英国の人種平等対策委員会のトップに任命されたミュニラ・マーザ氏

ミネアポリスで黒人男性が警官に殺されたことを受けて、英国でもデモが各地で発生しています。ボリス・ジョンソン首相は人種平等対策委員会の設置を決め、そのトップにはミュニラ・マーザ氏が任命されました。

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彼女は、イングランド北部のオールダム出身。1978年生まれ。父母はパキスタンからの移民です。ジョンソンがロンドン市長だったときに、教育/文化担当市長代理を務めていました。若い頃は共産主義の政党に参加するなど左翼だったのですが、時を経るにつれて政治志向は変化したようです。ブレグジットでは離脱派。また、アイデンティティ・ポリティクスには非常に懐疑的な態度を示しています。


今回の人選には、英国の左派は不満のようで、ガーディアン紙などは癇癪を起こしたかのように批判記事を書いています。

www.theguardian.com


この批判記事に対する学者さんの反応を2つご紹介します。

シンクタンク研究フェローのラキブ・アサン博士: 「(イングランド)北部出身の優秀なパキスタン系ムスリム女性。そして、アイデンティティ主義者には同調しない。現代英国の左派にとっては最悪の悪夢のような存在。だから、こうした記事がガーディアン紙から出てきたことには驚かない」


ロンドン大のエリック・カウフマン教授: 「平等に関する政策を策定するにあたって、科学とエビデンスが批評人種理論にとって代わる可能性に、ガーディアン紙が動揺している」


ガーディアン紙もひどい言われようですね(笑)。


2017年に英国政府が人種不均衡に関する監査報告書を出したとき、ミュニラ・マーザ氏はBBCの時事番組に出演して、短いインタビューに答えています。彼女の考え方がよくわかるので、そのときの発言を翻訳します。

www.youtube.com

(1:43)
司会: あなたは、政治的スペクトラムのあらゆるところで、反人種差別が武器として利用されていると考えている。これは公正な見方か?


マーザ: この種の報告書は、今日の英国で民族集団がどのように暮らしているかについて、ネガティブなイメージを過剰に強調しがちである。これを人種的な不正という観点でとらえることで、不均衡が存在する理由について非常に誤解を招くようなイメージを拡散している。そしてそれは、民族集団内の怒りや恨みに火を注いでいると思う。


司会: 事実を単に述べているのではなく、怒りに火を注いでいる(fuelling)とあなたが考える理由は何か?


マーザ: 彼らが使う言葉は非常に興味深い。首相は「火急(burning)の不正」と言った。肌の色によって異なる扱いを受けていると。しかし、集団間で不均衡や異なる結果が発生する理由はさまざまである。英国のBME(black and minority ethnic: 黒人および少数民族)の半数近くは国外で生まれている事実を考えれば、言語や資格の問題がある。BMEの大多数は労働者階級の出身で貧困地域に住んでいる。このように、さまざまな要因がある。これが制度における不公正な差別によるものだ、または肌の色のせいだと言うことは、非常に誤解を招く言い方だと思う。実際には、いくつかの集団は平均よりも良い結果を出している。教育機関で(少数)民族集団が良い成績を収めているので、現在は白人集団の方が人種的不正に直面しているのだ、などという奇妙なロジックを政府は使い始めている。誰もが恨みを抱くことを奨励されているようだ。


司会: 誰もが恨みを抱くことが奨励されているとあなたは言うのだが、人種に関する差別は公共部門にはまったく存在しないと言っているのか?


マーザ: いや、そうではない。差別はある。この国にレイシズムはある。しかし、レイシズムの度合いや差別の度合いを誇張することは、誰のためにもならないと思う。報告書で示された不均衡のうちいくつかは、民族集団だけでなくすべての集団に影響を与えるさまざまな要因で説明できると思う。刑務所に女性より男性の囚人の方が多いからといって、ジェンダー的不正があるとは言わないだろう。南アジア系のクリケット選手がサッカー選手より多いからといって、人種的不正があるとは言わないだろう。こうした不条理なロジックは、社会はあなたの味方ではない、あなたは不利な立場に置かれている、努力しても無駄なこと、などのネガティブなメッセージを、特に若者たちに向けて送っていると思う。それが、コミュニティのまとまりや社会の調和にとって良いことだとは思わない。これは道徳的価値観の見せびらかしにすぎず、レイシズムだろう。誰のためにもならない。(4:22)


(7:08)
マーザ: 数週間前にラミー・レビュー(訳注: デビッド・ラミー議員による人種不均衡に関する報告書)が公開されたとき、私はそれについて批判的に書いた。デビッド・ラミーは刑事司法制度に人種的な偏見が存在すると主張する。しかし、この報告書で彼が示したエビデンスはすべて、逆の事実を指し示している。中に入ってみれば、制度は非常に公正である。問題はある。カリブ系黒人集団は逮捕される可能性が高い。その原因として、さまざまな社会的理由が考えられる。しかし、制度自体、つまり公共サービスが肌の色によって人々を不公正に扱っていると主張することは、基本的には白人の担当者が民族によって人を不公正に扱っていると主張することであり、それは非常に害が大きく、公共サービスへの信頼を破壊し、こうした民族集団に属する若者を疎外する。率直に言って、統計の背後にあるものをより正確に語ることを阻むような形で統計を利用することは無責任である。
(8:13)
(翻訳ここまで)


また、2018年12月にはポッドキャストの「TRIGGERnometry」にも出演して1時間ほど話しています。こちらは私もまだ全部は見ていないのですが、リンクを貼っておきます。

www.youtube.com


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