「アメリカ人はポリティカル・コレクトネス文化を強く嫌悪している」という米アトランティック誌の記事を訳してみた

「アメリカ人はポリティカル・コレクトネス文化を強く嫌悪している」という記事を訳してみた。学識者による全国的な調査の結果、米国でも圧倒的多数の人がポリティカル・コレクトネス(PC)文化を嫌っていることがわかった、という記事。

記事の要点は以前こちら(↓)にまとめたのでご興味のある方はどうぞ。

tarafuku10working.hatenablog.com

 

この記事は、2018年10月に米国のアトランティック誌に掲載されたもの。筆者は政治学者のヤシャ・モンク(Yascha Mounk)氏。アトランティック誌は歴史の古い雑誌で、リベラル寄りと言っていいと思う。ちょっと古い記事なのですが、80%が嫌っているという数字に私自身びっくりしたし、日本語で参照できるようにしとくのもいいかな、と思ったので訳しました。

 

www.theatlantic.com

 

(翻訳ここから)

アメリカ人はポリティカル・コレクトネス文化を強く嫌悪している

若さはPC支持の指標とならないが、それは人種も同じである。

2018 年10月10日

ヤシャ・モンク (Yascha Mounk)

 

ソーシャル・メディアでは、この国は2つの陣営にきれいに分かれているように見える。それぞれ、「目覚めた人々」(The Woke)と「憤慨した人々」(The Resentful)と呼ぶことにしよう。憤慨した人々のチームは、その多くが男性であり、年配であり、ほぼ間違いなく白人だ。目覚めた人々のチームは、若く、女性の割合が高く、黒人、褐色の肌の人、アジア系が圧倒的に多い (白人の「アライ(支持者)」も忠実に義務を果たすが)。2つのチームは、数の上ではほぼ同じ。そして、最も熱心に、また最も日常的に意見を戦わせているのが、ポリティカル・コレクトネス(PC)と呼ばれる、あらゆる状況を覆いつくす概念についてだ。

 

だが、現実はこれとはまったく異なる。研究者であるスティーブン・ホーキンス、ダニエル・ヤドキン、ミリアム・ホァン=トレス、ティム・ディクソンが水曜日に発表した「隠れた種族: アメリカの二極化した状況に関する研究 (Hidden Tribes: A Study of America’s Polarized Landscape)」という報告書によれば、ほとんどのアメリカ人は、どちらの陣営にも属さない。また、ソーシャル・メディアで毎日のように繰り広げられる争いの陰に隠れているかもしれないが、共通点も多い。そして、その共通点には、PC文化に対する全般的な嫌悪も含まれる。

 

この調査は、「More in Common」によってまとめられた。これは、ブレグジットの国民投票の直前に殺害された英国国会議員のジョー・コックスを追悼して設立された組織である。調査は、全国を代表する8,000人の回答者による世論調査、30回の1時間に及ぶインタビュー、6つのフォーカス・グループという形式で、2017年12月から2018年9月にかけて行われた。

 

報告書を書いた研究者たちによれば、移民、白人の特権の程度、セクシュアル・ハラスメントの広がりなどの問題をアメリカ人がどう考えているか調査したところ、7つの明確な集団が浮かび上がってきたという。それらは、進歩的活動家、伝統的リベラル、受動的リベラル、政治的無関心派、穏健派、伝統的保守派、そして、ひたむきな保守派である。

 

この報告書によれば、アメリカ人の25%が伝統的保守派またはひたむきな保守派であり、彼らの見方はアメリカ人の主流派からは大きく外れる。また、アメリカ人の約8%は進歩的な活動家だが、彼らの意見はこれよりもさらに一般性が低い。対照的に、両極に属さない3分の2のアメリカ人は、「疲れ果てた多数派」である。彼らは、「二極化した全国的な対話について倦怠感を抱いており、自身の政治的見方を柔軟に変える用意があり、全国的な対話において声を代弁してくれる人がいないと感じている」。

 

「疲れ果てた多数派」のほとんどは、PCを嫌っている。母集団全体の80%が「PCはこの国の問題である」と考えている。若い世代ですら、24~29歳の74%、24歳未満の79%が、PCに気まずさを感じている。この特定の問題に関しては、「目覚めた人々」はすべての年代で明らかに少数派である。

