伊藤/山口事件に関するデイビッド・マクニールの生焼けの記事 (アイリッシュ・タイムズ紙)

デイビッド・マクニールが伊藤/山口事件についてアイリッシュ・タイムズに書いた記事が 2019 12 22 日に公開されました。この記事のコメント欄に私は文章を投稿したのだが、それを日本語に訳してみました。

www.irishtimes.com

(ここから)

この記事は、伊藤詩織の真実の追求を一度は妨げた集団にいたジャーナリストによって書かれている。だが、彼はこの記事において、自分は女性の権利の擁護者だとばかりにアピールしている。

 

2017529日に、伊藤は司法記者クラブで記者会見を開いた。翌日、彼女は外国特派員協会 (FCCJ) で別の記者会見を開くことを希望していたが、FCCJの報道企画委員会 (PAC) は彼女の申し込みを承認しなかった。当時PACのメンバーであり、この記事を書いたデイビッド・マクニールは、週刊現代に対して、その理由を「特派員にとっては、安倍政権に影響が出る話かどうかが重要」だからだと説明している。

 

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へー、そうなんだ。大きな注目を浴びていたこのレイプ疑惑事件は、政治的な意味がなければニュースに値しないというのか? 捜査対象だった山口は、日本の主要放送局の1つであるTBSの社員であり、事件が伊藤の就職あっせんに関連して発生しているというのに。

 

この記事にもあるように、山口の逮捕状は不透明な状況の中で取り消された。左派 (野党と主要メディア) は、山口の安倍首相との親密な関係を逮捕状の取り消しに関連付けようとした。

 

だが、このナラティブにそぐわない不都合な真実が存在する。当時の最大野党だった民進党は、所属議員が国会でこの件について質問することを妨げていたのだ。質問することで、真実が明らかになる可能性が高まるだけでなく、党の政治的な利益になるにもかかわらずである。

 

ジャーナリストの上杉隆は、伊藤を個人的にサポートしてきたが、このナラティブには従わない。彼の「オプエド」というポッドキャスト番組の中で、質問を妨げた議員として、枝野幸男 (元経済産業大臣) と安住淳 (元財務大臣) の名前が挙げられている。彼らは共に民進党(当時)の議員だ。上杉は、枝野 (現在は、民進党所属だった一部の議員を中心に設立された立憲民主党の党首) と福山哲郎 (立憲民主党のナンバー2) にこの件について説明するよう何度も尋ねたが、 無視されていると述べている。

 

www.youtube.com

 

参議院議員で民進党に所属していた小西洋之も、20171025日にFCCJで行われた記者会見において、この問題について国会で質問しないでくれという働きかけが一部の野党議員からあったと認めている。  

 

www.youtube.com

 

実際に安倍政権の影響力によって逮捕状が取り消されたのだとしたら、なぜ野党第一党が与党攻撃の絶好のチャンスを自ら潰してしまったのか? レイプ事件として警察が捜査していることを知りながら、なぜTBSはこの件について調査、対応、報道しなかったのか? そして、なぜ今でもそれについて知らん顔をしていることを許されているのか? 山口の雇用主であることからこの件の責任を完全には否定できず、法執行当局に影響を与える力を持つ可能性もあるTBSについては、野党、主要メディア、そしてこの記事も含め、左派はなぜダンマリを決め込むのか? 伊藤はなぜTBSの責任を問うことをしないのか? また、たくさんの性的な誇張と書き足しによってアラビアン・ナイトを創造的に翻訳したリチャード・バートン卿のように、日本をテーマとしたエロ小説が一般的に大好きな海外特派員のためのクラブ、FCCJ が、なぜ伊藤の記者会見を認めなかったのか?

