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バフィー・セントメリー: 先住民の出自にまつわる疑惑

カナダの先住民・クリー族の血を引くと主張して過去60年にわたって活動してきたフォークシンガー/人権活動家の出自に疑惑の目が向けられている。10月に放映されたカナダの放送局CBCの調査報道番組『The Fifth Estate』によれば、彼女は白人の両親のもとにマサチューセッツ州で生まれたアメリカ人だというのだ。 

 

彼女の名前はバフィー・セントメリー。1960年代初頭からグリニッジ・ヴィレッジのコーヒーハウスなどで歌い始め、映画『いちご白書』や修正主義西部劇(開拓者を善玉とする単純な勧善懲悪ではない西部劇)の嚆矢となった映画『ソルジャー・ブルー』の主題歌を歌い、日本でも大ヒットした映画『愛と青春の旅立ち』の主題歌の作曲者にも名を連ねている。先住民を対象とした賞も数多く受賞しているほか、活動家としては先住民の権利のために積極的に発言していた。

 

バフィー・セントメリー: 2015年 (左) と1968年

彼女のデビュー当時からの主張は、先住民の子供として生まれたが、赤ん坊のころにマサチューセッツ州の白人家庭に養子に出されたというもの。しかし、彼女のさまざまなインタビューを突き合わせてみると、辻褄の合わないことがたくさんでてくる。たとえば、出身部族はアルゴンキン、ミクマク、クリーと移り変わる。アイデンティティ詐称を調べるジャーナリストによれば、こうした証言の変遷は要注意サインの1つであるという。

 

彼女公認の回想録によれば、彼女の出生証明書は失われてしまったという。しかし彼女が育ったマサチューセッツ州の役所には彼女の出生証明書が残っていることを番組は突き止める。そこには、彼女も彼女の両親も白人と記載されていた (当時は人種を出生証明書に記載していた)。

 

バフィーの両親

当然のことながら彼女の家族は彼女の嘘にとまどった。だが、彼女の評判を落としたくもなかったし、訴訟のリスクもあったので、当初はあまり公に発言することはなかった。しかし、米空軍を退役後に民間の航空会社でパイロットを務めていた兄のアランが真実を知ってもらおうと70年代の初めごろからさまざまな新聞に投書を始める。

 

アランの投書を掲載した新聞はないようだったが、ある日ビーチボーイズやローリングストーンズもクライアントとして抱えるLAの大手弁護士事務所から手紙が届く。これ以上バフィーの活動のじゃまをすればあらゆる法律的手段に訴えるという警告である。

 

その封筒にはバフィーの手書きのメモも同封されていた。そこには「アラン、あなたがまた私を傷つけようとするなら、あなたが子供の頃私を性的に虐待したことを公表し、勤務先や妻にも伝え、警察に訴える」という脅し文句が含まれていた。法廷で争うリソースのない彼は手を引くことを余儀なくされる。

 

その後、彼女は子供の頃に性的に虐待されたというストーリーをインタビューで話し始め、アランの死後にはその犯人が彼であったことを公言している。アランが死んでしまった今となっては何が真実かはわからない。しかし、この手紙を放送することを番組に許可したアランの娘(バフィーの姪)はバフィーが嘘をついていると信じており、「無名のままでいたかったが、父や祖父のためにもこうした酷い誤りを正さなければならないと思った」と番組に出演した理由を語っている。

 

バフィーの姪のハイディさん

番組放映後もバフィーは先住民の出自であるという主張を変えていない。ミュージシャンの間からは彼女が先住民として獲得した賞を取り消すべきだという声があがっている。彼女は成人後に先住民の家族と養子縁組を結んだのだが、その部族の族長はDNAテストを受けることを彼女に求めている。

 

北米では、名誉・金銭・地位のためにマイノリティを騙る(またはその疑惑のある)著名人が後をたたない。1/64先住民であると主張した米国上院議員のエリザベス・ウォレン、白人の両親を持ちながら自分は黒人だと主張した全米黒人地位向上協会元幹部のレイチェル・ドラザール、先住民文化をテーマに小説を書くカナダ人作家のジョゼフ・ボイデンなど。

 

左からウォレン、ドラザール、ボイデン