日本はジェンダーギャップ指数125位だとドヤる人に反論するための材料

日経新聞の対談記事(2023/9/3公開)で駐日英国大使のジュリア・ロングボトム氏がジェンダー平等の点で日本は英国に30~40年遅れていると感じると発言しました。 

 

私も日本がジェンダー平等の点で完璧な国だとは思っていませんが、自分の国の価値判断を絶対視して「日本は英国に30~40年遅れている」と無邪気に発言するのは外交官としてガードが下がりすぎているのではないかと心配になります。しかし、こうした要人の雑な発言を放っておくと、「日本は英国に30~40年遅れている」みたいな議論が通説となってしまうおそれがあるので、面倒くさがらずに反論をあてていったほうがいいと思うのです。

 

ジェンダー不平等指数

ジュリア・ロングボトム大使が持ち出すデータのひとつは、例によって世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数です。今年の同指数では日本は125位。政治・経済分野での女性の進出の少なさがこの順位の低さにつながっているようです。

 

しかし、1つの指数をもって日本がたとえば英国より遅れていると結論付けるのは早計です。たとえば、国際連合総会の補助機関である国連開発計画(UNDP)は人間開発報告書なるものを毎年発表しています。この報告書は、人間開発にまつわるさまざまな調査結果をまとめたものです。そこで算出された指標の1つに「ジェンダー不平等指数」というものがあり、報告書では不平等が少ない順に並べたランキングを発表しています。最新の2021年のデータでは、日本は191か国中22位、イギリスが27位なのです。

 

実際に反論するときの資料としては、Wikipedia 英語版の「Gender Inequality Index」のページが便利です。短くまとまっていますし、2019年のデータですがランキングも表になっています (2019年は日本は17位、イギリスは26位です)。もちろん最新の人間開発報告書を出してもいいんですが、こちらは数百ページにおよぶ大部ですし、ランキングの表も読みにくいです (ランキングの表は303ページに掲載されています)。

 

ちなみに、最新版2021年の第25位までは以下のとおりです。

1 デンマーク、2 ノルウェー、3 スイス、4 スウェーデン、5 オランダ、6 フィンランド、7 シンガポール、8 アイスランド、9 ルクセンブルク、10 ベルギー、11 UAE、12 オーストリア、13 イタリア、14 スペイン、15 ポルトガルと韓国、17 カナダ、18 スロベニア、19 オーストラリアとドイツ、21 アイルランド、22 日本とフランスとイスラエル 25 ニュージーランド  

 

「日本はジェンダーギャップ指数は125位」とか「日本は○○年遅れている」みたいな雑なドヤりには、上のジェンダー不平等指数を出すだけで十分に反論の用は足りると思うのですが、もう少し日本と西洋の状況が異なることを示すデータをみていきましょう。

 

家計の主導権

まず、日本は女性が家計の主導権を握る割合が非常に高いということです。2012年と少し古いデータになりますが、ドイツの社会科学調査機関であるGESISが発表したISSP (International Social Survey Programme) という報告書があります。調査対象の35か国のうち、妻が家計の財布の紐を握る割合が最も高いのは日本で55.7%。次にフィリピン(51.3%)、韓国(49.4%)と続きます。4位はぐっと下がって28.1%のロシア。中国は20.5%で7位。アメリカは16.8%で13位、フランスは3.2%で31位です。イギリスはこの調査の対象国ではありませんでした。

 

日本では妻が家庭の大蔵大臣の地位を占める割合がこれほど高いということを、国外の多くの人が知らないのは仕方のないことですが、こうしたデータを提示することで社会の成り立ち方が異なるのだということを実感してもらうことができるでしょう。このデータを出す目的は、西洋的な社会の成り立ちが唯一の文明的な社会の成り立ちだという無邪気な考え方に冷や水を浴びせることです。

 

詳しい解説やデータを視覚化した見やすいグラフについては、プレジデント誌のこちらの記事をご覧ください。

 

幸福度

次のデータは、女性の幸福度と男性の幸福度を国ごとに比較したものです。データの出典は2010-2014年期の World Values Survey と European Values Survey となります。

 

 

最初のグラフからは日本の女性の幸福度 (無回答を含む全体に占める「非常に幸せ」と「かなり幸せ」の比率の計) が約 90%、男性は約 80% であることがわかります。そして、第二のグラフからは、女性の幸福度から男性の幸福度を差し引いた値が調査対象の57か国中、最も高いのが日本であることがわかります。英語圏の人が持つ「Happy」の語感と日本人が持つ「幸せ」の語感は違うなどの国際比較の問題点はありますが、同じ国の中で男女間の差が一番大きいのは日本であるという調査結果に変わりはありません。

 

安全性

また、日本は女性にとって安全な国であるということがいえます。龍谷大学の津島昌弘教授が、欧州の調査結果と比較するために調査方法も踏襲して同様の調査を行ったのですが、「暗数」を含めても日本は欧州より安全、という結論になっています。

 

実際の論文はこちら。わかりやすいまとめ記事はこちら

 

まとめ

数か月前には駐日のアメリカ大使がLGBTに関して日本はアメリカの30年前の状況であると述べていました。「日本は○○年遅れている」みたいな発言は、西側の社会的な進化の道筋が人類の唯一の進化の道筋であるという考えがなければ言えないわけですが、世界は西洋中心に回っていると無邪気に思ってるのか、世界を西洋中心に回すぞという明確な意思に基づいて戦略的に言ってるのか、どちらなんでしょうか。

 

冒頭に書いたように日本がジェンダー平等において完璧な国だとは私も思っていませんし、日本は英国より進んでいるなどという不毛な議論をするつもりもありません。しかし、日常生活や職場で「ジェンダーギャップ指数125位」や「日本は○○年遅れている」などのガードの下がった議論を吹っかけてくる人に対しては、反射神経を発揮して、その場で反論の1つもしておかなければ「ガードを下げても打ち返してこない人(打ち返す力も気力もない人)」というカテゴリに分類されて、まともに相手にしてくれなくなるかもしれません。がっぷり四つに組む前に、面倒くさくても組み手争いはしておく必要があるということです。

 

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