 

この記事は明らかにストーリーのすべてを語っていない。(おわり)

 

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英語版はこちら↓

tarafuku10working.hatenablog.com

 

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英国の政治学者マシュー・グッドウィンのインタビュー - UK 総選挙の結果を受けて @Triggernometry

英国の政治学者マシュー・グッドウィンが、トリガノメトリー (Triggernometry) というポッドキャスト番組に出て、長めのインタビューに答えていたので、その一部を訳してみた。

 

昨年12月のUK総選挙の総括だけにとどまらず、英国と米国の左派/保守派の今後の動向、取るべき戦略について語っています。特に、英国の保守党が今後、政策を通すだけに満足せず、マスコミや教育機関の左派支配に挑戦していくことになるだろう、という話がおもしろかったです。

 

トリガノメトリーのホストは、コンスタンティン・キシンとフランシス・フォスターという2人のコメディアン。特にキシンは、行き過ぎた左派への批判で、英国において人気急上昇中。

 

(翻訳ここから)

 

(1)2019年までに何が起こったかと言えば、2つの主要政党が占拠されたということだ。左派に目をやれば、労働党は社会的/文化的に非常にリベラルなバラモン左派に占拠された。彼らは、アイデンティティ・ポリティクス(訳注)に熱心で、経済的再分配には特に興味はなく、一流大学出身で、エリートの社会ネットワークの一員で、グローバライゼーションの影響からはほぼ隔離され、美徳や道徳的な優越性を表現することのみに興味を持ち、労働者との階級的/経済的連帯には興味を示さない人々だ。

 

一方、右派の方に目をやれば、保守党や中道右派政党は、商人エリート/ビジネス・エリートに占拠された。規制緩和、経済的リベラル主義、自由市場資本主義の強引な推進にしか興味のない人々だ。これによって、世界中の大多数の人々の声を代弁する政治家がいなくなる。

 

そういう意味で、ピケティの議論は説得力がある。平均的な有権者は、本能的に経済的な保護をもう少し欲しいと思い、それと同時に文化的な保護ももう少し欲しいと思う。それが、現時点の勝利の方程式だ。私の考えによれば、運転席に座っているのが文化で、経済は助手席に座っている。経済が重要でないというわけではないが、文化ほどではない。

 

これについて興味深いことは、ボリス・ジョンソンとドミニク・カミングズ (訳注: ジョンソンの首席補佐官) が、これ (訳注: 商人エリート的な考え方) だけでは十分な議席を得られないと認識したということだ。ベンジャミン・ディズレーリ (訳注: 19世紀後半に英国首相を務めた保守党政治家) やサッチャーという保守政治の伝統に戻る必要があった。これによって、EU離脱票が多かった選挙区において労働党の議席を奪うことができた。

(訳注: アイデンティティ・ポリティクスは、性別、人種、性的指向など、特に社会的に抑圧されているとされる特定のアイデンティティに基づいて集団の利益を代弁して行う政治活動。保守派からは、マルクス主義の階級闘争をアイデンティティ闘争に置き換えたに過ぎないと批判されることも多い)

 

 

(2)欧州のいくつかの中道左派政党が行ったような、現実的な調整を労働党が行わないのなら、この断片化した有権者を再びまとめることはできないだろう。一部の学識者は「あなたは白人優越主義や白人ナショナリズムを正当化または常態化しようとしている」などと論じるかもしれないが、これこそが問題の一部である。なぜなら、労働党や左派政党は、社会について最も極端な解釈を行う思想家、つまり、60年代以降のアイデンティティ左派思想学派を最も強く信じる人々と強固につながり、彼らの影響を受けていることが多いからだ。

 

労働党が最初に行うべきことは、話をする相手を総取り換えすることだ。なぜなら、コービンや現在の労働党を生み出した思想家たちは根本的に失敗したからだ。英国の現状や方向性についてまったく異なる解釈をする思想家やアナリストと話をするべきだ。快適でいられる場所から外に出るべきだ。2016年以降、リベラル左派は、快適な毛布で自分たちをくるんでしまったと私は思う。ケンブリッジ・アナリティカ(訳注)、ロシア、ブレグジット、コービン、巨大なブレグジット・バス、3億5千万ポンド(訳注)

