イギリスの政治学者、マシュー・グッドウィンの「2020年の政治はどうなるか?」という記事を訳してみた

イギリスの政治学者、マシュー・グッドウィンの記事「2020年の政治はどうなるか?」を訳してみた。イギリスのUnherdというオンライン・マガジンに掲載された記事です。

 

昨年、国民的(ナショナル)ポピュリズムはますますその地盤を強固なものにしましたが、それを受けて、グッドウィンが2020年の政治を展望します。

 

unherd.com

 

(翻訳ここから)

2020年の政治はどうなるか?

ドナルド・トランプが勝ち、国民的ポピュリズムは勢いを増し、環境運動は成長する

2020年1月10日

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マシュー・グッドウィン (Matthew Goodwin)

 

政治マニアにとって、2019年は当たり年だった。ヨーロッパでは15件もの国会選挙が行われた。大統領/首相選挙も7件あったし、ドイツやオランダなどでは重要な州レベルの選挙が争われた。欧州議会選挙も開かれ、もちろん、英国ではブレグジットという名の叙事詩が継続中だ。

 

こうした選挙を通じて、私たちは現在の政治状況について多くを学んだ。国民的ポピュリズム(注1)は政治勢力として地盤を固めた。環境保護運動は徐々に力を増しつつある。社会民主主義の窮状は改善の兆しを見せず、欧州の政治制度は引き続き断片化する。さらに、ブレグジットが実現することは今では決定事項となった。

 

(注1: National Populismとは、マシュー・グッドウィンの著書『National Populism: The Revolt Against Liberal Democracy』(P. Eatwellとの共著)では、「国民の文化と利益を優先すると共に、冷ややかで腐敗していることも多いエリートに無視され、軽蔑すらされていると感じる人々に声を与える」ムーブメントと定義されている。右派ポピュリズムに近い意味の言葉であると思われる)

 

こうした状況を背景に、いくつか他のことも学習することができた。世界中の何百万人もの有権者にとって、文化的不安は経済的不安と同様に引き続き意味を持つ。英国の保守党やオーストリアの国民党などの中道右派政党は、左翼政党に比べ、新しい時代の政治により効果的に適応し始めた。左派は、断片化している支持者に示す回答を持っていないように見える。

 

これらを念頭に置いたうえで、2020年がどのような年になるのか、いくつか予想を立てていきたい。

 

英国から始めよう。ボリス・ジョンソンと保守党は、長い蜜月を楽しむだろう。保守党が1987年以来の大差で多数派となったことを受け、ジョンソン首相は間違いなくEU離脱法を成立させる。これにより、ブレグジットが正式なものになるのはもちろんだが、それだけではない。ジョンソンは2016年の国民投票の結果を実現し、2019年の「ブレグジットを終わらせる(Get Brexit Done)」という彼自身の約束を果たしたという手柄を手に入れることになるのだ。さらに、彼のすべての前任者を悩ませた欧州の問題について、真に勝利した唯一の保守党リーダーとなることができる。

 

今年、2010年から2015年までデビッド・キャメロンを首相として支えた層とはまったく異なる有権者を、ジョンソンと保守党がどのようにまとめようとしているのか、その計画が明らかになるだろう。

 

ジョンソンの支持者は、年配で、ワーキング・クラスで、教育レベルが高くなく、大部分が白人で、社会的に保守的だ。このため、移民制度の改革、犯罪、インフラ支出、(ロンドン以外の)地方へのその他の投資などについて、大規模かつ大胆な提案があると、私は予測する。首都以外の場所で、さまざまな動きや発言があるだろう。

 

また、この世代の保守党は、圧倒的多数派であることを梃(てこ)にして、英国の教育セクターやメディアの大部分に浸透した “ソフトレフト” のバイアスに対抗するため、これまで以上に巻き返しに力を入れたいと考えているだろう。文化に関する長期的な戦争に負けているのなら、ブレグジットの戦いに勝ったところで何の意味もないのだ。

 

