿でも示したとおり、TripAdvisorにおける彼に対する口コミが騒動前から非常に悪かったからです (騒動前に書かれた7件の口コミのうち最低点の星1つが5件)。こうした点については既に現地女性の X アカウントで議論されていましたから、少しリサーチをすればガイド氏のプロとしての姿勢に黄色いフラグが立っていたことはわかったはずです。しかしそれは記事には一切反映されていません。

 

現地女性が動画を撮影し始めたのは会話がヒートアップした後です。つまり、観光客の乱暴なふるまいをSNSにアップして懲らしめてやろうという意図は最初はなかったはずなのです。現地女性の苦情に対してガイド氏がプロフェッショナルな態度で対応していたなら、事態はその場で丸くおさまったでしょう。タイムズ紙の記事には彼のプロフェッショナリズムに疑問を投げかけるような描写はまったくありません。

 

2 現地女性はモブを扇動したのか?

記事には現地女性がモブを扇動したかのように読み取れる箇所があります。「she (中略) appealed her followers to “help” her」(彼女はフォロワーに「助け」を求めた) と書かれている点です (help という単語を囲む二重引用符は原文のまま)。つまり、help は文字どおり「助ける」という意味ではなく、もっと別の意味が込められていると示唆しているわけです。多くの読者は、その別の意味とは「扇動」であると読み取るでしょう。

 

現地女性が動画をアップロードした後、ガイド氏の情報をフォロワーに求めたのは事実です。しかしそれはガイド氏の雇用主に苦情を言いたかったからです。彼の自宅の電話番号や住所が明らかになったのは、彼がたまたま個人事業主で自宅住所を事業所としていたためです。現地女性がガイド氏へのいやがらせを扇動したという事実は認められません。だからこそ help に二重引用符を付けるという嫌らしい書き方をしたのです。

 

3 現地女性を悪役として印象付ける文章作法

さらに、記事では主観的な修飾語を使用して、現地女性を悪役として読者に印象付けようとしています。いくつか例をあげましょう。

 

(A) 「The mysterious Fujino」(謎めいた藤野)。藤野というのは現地女性のハンドル名です。本名かどうかは明かしていないので匿名といっていいでしょう。しかし、タイムズ紙のインタビューには応じているわけですから、「謎めいた」という形容は不当でしょう。記事を読めば女性はかなり詳細に事情を話していることがわかります。2時間にわたって対面でのインタビューだったそうです。そうしたインタビューをした上で 「謎めいた」などというのであれば、それはパリー記者のインタビューのスキルが足りないのではないでしょうか。インタビューを実際に行ったのはパリー記者ではなくスタッフの人だったそうですが、指示をしたのはパリー記者でしょうし、文責は彼にあります。

 

(B) 「she has tweeted unrelentingly about the incident」(彼女はその出来事について執拗にツイートした)。ここで問題なのはパリー記者が “unrelentingly” (執拗に) という副詞を使ったことです。これは明らかにパリー記者の主観。もう少し客観的に書くのであれば「何度も」ぐらいの言葉を使ったでしょう。そして取材対象者をフェアに扱うつもりがあるなら、彼女が何度もツイートした理由についても触れるべきでしょう (女性はガイド氏に差別的な扱いを受けたと感じています)。

 

(C) 「She admits to telling off foreign tourists before」(彼女は以前にも外国人を叱ったことがあると認めた)。ここで問題となるのは “admit” という単語です。日本語訳でもニュアンスは伝わると思いますが、”admit” (認めた) というのは何かよくないことを認めたという印象を与えます。そういう言葉をパリー記者は選んで使ったわけです。say や tell などほかにニュートラルな単語はいくらでもあるのにです。

 

4 最後の段落はガイド氏の言い分の垂れ流し

最後の段落は当然のことながら読後に強い印象を残します。そこにガイド氏の言い分を疑いの目を一切差しはさむことなく掲載しているのです。最後の段落は以下のとおりです。

She wasn’t looking for an apology,” says Sherlock, whose lawyer is preparing to sue Fujino for defamation and interference with business. “She was very menacing. It seemed to me from the beginning that she was looking for some trouble. Something so trivial has had such an effect on our lives. It’s shown me a dark underbelly of Japanese society — there are so many wonderful, lovely, kind Japanese people. But unfortunately these extremist people do exist.

日本語訳

「彼女は謝罪を求めてはいなかった」とシャーロック (注: ガイド氏) は言う。彼の弁護士はいま、名誉棄損と業務妨害で藤野を訴える準備をしている。「彼女はとても威嚇的だった。彼女は最初から揉め事を探していたように私には見えた。些細なできごとが私たちの生活にこれほどの影響を及ぼした。それは日本社会に潜む暗い部分を私に見せてくれた。素敵で素晴らしくて親切な日本人はたくさんいる。しかし、残念なことにこうした過激な人は存在する」

 

第一の問題は、訴訟を匂わせているという記述です。訴訟というのは匂わせるだけで攻撃のツールとなります。ほんとうに訴訟するかどうかもわからない、訴訟しても勝つか負けるかわからない。それでも公権力に訴えるというだけで、何か訴訟に値する被害を受けたのだなという印象を読者に与えることができます。それを言うのであれば、現地女性も警察には相談済みと話しているので、その話も書かなければ公平とは言えません。

 

また、この段落の中盤以降は実質的に現地女性への人格攻撃です。ペリー記者は現地女性に extremist (過激な人) の汚名を着せ、現地女性に反論の機会も与えずに記事を締めくくったわけです。

 

まとめ

現地女性によれば、タイムズ紙はインタビューを申し込んできたときに「公正な視点からの記事」にしたいからと言っていたそうです。しかし、記事を見る限りでは、パリー記者は取材を始める前からどのような趣旨の記事にするか心に決めていたように私には思えます。現地女性にインタビューしたことを、公正な記事に見せかけるためのアリバイとして使ったわけです。このようなことを続けていればメインストリーム・メディアへの信用はますます毀損していくでしょう。ガイド氏がパブリシストを雇って書かせたような内容の記事をタイムズ紙という有力紙がよく掲載したものだと思います。

(以上)

 

 

参考資料

日刊ゲンダイの記事 [魚拓][魚拓2]

modelpressの記事(日系人Youtuberジョー井上) [魚拓]

まとめ (現地女性寄り)  [魚拓]

まとめ (ガイド寄り)  [魚拓]

Japan Today の英語記事 [魚拓]: タイムズ紙の記事とは論調は逆。「動画内では観光客グループの方が明らかに熱くなっている (heated)」と書いてある。また、騒動の 3 日後に八坂神社が鈴緒を夜間は使えないようにする方針にしたことにも触れている。 

 

*記事を信じ込んだ人の例:

[魚拓]

日本語訳「ジャパンタイムズ紙 (訳者注: 英タイムズ紙のまちがい) の八坂神社事件に関する記事によれば、動画を撮影してガイドの身元をあばいた人物は、喧嘩をふっかける相手を探している不機嫌な “地元民” ということでほぼ確定」(Hikosaemon 氏は在日歴の長いニュージーランド出身の男性。日本の話題をキュレーションして英語でツイートしたり、配信したりしている) 

 

*現地女性が X (Twitter) に投稿した取材時のやりとり: (スレッドになっているのでダブルクリックしてください)

[魚拓][魚拓][魚拓][魚拓][魚拓][魚拓][魚拓][魚拓]

 

2024/06/29 追記

JBPress の記事

[魚拓][魚拓][魚拓][魚拓]