デイビッド・マクニールが安倍首相辞任時と菅直人首相辞任時に書いた記事を比べてみた

日本外国特派員協会のデイビッド・マクニールが、アイリッシュ・タイムズ紙に安倍首相辞任に関する記事を書いていた。


www.irishtimes.com


2011年8月の菅直人の退陣時に彼が書いた記事と比べてみると、彼がジャーナリストとしての責務よりも、自分の政治的・思想的アジェンダを優先する人間であることがよくわかっておもしろい。


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経済にも外交にも原発事故の処理にも、菅直人はいいところを見せられなかったのは周知の事実だが、それでもマクニールの記事は菅に非常に同情的だ。2人の学者 (上智の中野晃一とテンプル大のジェフ・キングストン) の言葉を引用して管を擁護する。反対意見は紹介されない。


今回の記事では、マクニールは安倍が祖父の岸信介の墓参りをして「日本の真の独立を取り戻す」と誓った話から入り、岸がA級戦犯で逮捕されていたことにも触れ、安倍が右翼的な政治家であることを読者に印象付けようとする。安倍の業績を過小評価し、「歴史は彼をつなぎ役 (caretaker) として記憶するだろう」と書く。


ご存じのように安倍政権下で日経平均は 8,500 から 24,000 へと上昇し、有効求人倍率は 0.8 から1.6へと大幅に改善した。失業率は 4.3% から 2.4% へと下がった (消費税を上げたのは間違いなく失策だったが)。外交でも力を発揮した。従来からの同盟関係を強化し、新しいパートナーシップも開発した。新型コロナによる死者数も比較的少ない。辞任発表後に日経平均は600pt近く急落し、共同通信の世論調査では内閣支持率が20.9%上がって56.9%となった。


菅辞任のときもそうだったように、今回もマクニールは日本内外の現実を記事に反映することができなかった。もしくは、そうすることを拒んだ。彼は真実を見つけて事実を語るというジャーナリストの責務より、自分の政治的・思想的アジェンダを優先させることを当たり前に思っている人間だからだろう。


アイリッシュ・タイムズはマクニールの記事を「Analysis」などと銘打っているが、たとえばこちらのBBCの記事と比べると薄っぺらさが際立つ。


www.bbc.com


マクニールは外交・経済・安全保障についてはおざなりで、安倍=右翼的と印象付けることにしか興味がないようだ。


BBC の記事は、チャタム・ハウス/ケンブリッジ大学のジョン・ニルソン=ライト教授が書いたものだ。


たとえば、マクニールは「学校の教科書から戦争犯罪に関する記述を削除した (School textbooks have removed references to war crimes)」と書いていて、アイリッシュ・タイムズの紙面ではこの部分が大きめの文字でレイアウトされている。ジョン・ニルソン=ライトの記事では、これは「高校の教科書に関して、過度に自己批判的な歴史記述から離れた (moved away from overly self-critical historical narratives in high-school textbooks)」となっている。


ジョン・ニルソン=ライトは、記事を次のように締めくくっている。「安倍の意欲的だが、よく言っても部分的にしか実現できなかったナショナリスト的大志よりも、実際的な成果こそが最も息の長い彼のレガシーとなる可能性が高い」(Notwithstanding Mr Abe's aspirational, but at best partially realised nationalist ambitions, his pragmatic achievements are likely to be his most enduring legacy.)


結局のところ、マクニールのこの記事は、日本の左派野党がなぜダメなのかを図らずも体現するものとなった。安倍=右翼の印象操作だけできれば満足で、外交・経済・安全保障などの重要な問題についてはほとんど語ることができないのだ。

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