 

若さはPC支持の指標とならないが、それは人種も同じである。

 

PCがこの国の問題であると考えている白人は、79%と平均よりもほんの少し低いだけだ。アジア系は82%、ヒスパニック系は87%で、アメリカ先住民(88%)はPCに反対する可能性が最も高い。報告書によれば、オクラホマに住む40歳のアメリカ先住民男性は、参加したフォーカス・グループでこう言っている。

 

「毎朝、目が覚めると、何かが変化しているようだ。「ユダヤ人(Jew)」と言えばいいのか、それとも「ユダヤ系(Jewish)」? 「黒人」それとも「アフリカ系アメリカ人」? 何を言っていいかわからないので、びくびくしている。その意味で、PCはおっかない」

 

今回のデータで部分的に追認できた定説の1つは、アフリカ系アメリカ人はPCを支持する可能性が最も高いということである。しかし、彼らと他の集団の間の差は、一般に思われているよりもずっと小さい。アフリカ系アメリカ人の4分の3がPCに反対している。これは、白人より4%、平均よりも5%少ないだけである。

 

年齢と人種でPCの支持率を予測できないとすれば、何を頼りにすればよいのか? 収入と教育である。

 

年収が5万ドル未満の回答者の83%がPCを嫌っているが、10万ドル超を稼ぐ層でPCに懐疑的なのは70%に過ぎない。大学に通ったことのない回答者の87%は、PCが問題だと考えているが、大学院を卒業した回答者の場合は、66%しかそのように考えていない。

 

PCに関する意見を予測する際にさらによい指標となるのは、報告書の著者が定義した政治的種族である。ひたむきな保守派の97%がPCは問題だと考えている。伝統的リベラルの場合は61%である。PCを強く推す唯一の集団は進歩的活動家であり、彼らの中でPCを問題だと考えるのは30%に過ぎない。

 

では、進歩的活動家とはどのような人々だろうか? 進歩的活動家は、(全国を代表する)世論調査サンプルの残りと比べて、裕福で高い教育を受けており、白人である。年収が10万ドルを超えている可能性は、平均のほぼ2倍である。また、大学院を卒業している可能性は3倍に近い。今回の調査全体に占めるアフリカ系アメリカ人は12%だが、進歩的活動家に占める割合はたった3%だ。ひたむきな保守派という小規模な種族を除けば、進歩的活動家はこの国で最も人種的に同質な集団である。

 

明白な疑問の1つは、人々は何をもって「ポリティカル・コレクトネス」とするのかということだ。長時間の面接とフォーカス・グループにおいて、参加者は自分の考えを述べるという日常的な能力について懸念があるのだということが明らかになった。あるトピックに精通していない場合や、軽はずみな言葉を選択した場合に、深刻な社会的制裁を受けるのではないかと心配しているのだ。しかし、調査の質問では、PCの定義を回答者に示していないので、PCが問題だと考えたアメリカ人の80%が何を念頭に置いていたのかを正確に知ることはできない。

 

しかし、多くのアメリカ人の社会に対する見方は、一般に信じられているほど年齢や人種によってはっきり分かれているわけではないようだ。この説を支持するデータは、他にもたくさんある。たとえば、ピュー・リサーチ・センターによれば、自分がリベラルだと思っている黒人のアメリカ人は26%しかいない。「More in Common」調査では、ラテン系の半分近くが「今日、イスラム教徒がどのように処遇されるかについて、多くの人が過敏になりすぎている」と答えている。また、アフリカ系アメリカ人の5人に2人が「今日、移民はアメリカにとって悪いことである」という考えに同意する。

 

「隠れた種族」報告書が公開される数日前、私はTwitterでちょっとした実験を行った。アメリカ人の何%が、この国でPCが問題だと考えているのか予想してほしいと、フォロワーに頼んだのだ。その結果は、驚くべきものだった。私のフォロワーのほぼ全員が、アメリカ人がPCを拒絶する割合を低く見積もっていた。正解したのはたった6%だった(有色人種がPCについてどう考えているかという問いについては、当然のことながら、彼らの予想はさらに大きく外れていた) 。

 