 

一歩下がって、地下深くを流れる水が私たちの社会をどのように変えようとしているのかを考え、こうした新しい緊張をリベラル左派の有権者に紹介しようとする人はいなかった。こうしたことを始めるまで、政権を取り戻すためのロードマップを描くことはできない。同じところをぐるぐる回っているばかりで、政治における新しい基本的なルールを見つけた右派がしばらくの間、主導権を握るのを許すことになるだろう。

(訳注: ケンブリッジ・アナリティカは、かつて存在した英国の選挙コンサルティング会社で、Facebookの個人情報を不正に取得したと疑われている)

(訳注: ジョンソンは、ブレグジットのキャンペーンで、赤い巨大なバスを用意した。その側面には、「英国は毎週3億5千万ポンドをEUに送っている。そのお金を国民健康システムに回そう」と書かれていた。この金額が正確かどうかが大きな議論の的となった)

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(3)英国の政治について私が心配しているのは、野党の弱さとまとまりのなさだ。2016年以降の環境では、社会的に保守的な世界観が支配的である。EU残留派やリベラル左派陣営は、基本的に断片化し、分断されている。これは良くないことだと心の底から私は思う。生き生きとした強い野党が必要だと思う。

 

リベラル左派政党の現在の問題は、多数派を得た保守党が、(今回の選挙で)文化戦争に勝利したとはいえ、文化的な主導権を決定する戦争には勝利していないということだ。したかって、保守党は今、より深い問いを投げかけようとしている。政策プログラムについてだけでなく、「一部の報道機関や教育機関においてリベラル左派が優勢であること、また、ハイカルチャー、ソフトレフト(訳注)の規範などに対して、どう巻き返していくか?」という問いだ。

 

選挙直後の現時点では、左派が直面する課題は選挙に関するものだ。しかし、彼らはこれから根本的に知的で文化的な挑戦に直面することになる。今回の選挙の後、保守党はこうしたことに本当に意欲的になっている。「長期的に文化戦争に負けるのであれば、選挙に勝っても意味がない。主要な組織や教育機関などは、いまでも私たちの長期的な成功や信頼性を蝕む考え方に支配されている」。ジョンソン政権は、おそらくサッチャー時代以来、ほとんどの保守党政権よりも踏み込んだ姿勢を見せると私は思う。「政策を通すだけでは十分ではない」。このポッドキャストであなたたちが議論しているような様々なトピック(訳注: たとえば、アイデンティティ・ポリティクス)について「巻き返しが必要だ」とね。

(訳注: ソフトレフトは労働党内の一派で、ニュー・レイバー一派よりは左で、社会主義者一派よりは右)

 

 

(4)2020年の米国大統領選挙において、トランプには本質的な優位性(訳注)がある。彼は、経済的保護主義と中国に強硬に出ることを主張している。壁を作り、移民を制限することで、文化的保護主義も主張している。だから、彼には本質的な優位性がある。全米の総得票数という意味では苦戦するかもしれない。しかし、彼が力を入れた鍵となる州では、その本質的な優位性がモノを言う。

 

現在の米国民主党は、コービンや労働党と同様に、文化的な社会リベラル主義でもって経済的再分配を主張している。いや、実際にはもっとひどい。ハイパーリベラル主義だ。ザック・ゴールドバーグ(訳注)や米国のいろんな人のTwitterを見ればわかるように、リベラルな民主党左派の一部は、2016年の選挙結果に対し、リベラルな考え方を非常に極端な形でさらに推し進めることで対抗した。マイノリティにこれまで以上に肩入れし、特に白人の労働者階級の有権者など、自分の味方となるべき集団に敵意をむき出しにし、国境の開放をより強く主張した。

 