一方、残留派が再加入派へと姿を変えることは避けられない。しかし、この運動は維持するのが難しいだけでなく、失速してしまうのも時間の問題と言える。若いZ世代(注3)の関心は気候変動に向いているため、ベビーブーム世代が残留を望む気持ちを有効な政治的プロジェクトに変えるのには苦労するだろう。筋金入りの残留派はポッドキャストやツイッターで運動を続けるだろうが、これは主流派とはなりえない。自分が “ヨーロッパ人” であると態度を表明するイギリス人は増えるだろうが、これは意味のある政治的変化につながることはない。

 

(注3: Generation Z は、定義によっても異なるが、だいたい1990年代後半から00年代生まれの人)

 

議席数が1935年以降で最低となった労働党だが、今年は再編成に苦労するだろう。コービン主義は、欧州の社会民主主義が直面するより広範な危機に対する回答にも、米国において民主党の次の一手は何なのかという質問に対する回答にもならないことがわかった。また、経済的ポピュリズム(注4)は、多くの人が考えているほど人気が高いわけではない。経済では左に傾くが、文化とアイデンティティでは右に寄る中道右派のリーダーとマッチアップしたとき、経済的ポピュリズムは毎回のように敗れるだろう。これもまた、11月に大統領選挙を迎える米国に対する1つのメッセージを含んでいる。

 

(注4: Economic Populism : ここでは、経済的エリートに対する「大衆」という概念を強調する政治スタンスを指していると思われる。「ウォール街を占拠せよ」ムーブメントなどが典型。左派ポピュリズムとほぼ同義か?)

 

労働党について言えば、慌ただしく突入した党首選、敗北に対する内省の欠如、党首候補たちの印象に残らないオープニング・スピーチ、支持者内の根深い構造的問題など、これらすべてが指し示すのは、迅速な復調ではない。労働党は、荒野を長くのろのろと彷徨うことになりそうだ。この難しい年において、2020年春の地方選挙も例外とはならないだろう。

 

2020年を見渡すと、ポピュリズムに関していえば、すべての目は米国に集まる。そして、最終的には、おそらくドナルド・トランプが再選されるだろうと私は考える。

 

トランプに不利な要素がいくつもあることは間違いない。選挙人を獲得するための道は険しく、過去と比較してみると、支持率も低調だ。選挙の年に限れば、彼の支持率は1976年のジェラルド・フォード以来最も低い(フォードはジミー・カーターに敗れた)。

 

しかし、トランプにとってポジティブな要素もたくさんある。福音派、熱心な共和党支持者、労働者階級といった有力な支持基盤において、トランプの支持率は非常に高い。そして、少なくとも私の見るところでは、民主党はそもそもトランプがなぜ当選したかを把握しているようにも、彼の支持層を切り崩すために何を言えばいいかを理解しているようにも見えない。マイノリティ集団と熱心な左派活動家を動員するだけでは十分でないのだ。

 

そして、ナラティブだ。トランプには、有権者に語るべきストーリーがたくさんある。あなたは彼の話の内容が好きになれないかもしれない。しかし、アメリカの経済、中国への強硬姿勢、国境を守る取り組み、テロやギャングの暴力の取り締まりなど、彼には語るべきストーリーがたくさんある。それとは対照的に、民主党のナラティブな何なのか? 私にはよくわからない。それに加え、皆さんもご存じのように、2015年にもトランプに強い逆風が吹いていたが、それでも彼は勝ったのだ。

 

欧州の国民的ポピュリスト政党にとって、欧州議会で過去最高の議席数を獲得した昨年は最高の年となったが、この道場荒しのような政治集団の快進撃はまだまだ続くだろう。2019年の英国では、ナイジェル・ファラージはブレグジット党を介して主要政党にプレッシャーをかけ続けた。ブレグジット党が訴えていたオーストラリアのような移民ポイント・システム(注5)の導入と地域間格差解消のための取り組みは、ボリス・ジョンソンの保守党に採用されることになるだろう。

 

(注5: 移民に関するポイント・システムとは、教育レベル、資産、言語能力、能力に合った仕事の有無などをポイント化し、一定の基準を満たした者に移民を許可するシステム。オーストラリアやカナダで採用。イギリスでも採用されているとされるが、あまりうまく運用されていない様子)

