アメリカの日本近現代史の先生たちはなぜラムザイヤー論文にあれほど強い拒絶反応を示すのか?

 

 

マグヌス・ヒルシュフェルトの『戦争と性』を読んでいるのだが、宮台真司の解説が付いていて、その中になぜアメリカの日本近現代史の先生たちがラムザイヤー論文にあれほど強い拒絶反応を示すのかを理解するためのヒントとなるようなことが書いてあった。

 

ヒルシュフェルト(1868-1935)はドイツの医師・性科学者。『戦争と性』は、第一次世界大戦時の欧州における性愛関連の振舞いについて詳細につづった本である。

 

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宮台「ドイツが第一次世界大戦で採った国家による管理売春は、兵站としての性の提供であり、性病と暴力の管理を目的としました。この図式は第二次大戦期やその後にかけて広がりを見せましたが、米国だけはこれを採用しませんでした」。理由はピューリタニズムとコストの削減。

 

日本は米国に占領されたので、第二次大戦直後は例外的に米国の枠組みを受け入れた。そのしわよせを深刻に被ったのが沖縄。沖縄の女性が多数、米兵士による性暴力に遭い、死んだので、沖縄民政府は米国に慰安所の公設(すなわち暴力の管理)を要求したが、米軍は断固拒否。

 

仕方がないので沖縄民政府は保健所を通して業者による管理売春を利用して性病を管理しようとした。女性達をできるかぎり業者に所属させ、性病について啓蒙し、コンドームを配るなど、沖縄民政府が多大な負担を負い、米軍はそれにタダノリした。ベトナムでも図式は同じ。

 

宮台は言う。「(米軍は)コストを削減し、税金で売春宿を公設することへのピューリタン的批判をかわしたのです。極めてエゴセントリックな動機です」。 アメリカの先生方の「戦場における性サービスの提供」に対する強い拒否反応は、宮台さんのこの解説を読むと腑に落ちる。

 

たとえば、ラムザイヤー論文に対して反論を書いた学者の1人、エイミー・スタンレー (米国ノースウェスタン大学歴史学教授) は次のようなツイートを投稿している。

 

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https://twitter.com/astanley711/status/1390064862110302208

日本軍が刀を突きつけて処女を誘拐したのであろうが、食堂での仕事を約束して女性を募集したのであろうが私の知ったことではない。たとえ、日本軍が志願者を募ったのであろうと知ったことではない。女性を戦場につれていって集団強姦したりしないこと。以上。

 

これに続くツイートでスタンレーは、「これは人道に対する罪である (That is a crime against humanity.)」 とも述べている。すなわち、彼女にとって、軍隊と売春が関与するものはすべて、働く女性が誘拐されたのであろうが、自発的に応募したのであろうが、人道に対する罪なのである。この罪を免れる方法は何か。米軍が採ったように、軍が売春に関与しないこと。すなわち、暴力の管理を放棄することである。宮台も言うように、これは極めてエゴセントリックな動機といえる。

 

ヒルシュフェルトは「経済的理由で売春を余儀なくされた女性たちを不憫だと述べ、戦時の国家が(中略)女性の自由意志を利用していた」ことを記すが、「暴力的な強制や人身売買を防ぐために国家による管理買収が有効」だとする。だが、次のツイートに見られるように、こうした言葉はスタンレーにとっては馬の耳に念仏である。

 

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https://twitter.com/astanley711/status/1387728592386265090

日本のナショナリストが "慰安所" の設置が民間女性のレイプを「防いだ」と主張することほど皮肉なことはない。(レイプを「防いだ」という代わりに、レイプを)「促進した」と言ったほうがいいのではないか。

 

パク・ユハ(朴裕河)の『帝国の慰安婦』には、『あの星の下に』(1981年)という本から、戦後上陸したアメリカ軍の性暴力に関するある女性の証言が引用されている。

 

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私たちにとってもう一つ恐ろしかったものは、私たちの村を我が物顔で歩く米兵たちでした。守ってくれる人の誰もいない未亡人や、か弱き女子、老いたひ弱な女、人妻の誰彼なく、昼夜の別無く肩にかついで連れ去り、暴行するのです。昼間食べ物を探しに行くにも、いつも人影におびえていました。夜は天井裏や床下に隠れて寝ました。(中略)収容所には毎夜、米兵がドカドカ上がって来て、女たちをかついで出ていきました。

 

NYタイムズの記事によれば、ある学者は戦後すぐの時期に沖縄で米軍兵士に強姦された女性の数は10,000人にも上るという。

 

www.nytimes.com

 

 

ドイツ軍慰安所についてはこちらのまとめが詳しい。

togetter.com

 

 

余談。2013年に橋下徹大阪市長(当時)が米軍司令官に性風俗活用を求めた件について宮台は、「目の付け所はいいものの、前述した理由で独英仏に要求できることを米国には要求できないという歴史的経緯に無知だったので、空振りしました」とばっさり。

 

 6月30日追記: 論旨を明確にするために若干加筆しました。加筆前のテキストはこちらです→

https://megalodon.jp/2021-0630-0743-48/https://tarafuku10working.hatenablog.com:443/entry/2021/06/27/212950

 

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