もちろん、私のTwitterアカウントのフォロワーが、アメリカを代表するサンプルだと言うつもりはない。しかし、彼らは一般的にPCを支持していることから、おそらく、特定の知的環境を十分に代表していると言えるだろう。そこには私も属している。つまり、政治に積極的に関与し、高い教育を受け、左派的なアメリカ人だ。言い換えれば、大学で責任のある地位に就き、アメリカの最も重要な新聞や雑誌を編集し、選挙運動では民主党の候補者にアドバイスするような人々だ。

 

多くの人がPCについてどう感じているのかについて、私たちがこれほど的外れな理解をしているのであれば、この国に関するその他の基本的な定説も見直した方がいいだろう。

 

明白な人種的憎悪を吐き出すことを正当化するために、PCがうまくいかなかった例を嘲笑う人々が、右派の一部にいることは明白だ。一部の進歩派が、PCは右派発見器であり、あえてPCを批判する人は右派に利用されるばかだと考えるのも理解できないことではない。しかし、これは、「目覚めた人々」の文化に深い疎外感を感じているアメリカ人に対して公平な言い方ではない。アメリカ人の80%がPCはこの国の問題になったと思っている一方で、これよりも多い82%の人がヘイト・スピーチも問題であると思っているのだ。

 

今回の調査でわかったのは、進歩的活動家はヘイト・スピーチのみが問題だと考える傾向があり、ひたむきな保守派はPCのみが問題だと考える傾向があるということだ。そして、大多数のアメリカ人は、もっとニュアンスに富んだ見方をする。彼らは、レイシズムをひどく嫌悪しているが、今のPCのやり方は、人種的不公平を克服するための有望な手段ではないと考えているのだ。

 

また、調査結果は、社会的特徴の目印として言論規範を使うその方法について、進歩派に反省を促す。裕福で高い教育を受けた人々が、「問題のある」言葉を使った人や、文化の盗用を犯した人を非難するとき、私は彼らの誠実さを疑うわけではない。しかし、少なくとも「隠れた種族」報告書のために行われた調査によれば、大多数のアメリカ人の目には、それは社会正義に対する心からの懸念ではなく、文化的優越性を誇らしげに見せびらかしているように映っている。

 

年齢や人種を問わず、政治をそれほど熱心に追いかけているわけでもなく、ユタ州に住むティーンエージャーがプロムで着たドレスについての議論(訳注: 2018年5月、ユタ州に住む中国系でないティーンエージャー女性がプロムにチャイナドレスを着ていった写真を投稿したところ、それを文化的盗用だと非難する人達が出てきて大騒ぎになった)よりも、家賃の支払いについて心配している数多くのアメリカ人には、近頃のコールアウト文化(訳注: PC的に不適切な言動をした人をあげつらい、非難(コールアウト)する文化)は、他人の価値観や無知を嘲笑うための言い訳にすぎないと見られている。ミシシッピ州に住む57歳の女性はこう思い悩む。

 

「なんでも正しい呼び方をしないといけない。正しい呼び方をしないと、差別していることになる。誰もがどう呼ばれるべきか分かっているみたいだが、私たちの中にはそれが分からない人もいる。しかし、分かっていなければ、すごく問題のある人ということにされる」

 

この問題に関する進歩派の感じ方と一般市民の現実的な見方のギャップは、「目覚めた」エリートが集団的に運営する組織にダメージを与える可能性がある。アメリカ人の多数の見方を代表していると編集者が信じている出版物が、実は国内の少数派にしか語りかけていないのなら、ゆくゆくはその影響力が低下し、読者数は減少するかもしれない。人口の半分を代表していると考えている候補者が、実際には5分の1の意見しか代弁していないのなら、その候補者は次の選挙でおそらく落ちる。

 

民主主義において、人々が世界をどのように見ているのかを根本的に誤解しているのであれば、市民を自分の味方に付けることや、現実に残る不公正を是正するために一般の支持を取り付けることは難しい。(翻訳ここまで)

 

2019/12/31追記

私は読んでないのですが、この記事を書いたヤシャ・モンク氏の本が日本でも出版されているようですのでご紹介しておきます。

 

「自己責任の時代 その先に構想する、支え合う福祉国家」みすず書房、2019/11/20発売、2960

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「民主主義を救え」岩波書店、2019/8/29発売、3080円 

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