 

他の国に目を移すと、新しい政党が頭角を現した。オランダの州選挙では民主主義フォーラム(注6)が躍進し、さらに重要なことに、スペインではVox (注7)が国政レベルで結果を出した。イタリアでは、マッテオ・サルヴィーニと同盟(注8)は、政権の座を降りたものの、欧州議会では同党始まって以来の議席数を獲得し、世論調査でも他党に対して健全なリードを保っている。ベルギーではフラームス・ベランフ(注9)がこれまでで最高の得票率を記録し、ドイツのための選択肢(注10)はザクセン、ブランデンブルク、チューリンゲンの州選挙で躍進した。ポーランドでは、法と正義(注11)が同党始まって以来最高の得票率を獲得した。

 

(注6: 民主主義フォーラムはオランダの政党。「保守」、「右派ポピュリスト」、「欧州懐疑派」などと形容される。2016年発足。2017年、国会第二院に2人当選。2019年の州選挙では最も多数の議員を当選させた政党となった)

(注7: Vox はスペインの政党。「右翼」、「右派ポピュリスト」、「極右」などと形容される。2013年創立。2019年の総選挙で10.26%の得票率を記録し、24人が当選。初めて国政に進出した)

(注8: 同盟はイタリアの政党。かつては北部同盟と呼ばれていたが、2018年に改称。2018年の総選挙後に5つ星運動との連立政権に参加したが、2019年9月に離脱。5月の欧州議会選挙では、議席を24増やして28とした)

(注9: フラームス・ベランフはベルギーの政党。党名を直訳すると「フラームス」の利益。オランダ語系のフラマン語を話すフランデレン知識を基盤とする。「右派ポピュリスト」、「フランドル・ナショナリスト」と形容される。2019年の国政選挙では、議席が15増えて18に)

(注10: ドイツのための選択肢はドイツの政党。「右翼」、「極右」などと形容される。2014年設立。2017年の国政選挙でいきなり第3党となる。2019年の地方選挙でも躍進)

(注11: 法と正義はポーランドの政党。2001年創立。国民保守主義、キリスト教民主主義、右派ポピュリスト。2019年の総選挙で43.6%の得票率を記録した)

 

国民的ポピュリズムは、勢いを弱めるどころか、その地盤をさらに固めた。20年代の始まりにあたって、特に欧州の政治システムが断片化していく中で、永続的な勢力となりそうである。

 

2020年に注目すべき最後の点は、政治的同盟の変化である。ボリス・ジョンソンは、これまでとは異なる看板を掲げた保守主義を導入または再生しようとしているという点で興味深い。この保守主義において、彼の党は、取り残されたワーキング・クラスの人々とある種の同盟を結んだのだ。しかし、これ以外にも目を離せない新しい同盟が存在する。

 

オーストリアの最近の選挙では、緑の党が過去最高の結果を出したが、その後、中道右派の国民党と連立政権を組んだ。そして、興味深いことに、新しい環境税を導入する一方で、移民と統合に関してかなり強硬な立場を取ることにも同意した。すなわち、不法移民を取り締まるための手段や、14歳未満のヘッドスカーフの禁止、罪を犯していないが治安へのリスクと見なされた個人の予防拘留の導入を含む “政治的イスラム” を制限するための手段に賛成したのである。

 

こうした事実すべてが指し示すのは、環境保護運動の勢いが過去に比べて少しばかり上向きになっているとはいえ、フワッとしたナイスな社会リベラリズムのブランドが戻ってくるとは限らないということだ。実際にはその逆で、文化とアイデンティティという非常に重要な問題については、国民的ポピュリズムだけでなく、一般大衆のムードに応える形で、欧州の大部分はさらに右へと向かうだろう。2020年にこの傾向が転機を迎える理由はほとんど見当たらない。

(翻訳おわり)

 

マシュー・グッドウィンの本は日本ではまだ出ていないようですので、英語の本ですがご紹介。『National Populism: The Revolt Against Liberal Democracy』(Roger Eatwell との共著)。2018年に出版。

 

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