これはちょうど、彼らほどではないにせよ、英国のEU残留派が移民や移動の自由を推進したのと同じだ。しかし、これは説得力のある対抗手段ではない。こんなやり方で有権者を取り戻すことはできないからだ。もしトランプが再選を果たせば。。。彼が前回勝つと私が思ったのは、彼がこうした2つの側面(訳注)について話したからだ。これはヒラリー・クリントンにはできなかったことだ。しかし、彼が再選を果たせば、民主党だけにとどまらず、リベラル主義にとっての心理的な打撃はとても大きなものになる。なぜなら、私もいくつかの論点ではかなりリベラルなので、私も含め、リベラルは2016年以降のチャンスを無駄にしたことになるからだ。有権者ともう一度つながり、関係を修復するためのレシピを見つけることに失敗したことになるからだ。それは、壊滅的な打撃になる。

(訳注: ここまでグッドウィンは、文化的な保護と経済的な保護の両方が重要だという話をしていて、トランプは既にその2つを政策に組み込んでいるので、その意味で有利だ、という意味。)

(訳注: 米国の左派のブロガー)

(訳注: 経済的な保護と文化的な保護)

 

 

(5)過去10~20年間で、リベラル左派の間で最も盛んに語られていたのは、移民や大学で教育を受けた中産階級の増加により、リベラルの世界がやがて実現するのは既に決定していることだ、というナラティブだった。このナラティブは、トランプが最初に当選するまではとても人気が高かった。スタン・グリーンバーグ(訳注)や他の民主党員は、トランプが勝つはずなどない、なぜなら新たに力を持ってきたリベラルな多数派がいるからだ、などと主張していた。

 

しかし、リベラルに主導権を握ってほしくないと思っている有権者は、それを「これが最後のチャンスだ」というメッセージとして受け取った。リベラルの総意や価値体系を押し戻す最後のチャンスが今なのだ、と。そして、彼らはそのチャンスをものにした。2019年のUK総選挙も同じ。多くの有権者が、より広範な価値闘争における重大な分岐点だと認識した。だから、政党に対する伝統的な忠誠心を喜んで犠牲にした。この広範な闘争においては、全体としてみれば、おそらくジョンソンの方が賭けるに足るオプションだと感じたのだ。

(訳注: スタン・グリーンバーグは、米国民主党の政治戦略家)

(翻訳ここまで)

 

インタビューの全編はこちらから(↓):

www.youtube.com

 

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英国総選挙: 左派ジャーナリストの記事を訳してみた。「労働党が労働者階級の支持を失ったというのは虚構にすぎない」

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2019年12月に行われた英国総選挙。今回は、左派の主張も聞いてみようということで、選挙の2日前にガーディアン紙に掲載された記事を訳してみました。題して「労働党が労働者階級の支持を失ったというのは虚構にすぎない」。しかし、選挙結果は皆さんがご存じのとおり。

 

筆者のアッシュ・サーカーは、英国のジャーナリスト/共産主義活動家。20代女性。

www.theguardian.com

 

(翻訳ここから)

労働党が労働者階級の支持を失ったというのは虚構にすぎない

2019年12月10日

アッシュ・サーカー(Ash Sarker)

世論調査会社は50年前に作られた社会階層分けの方法で階級を測り、若者の経済的な現実を無視している

イギリスの政治番組を信頼するのであれば、この総選挙で重要な意味を持つ戦場は1種類しかない。サウスウェストの自由民主党と保守党の激戦区など忘れてもよい(うとうとするほど退屈だ)。スコットランド国民党など心配する必要もない。当選してもイングランド人の首相を支えないのであれば、誰が北アイルランドの選挙結果など気にするだろうか。すべての視線が “レッド・ウォール(訳注1)に注がれている。ほんの1か月前には、この言葉を使う者はいなかった。レッド・ウォールとは、労働党が議席を保持し、国民投票ではEU離脱が優勢だった北部やミッドランドの選挙区である。こうした場所には、ワーキントン・マン(訳注2)しか住んでいない。少なくとも、ビクトリア線がまだ開通していない地域に住む人々(訳注3)を澄まし顔で同質化する機会を愛してやまない一部の政治記者はそう信じている。

