「原爆は戦争の終結を早め、日米の死傷者の数を減らすために必要だった」という空々しい議論への反論

私が趣味で訳している PragerU の動画は、基本的にアメリカ人の視聴者を対象にしたものなので、私にはピンとこないものもあるし、まったく同意できないものもある。

 

まったく同意できないものの 1 つがこの原爆投下を肯定する動画である。

 

togetter.com

 

5年ほど前の動画なのだが、いまだにこうした単純な「原爆は戦争の終結を早め、日米の死傷者の数を減らすために必要だった」というような空々しい言い訳が一部の米国人の間では説得力をもっているようだ。

 

この動画への反論を以下に記す。原爆投下に至るまでの連合国側の動きや、降伏に至るまでの日本の動きを詳らかにした、公文書研究者の有馬哲夫氏による「原爆 私たちは何も知らなかった」(新潮新書) を参考にさせていただいた。

 

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動画では、日本が戦争を終わらす気配がなかったというが、これは誤り。(1) 国体 (天皇制) 護持が保証されること、(2) ソ連の仲裁を期待できなくなくなること、この2つが現実になれば日本が降伏する可能性は非常に高く、この情報は米国ももちろんリアルタイムで手に入れていた。

 

原爆を落とすにしても、(1) 無人島などに落として威力を見せつける、(2) 軍事拠点に落として大量破壊する、(3) 市街地に落として大量殺りくする、そして(A) 事前警告あり、(B) 事前警告なしの選択肢があったが、トルーマンは最悪の 3-B を選択した。

 

国体護持の保証をポツダム宣言から削ったのはトルーマンの意向。日本を降伏しにくくさせ、原爆の使用を実現するため。有馬氏は、トルーマンの人種的偏見と、戦後の世界政治を牛耳ろうという野望が、大量殺戮兵器として原爆を使用した理由だと結論付ける。

 

動画では「広島と長崎という主要な軍事的/工業的標的」と言っているがこれも誤り。広島と長崎は市街地。広島の軍需工場は軍服工場/倉庫しかなかった。

 

反論は以上。

 

この動画で原爆投下肯定論を語っているのはウィルソン・ミスカンブルという神父である。彼がほんとうにこの考え方を信じているのか、それとも自分が属するコミュニティーを守るためにあえて汚れ役を買って出るのも宗教人の務めだと考えているのか、そのあたりはよくわからない。