「日本の性交同意年齢は13歳」という半真実、というかデマをやっつける方法

「日本の性行同意年齢は13歳」という半真実 (half-truth)が欧米で広まったのは、伊藤詩織氏がヨーロッパの何か国かでテレビ番組に出演してレイプ被害を訴えた2018年からです。伊藤氏はそのインタビューの中で性をめぐる日本の状況について、事実と異なる、または誤解を招く表現をいくつか用いています。たとえば「日本社会で育つと誰でも性暴力や性的暴行を経験している」「女子高生として交通機関を使うようになると毎日そういう目に遭うようになる」などです。「日本の性交同意年齢は13歳」という発言もその中の1つです。

 

日本国の刑法では、1907年以来、性交同意年齢は13歳と定められていました (2023年7月にいくつかの条件付きで16歳に引き上げられました)。その意味では、伊藤氏の発言は嘘ではありません。しかし、伊藤氏が開示しなかった情報があります。それは、日本の性交同意に関する法律は2層 (two layered)になっているということです。そのうちの1つが既に触れた刑法なわけですが、もう1つは各都道府県の条例であり、そこでは16から18歳が性交同意年齢とされています。日本ではこの2つを合わせて性交同意年齢が規定されているのであり、刑法の条文だけを用いて日本の性交同意年齢を説明するのは不誠実です。

 

では、なぜ性交同意年齢を2層で規定するなどという「ひと手間」をかけているのか。これは、刑法の古い規定に都道府県条例を新しく追加することで時代に対応してきたという歴史的な経緯もあるのかもしれません。しかし、性交同意年齢を法律で定めるのは一筋縄ではいかない (not straight-forward) ものだからです。たとえば、恋愛関係にある18歳の17歳が性交したとして、18歳を杓子定規に逮捕すべきだと考える人は少ないでしょう。新しい刑法の条文でも「年齢差が5歳以内の場合は」云々と但し書きがついているのはそのためでしょう。

 

「日本の性交同意年齢は13歳」という話は欧米の多くの人には衝撃的だったらしく、いろんなところでカジュアルに話題になっているのを見ました。たとえば、日本在住外国人が英語で発信する系のこちらのエンターテイメント系Youtubeチャンネルです。最近、X (旧Twitter)で同じようなポストを見たのがこのブログ記事を書こうと思ったきっかけです。

 

有利な立場を手に入れるために、相手に道徳的劣位者のレッテルを貼るのはよくある戦術です。そしてオーディエンスの劣情を刺激する性の話は非常に有効です。『アラビアン・ナイト』を性的に誇張・加筆して翻訳したリチャード・バートン卿、慰安婦の強制連行を捏造した吉田清治とプロパガンダに踊った不勉強な欧米の学者やジャーナリスト、一時期話題になった英字毎日新聞のWai Wai ニュースもこの系譜につながるものかもしれません。

 

余談ですが、性的同意の問題は一筋縄ではいかないということを示す1つの例をあげておきたいと思います。私の住むアイルランドでは、婚外で知的障害者と性交した人を刑事罰に問う法律が1993年に施行されました。知的障害者は性交に同意する能力がないという理屈です。もちろん障害者を守るという趣旨で作られた法律だったのですが、これだと障害者は婚外で事実上性交できなくなるため、支援団体が動いて2017年に廃止になりました。この件をテーマにした映画も作られていて、障害者の役は全員障害者の方が演じています。『Sanctuary』というタイトル。ご興味のある方はどうぞ。