 

(訳注1: イングランド北部の少なくともこれまでは労働党が強かった一帯。赤は労働党のシンボルカラー)

(訳注2: ワーキントン (Workington) はイングランド北西部にある、かつては炭鉱で栄えた町。あるシンクタンクが、今回の選挙の結果を左右するのは、ワーキントンに住む男性 (に代表されるような人々: 白人、年配、イングランド北部在住) だとした)

(訳注3: ビクトリア線はロンドンの地下鉄の路線なので、単にロンドン以外の場所という意味)

 

もちろん、ブレグジットの文化戦争に直面した労働党が、選挙連合の残留派と離脱派をまとめあげることに苦戦しているのは間違いない。11月末に行われたYouGovのMRP世論調査には、破滅の予兆が現れていた。メインのターゲットである76の選挙区のうち、43選挙区で保守党がリードしているという結果が出たのだ。したがって、この選挙が、労働者階級の有権者を動員する労働党の能力に関する国民投票だと見なされることも、ある程度は仕方のないことだ。

 

日曜日の「アンドリュー・マ―・ショー」で、労働党のグロリア・デピエロが彼女の党は労働者の党であると発言したとき、ジョン・カーティス卿が苦言を呈した。「しかし、あなたの党はもはや労働者階級の党ではない。労働党は若者の党だ」と、英国屈指の選挙学者は口を挟んだ。そして、伝統的な “レッド・ウォール”の有権者にとって、コービンの党は「左に寄りすぎで、社会的にリベラルすぎる」と見られていると付け加えた。労働者階級が社会的に保守的だという考えは、ニール・キノックが労働党党首だった頃とはまったく対照的である。キノックは、“労働者階級の急進主義から距離を置く” ための手段として、意識的に専門職階級に近づいた。しかし、臨時雇いの大学講師としての私のキャリアは、ジョン・カーティス卿の学問的高みには到達していないものの、階級に関するこの論述は、ラテン語を使わせていただけるのであれば、まったくのたわ言(fraff) である。(訳注4: fraff はラテン語ではなくスラング。筆者もわかって使っている)

 

どうしてもそうしたいなら、私を粗野なマルクス主義者と呼べばいい。しかし、UKの若者の経済状況をちょっと見てみれば、”若者” と “労働者階級” を相いれないカテゴリとして扱うのが馬鹿げたことだとわかる。大卒者の81%が、その職業人生の30年を費やして授業料の借金を返済する。18 ~ 24 歳の半分が、一生借金を返すことができないと考えている。30歳以下の全労働者の5分の1 (若い黒人の場合はこの数字は4分の1に上昇する)には、法に反して最低賃金以下しか支払われていない。若者は、ゼロ時間契約(訳注5)で働く可能性が高く、以前の世代に比べて家を持つ可能性も低い。アボカド・トースト(訳注6)などにだまされないでほしい。英国において、収入および資産が乏しい人の過半数は若者なのだ。

 

(訳注5: 勤務時間の保証がなく、雇用主が必要とする場合にのみ勤務する契約。勤務時間がゼロになる場合もあるため、この名称が付いた)

(訳注6: ある豪州の不動産王が、若い人はアボカド・トーストなど食べずに、その分を不動産購入の頭金として貯めるべき、と発言したことに由来)

 

しかし、“労働者階級” と “若者” は、混ざることのない2つの異なる集団だという定説が流通しているのは、1人の選挙学者だけの責任ではない。これは、全国読者層調査(NRS)という社会階層システムに由来する。世論調査会社や評論家が、 “中産階級” と “労働者階級” のことを、もったいぶった言い方でそれぞれABC1とC2DEというカテゴリで呼ぶのを聞いたことがおありだろう。50年以上前に開発され、それ以来変更されていないNRSモデルは、もともとは市場調査で用いられていたものであり、 “世帯主” の職業によって分類が行われる。したがって、ABC1層には、上級管理職から総務の非正規職員までの全員が含まれる。C2DE 層には、熟練/非熟練労働者、失業者、一部の年金生活者が含まれる。問題がおわかりだろうか?

