先日 (2025年8月30日)、ロンドンの帝国戦争博物館 (Imperial War Museum) に行ってきました。目的は特別展「黙らない者たち: 紛争下の性暴力」(Unsilenced: Sexual Violence in Conflict) を見ることです。
産経新聞によれば、この特別展にはいわゆる従軍慰安婦に関する事実に反する展示が含まれており、日本政府は関係者に対して「強い懸念」を表明し、「適切な対応」をとるよう求めたといいます。同紙の続報では、同博物館は展示の撤去や内容変更には応じない考えを明らかにしたそうです。
この特別展は6つの部屋から構成されています。最初と最後は「イントロ」そして「まとめ」として5人の専門家 (学者やジャーナリスト) がビデオで観覧者に語り掛けるという形なので、実質的な展示は4つ。それぞれ「構造と表象」(Structures and Representations)、「行為と現れ」(Act and Manifestation)、「正義と和解」(Justice and Reconciliation)、「再建」(Rebuilding)と名付けられています。
最初の「構造と表象」は、戦争において女性の性的なイメージやステレオタイプがどのように利用されたかについての展示です。たとえば、魅力的な女性がいても性病のおそれがあるから手を出さないように警告するポスターがあります。また、秘密保持のために軽率なおしゃべりを慎むように促すポスターで、「女性はおしゃべり」というステレオタイプを用いたものもあります。さらに、敵の兵士の戦意をそぐためにドイツ軍が撒いた煽情的な女性の画像も展示されています。
「行為と現れ」は、実際の性暴力に関する展示です。ここで初めて"慰安婦"に関する展示が登場します。ここでの慰安婦関係の展示は、元慰安婦・金福童の写真と証言テキスト、ビルマの慰安所に掲げられていた「休業」と書かれた木札、兵士に渡された慰安所入場許可証、英国軍が撮影した捕虜収容所の女性 (慰安婦) の写真です。ほかには、ドイツ兵士と関係したとして戦後に丸刈りにされるフランス人女性、イラク戦争時の米兵によるイラク捕虜虐待、第一次世界大戦時にドイツ兵がベルギー民間人女性に対して行った性的暴行に関する展示があります。
「正義と和解」は、紛争後の正義の追求と和解についてです。例の少女像はここに展示されています。また、水曜集会 (日本国政府からの公式謝罪および金銭的・法的賠償を要求するために毎水曜日に在大韓民国日本国大使館前で行われている集会) の写真や資料も展示されています。このコーナーの展示は慰安婦関係が中心です。
最後の「再建」では、戦場の性暴力の被害者をサポートする NGO がいくつか紹介されています。
慰安婦関係の展示についてもう少し詳しくみていきましょう。
「行為と現れ」のコーナー。元慰安婦・金福童の写真と証言テキスト、ビルマの慰安所に掲げられていた「休業」と書かれた木札、兵士に渡された慰安所入場許可証、英国軍が撮影した捕虜収容所の女性 (慰安婦) の写真です。

虜収容所の女性 (慰安婦) の写真には、「forced into sex slavery by the Japanese Imperial Armed Forces」(大日本帝国軍によって性奴隷になることを強制された) という説明書きが添えられています。

「正義と和解」のコーナーには例の少女像があります。正式には「平和の像」(Statue of Peace) と呼ぶようですね。左上には各部位の解説文が添えられています。

1. 短いむらのある髪は、強制的に「慰安婦」にされたことによって少女の子供時代が突然終わったことを表しています。
2. 決然とした表情と握りしめた拳は、日本政府からの正式な謝罪を受け取りたいというこうした女性の強い願いを表しています。
3. 彼女の肩にとまる小鳥は、自由と平和を象徴しています。
4. 裸足は、「慰安所」から逃げないように女性たちが靴を履くことを許されなかったことを示しています。足の裏は完全には床についていません。これは、強制的に性奴隷にされた後、故郷に戻ることができなかった多くの女性を表しています。
5. 誰も座ってない椅子は、この世を去ったハルモニ (おばあさん) を象徴しています。また、この席に座って正義のための戦いに加わるように未来の世代を招待しています。

「正義と和解」のコーナー: 水曜集会の写真や資料

以下、私の感想を書きます。
入口のパネルには、「この展示に含まれるケース・スタディは網羅的なものではない。性的暴力は世界の歴史を通して発生しており、現在も続いている」と書かれてはいるのですが、実際の展示はそれを反映したものではない、つまり偏りがあると感じました。端的に言えば、連合国に甘いという印象です。連合国の犯した性暴力は、ドイツ兵士と仲良くしたことで戦後に頭を坊主にされたフランス人女性の展示とイラク戦争での米軍兵士による捕虜虐待ぐらいでしょうか (「構造と表象」で展示されていたポスターなどにはイギリスのものもあったと思います)。
したがって、第二次世界大戦でドイツ侵攻後にソ連兵が何をしたか、米兵が沖縄やノルマンディー上陸後に何をしたか、フランス軍が北アフリカ人女性に何をしたか、欧州諸国が戦争時に欧州諸国の兵士向けの売春施設がどのようなものであったか、などには一切触れられていません。
慰安婦の展示では、「少女の子供時代が突然終わった」と未成年の少女がさらわれたように書かれている点、強制的に性奴隷にされた点など、事実と異なることが書かれていますし、何より日韓間の慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した2015年の慰安婦問題日韓合意には一切触れられていません。どうやら活動家の主張のみを採用しているらしく、日本側の主張や解決への取り組みは無視されています。
結論としては、こういう博物館や展示において自国を正当化するバイアスがかかるのはある程度は仕方がないとは思うものの、あまりにも一方的な展示だと感じました。
この特別展は2025年11月2日に終了します (公式サイト)。
最後に慰安婦関係以外の展示の一部を写真でご紹介します。







以上
