活動家のプロパガンダを鵜呑みにした欧米のジャーナリストや学者が生半可な知識で「慰安婦」問題について発言していたかについて例をあげる。
まず、外国特派員協会 (FCCJ)のデイビッド・マクニール。彼は博士号持ちで現在聖心女子大学でも教えている。
2014年に朝日新聞が吉田清治の捏造を認めたあと、マクニールはFCCJが発行するNo. 1 Shimbun の同年11月号で、ジャスティン・マカリーと共同執筆という形で、2014年になるまで吉田の名前など聞いたことがなかったと書いた。
だが、吉田の名前を知らないなら、マクニールは当時の日本の新聞記事を読んでいないどころか、日本語資料にはほぼあたっていないことになる。たとえば慰安婦に関する基本書の1つ秦郁彦『慰安婦と戦場の性』は吉田に1章を割いている。吉田はクマラスワミ報告にも登場するのだがそれすら読んでないのか。
代わりに彼が参照したのは、元"慰安婦"へのインタビューとナヌムの家だという。インタビューはおそらく活動家が段取りしたのだろう(自分で元"慰安婦"を探す語学力や伝手は彼にはないはず)。ナヌムの家についてはいわずもがな。図らずもほぼ活動家のプロパガンダ通りに記事を書いたと自分で告白したのだ。
さらに、元”慰安婦”の証言には事実に反する点がいくつもある。遠い昔の話でご本人も高齢なのでそれは仕方ないのだが、彼女たちの証言をどれぐらい信用できるかは議論がある。マクニールはおそらくそんな議論も知らないからインタビューを黄門様の印籠のように使えると浅はかにも思い込んだのだろう。
ちなみにマクニールとマカリーのこの記事は、吉田の詐話が世界的な”慰安婦”の議論にほとんど影響を与えなかった証拠として、林香里がまとめた第三者委員会報告書の資料「データから見る「慰安婦」問題の国際報道状況」に採用されている。
余談だが、マクニールはセックスの話が好物だ。慰安婦、伊藤詩織、ジャニーズ、草津など。千一夜物語の艶話を誇張、創作まで加えて訳し、アラブ人は性的にだらしないとイギリス庶民に道徳的優越感を持たせ、性的欲情で植民地支配への協力を動機付けたリチャード・バートン卿を思い出させる。
もう1つの例はエイミー・スタンリーである。ラムザイヤー”慰安婦”論文のキャンセル活動を行った5人組の中心人物。アメリカ人歴史学者。近世・近代日本社会史が専門だが、慰安婦問題については専門外。その彼女がラムザイヤー騒動の初期に投稿したツイートがこちら↓。
翻訳: 私はずっとウォークのキャンセル集団に参加するのは簡単で楽しいと思っていた。たくさんの真剣な読書と歴史ソースの分析、そしてたくさんの内部議論と相互的説明責任が求められるとは思っていなかった。どうやら私は参加する集団を間違えてしまったようね。(ニュアンスとしては真剣に後悔しているわけではなく、いっぱい作業しなければならないことを少しおどけた調子で愚痴っている、または自嘲的な笑いにしながらもいっぱい作業していることを自己アピールしている、といった感じ)
すなわち、スタンリーはラムザイヤーのキャンセル運動に参加する前は、慰安婦問題についてたいして本を読んでいたわけでもなく、それどころかどれくらい本を読まないといけないかすら理解できていなかったということである。まったくの門外漢に等しかったというわけだ。
このツイートにはキャンセル運動が具体的に何かは言及されてないが、その時期やスタンリーが他のキャンセル運動に参加した形跡がないことから、ラムザイヤーの件を指しているとみてまちがいないだろう。
2021年3月、スタンリーは「On Contract」というスマラン事件に関するエッセイを公開した。スマラン事件は吉見ですら軍規違反の犯罪と認める事件なのだが、このエッセイでスタンリーはこうした強制連行が韓国でも組織的に行われていたと読者に信じ込ませようとしている (または彼女自身がそう思い込んでいた)。(魚拓)
スマラン事件では、強制連行されたオランダ人女性の関係者が日本軍の上層部に訴えたところ、被害者はすぐに売春所から解放されている。この事実を Twitter 上で突きつけられたスタンリーは、頭ごなしに「(彼女の主張に異を唱える人は)否定論者のWebサイトばかり読んでいて書物など読まない」と言い放った。まともに本など読まないいい加減な人たちが私(スタンリー)に反論してきている、と言いたいのだ。
ところが、書物を読んでいないのはスタンリーの方だった。スマラン事件については慰安婦問題に関する基本書である秦郁彦『慰安婦と戦場の性』にも吉見義明『従軍慰安婦』にも記載がある。スマラン事件は慰安婦に関心のある人にとっては基本的な情報だが、スタンリーはそれすらよく分かってなかったのである。
スタンリーが慰安婦問題について不勉強であることを自分で証明した例をもう1つあげる。 こちらは「Drinking with Historians」というYoutubeチャンネルにスタンリーがゲスト出演してラムザイヤー論争について語ったときの動画。2021年5月公開。該当箇所は29:00くらい。(魚拓)
ラムザイヤー論文は契約についてなので「慰安婦が仕事を怠けないようなインセンティブを契約に含める」みたいな議論をしているのだが、それをスタンリーは「逃げもできない前線にいるのに仕事を怠ける・怠けないの話をするなんて」と、ラムザイヤーを馬鹿にするようにケタケタ笑いながら話すのである。
ところが当然のことながら戦争は前線だけではない。兵站など戦務部隊のいる後方にも慰安所はあった。たとえば元慰安婦の文玉珠は「週に一度か二度、許可をもらって買い物にいくのが楽しみだった」とビルマにいたころのことを語っている。
それどころか、同じく元慰安婦の金学順は、歩哨の目を盗んできた朝鮮人の男とともに逃げて中国で暮らし始めている。実際に逃げた慰安婦はいたのである。ここでもまた無知だったのは、元慰安婦として初めて名乗り出た金学順の証言すら知らなかったスタンリーの方である。このような人間がラムザイヤー批判の先頭に立っていたわけだ。
ラムザイヤー論争当時、スタンリーはTwitter上でさまざまな発言をしていたのだが、その期間のツイートだけを一括してすべて削除してしまった。理由はわからない。