 

英国は、過去50年間に数多くの変化を体験した。マーガレット・サッチャーの時代には製造業と重工業の衰退が、この国の広い範囲から経済的な活力を奪い、階級構成を劇的に変えた。これにより、ガイ・スタンディング教授が呼ぶところの “プレカリアート” が生まれた。これは、低賃金で雇用が安定しないホワイトカラーの労働者の階級である。その収入は非常に不安定であるため、従来の意味で職を持っているとは到底いえない。したがって、肉体労働者と非肉体労働者という分け方は、階級について考える際に意味のある方法ではなくなった。小売業、接客業、またはその他のサービス業で安い賃金で働く人々を、銀行家などと同じ階層 (ABC1)に入れるのは馬鹿げている。

 

しかし、最も重要なことは、NRS社会階層は、財産を測る尺度ではないということだ。したがって、この国で階級がどのように機能しているかを考える際に、年金生活者と失業者を同じ括りに入れるのはまったくもって滑稽だ。お金に関しては、年金生活者は同質的な集団ではない。年金生活者の16%が貧困生活を送っている。民間の借家で暮らしている場合は、これが36%に上昇する。年金生活者は、英国の生活費の高騰によって不相応に大きな影響を受けており、冬が来ると、6人に1人が食料と暖房のどちらかを選ぶことを余儀なくされる。

 

しかし、財産については、英国の年配者と若者の間に、明らかな世代間ギャップが存在するのも本当だ。そして、このギャップはそう簡単に縮まりそうにはない。UKのベビーブーム世代の6人に1人がセカンドハウスを所有しており、 なんと5人に1人がミリオネアである。ローンを組むことができ、過去数十年にわたって低い住宅費で暮らすことができた人々は、若者を締め出す加熱した住宅市場の恩恵を受けるだけでなく、その加熱ぶりをさらに悪化させる。資産で悠々暮らしている年金生活者がC2DEに分類され、借金を背負い、低賃金でカツカツの生活をしているミレニアム世代がABC1に分類されることは十分にありうる。

 

NRS社会階層は、階級を測る目的ではまったく信頼できない。したがって、これに基づいて、労働党が労働者階級の支持を失ったと非難するのは、まったくもって間違っている。実際には、”レッド・ウォール”選挙区の労働者階級の若者を動員することが、この選挙でボリス・ジョンソンを失望させるための鍵になるかもしれない。イースト・ミッドランズ、ウェスト・ミッドランズ、ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー(訳注7)のミレニアル世代は、UKの中で最も急激な生活水準の落ち込みを体験している。

 

(訳注7: いずれもイングランドの地方の名前。9つあるうちの3つ)

 

実際には多様なワーキング・クラスを、地方に住む年配の白人のイギリス人という同質的な集団に落とし込むことが問題なのは、それが根本的に誤解の素となるからだ。それによって、誰に富が集中しているかも、誰が労働党に票を入れそうかもほとんどわからない。ましてや、何十年にもわたる産業の空洞化と中央政府からの慢性的な財源不足に苦しんできた労働者階級の人々の物質的なニーズを満たす方法についてはまったく何もわからない。権力、資金、インフラストラクチャに関する大きな地域間格差に対処することが、”レッド・ウォール” を腐食するブレグジットの威力を中和するための鍵となるだろう。文化戦争における勝者は必ず支配階級なのである。(翻訳ここまで)

 

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豪 Quillette 誌の「英国労働党は目覚め、そして破産した」を訳してみた

 

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オーストラリアのオンラインマガジンであるQuillette誌に掲載されていた「英国労働党は目覚め(woke)、そして破産(broke)した」という記事を訳してみた。

Woke は Wake (起こす) の過去分詞で、「社会正義に目覚めた(意識が高い)」ぐらいの意味で最近よく使われる。左派が自分たちのことを指すときにも使うが、右派が使うときは揶揄のニュアンスが入っていることもある。

筆者のトビー・ヤングは同誌のアソシエート・エディターだが、友人がニューカッスルのある選挙区で保守党から立候補したので、選挙運動を手伝ったという。英国では合法の戸別訪問をする中で彼が体験したことから、なぜ労働党が失敗したのかを考察します。

元記事の公開は2019年12月13日。選挙の翌日です。

quillette.com

 

(翻訳ここから)

英国労働党は目覚め、そして破産した

2019年12月13日

トビー・ヤング(Toby Young)

昨日の英国総選挙で保守党が圧勝したが、「レッド・ウォール(赤い壁)」を選挙運動で歩いた者にとって、これは驚くような結果ではない。「レッド・ウォール」とは、イングランドのミッドランドや北部に広がる、労働党が強い地域に付けられた名前である。そのうちのいくつかの選挙区では、75年以上にわたって、労働党が議席を守り続けてきた。かつては英国の鉄鋼産業の中心地であったシェフィールドのペニストン・アンド・ストックブリッジ(Penistone and Stockbridge)、以前は炭鉱の町だったダラム(Durham)郡のビショップ・オークランド(Bishop Auckland)。今回の選挙で、これらの選挙区の議席は、労働党の牙城であるポスト工業地域の数多くの議席と共に、保守党が奪った。これはもう「レッド・ウォール」ではなく、青と赤の正方形で構成されるモンドリアンの絵のようである(訳注: 赤と青は、それぞれ労働党と保守党のシンボルカラー)。ボリス・ジョンソンの保守党に、1983年以来最大の議席数を与えたのは、こうした選挙区の有権者である。彼らの多くは、最低賃金で働き、公営住宅で暮らしている。

 

彼らは、金髪のリーダーをそれほど愛しているわけではない。私の友人の1人が、ニューカッスル・アポン・タイン・ノース(Newcastle upon Tyne North)選挙区で保守党から立候補した。2年前の選挙では、労働党の現職議員が10,000票の差を付けて当選した選挙区だ。私は先週、彼の選挙運動を手伝うために、何軒かの家を戸別訪問した。私が話したすべての人が、保守党に票を入れるつもりだと話した。「ブレグジットにケリをつけたいから」と言う人もいた。「ブレグジットにケリをつける(Get Brexit Done)」は、保守党が過去6週間で何度も何度も繰り返してきた言葉だ。しかし、労働党党首に対する理屈抜きの嫌悪感を理由にする人もいた。

 

「以前は筋金入りの労働党支持者だった私の知り合いの多くは、ジェレミー・コービンはありえない、と言っている」と、スティーブ・ハートと言う名のエンジニアは言う。「労働党はもう私たちの党ではない。ラベルは同じだが、中身が違う」

 

私と共に歩いた運動員によれば、どこに行ってもこういう反応があるという。その日、彼は既に公営住宅団地の世帯を100軒訪ねていた。そのうち、3人を除くすべての人が、保守党に投票するつもりだと言った。これは、人口の26%がイングランドの最貧層に属する都市での話である。コービンが嫌いなのなら、単に棄権すればいいだけではないのか、と私は尋ねた。12月の厳しい寒さの中を、なぜわざわざイートン校出身の洒落男が率いる党に投票しに行くのか?

 

「それほどコービンを憎んでいるということだよ」と彼は言った。「彼らがコービンに贈ることができる最大のメッセージは、保守党の政権を実現することなんだ」

 

イングランドのいたるところで、同様のことが起こった。労働者階級の有権者が大挙して労働党を見限ったのだ。収入別や職業別の投票行動が明らかになるまでには、しばらく待たなければならない。しかし、投票日前の世論調査では、驚くようなデータがいくつか明らかになった。たとえば、メール・オン・サンデー紙の依頼を受けてデルタポール社が先月行った調査によれば、 全国読者層調査(NRS)分類システムの下半分に相当するC2DE 社会階層に属する人々は、49%が保守党を支持し、労働党支持は23%に過ぎなかった。この分類システムは、職業によって人々をランク付けするものである。すなわち、NRS分布の下半分に属する、熟練/半熟練/非熟練労働者や、国の年金/福祉手当で生活している人々は、2対1以上の割合で、労働党ではなく保守党に投票しようとしていたのである(出口調査が示す実際の数値は1.5対1に近いものだった)。

 

火曜日、2日後の選挙結果がどうなるかを垣間見せるような出来事が起きた。労働党の影の厚生大臣であるジョン・アッシュワース議員のプライベートな会話の録音が流出したのだ。彼は、大都市圏の外では党の状況がどれほど “ひどい (dire)” かを友人に話していた。「地方の状況は真っ暗闇だ」と彼は言った。「彼らはコービンに我慢ならない。労働党がブレグジットを邪魔したと思っている」。

 

アッシュワースは、英国の選挙地図を “あべこべ (topsy-turvey)” と形容した。伝統的な労働党地域での負けが予想されることだけでなく、カンタベリー(Canterbury)などの中産階級の都市で労働党の支持率が上がっていることを指したものだ。世論調査が示すもう1つの驚くべきデータは、大卒者の間で労働党がリードしているということだ。一般的に、大卒者の割合が高い地域ほど、今回の選挙で左に振れる可能性が高かった。また、その逆も同じだ (カンタベリーの議席は労働党が維持した)。

 

「レッド・ウォール」の崩壊は、今回の選挙の中心的な話題だった。一部の評論家は、これを1回限りのものだと説明する。世間一般の通念に従えば、労働者階級の有権者は今回、保守党に票を “貸した” だけであり、意外なことが起きなければ、次の選挙では労働党支持に戻ってくるだろう。メディアにいるコービンの伴走者たちは、勝敗を分けたのはおそらくブレグジットだ、と言う。労働党の敗北を大将のせいにするのは我慢ならないのだ。

今回、保守党が議席を奪った労働者階級の選挙区を見てみると、そのほとんどが2016年の国民投票で離脱派が残留派に大差を付けて勝った場所である。たとえば、イングランド・ヨークシャーの港湾都市であるグレート・グリムズビー(Great Grimsby)では、離脱派が残留派を71.45%対28.55%で破っている。彼らの分析によれば、労働党の問題は、選挙運動でEU離脱の推進を明確にせず、新しい離脱の取り決めを交渉した後、2回目の国民投票を実施して、その取り決めを受け入れるか、残留するかを有権者が選べるようにすると言ったことだ。このごまかしは、大卒者を味方に付けるには十分だったかもしれないが、イングランドの錆び付いたかつての工業地帯に住む、離脱派で労働者階級の有権者を遠ざけたのかもしれない、というのだ。

 

この分析は精査に耐えない。まず、労働党が労働者階級の支持を失い、裕福で教育レベルの高い有権者の支持を増やしているのは、長期的なトレンドであり、例外的な状況ではない。労働党の伝統的な支持基盤の消失は、今回の選挙だけの話ではなく、英国の戦後政治史のメインテーマの1つである。労働党は、絶頂期には、ロンドンや南部に住む大卒のリベラルと、ミッドランドや北部の工業都市に住む低所得の有権者との連合を形成することに成功した。 “ハムステッド(Hampstead)からハル(Hull)まで” (訳注: ハムステッドは中産階級の街の代表で、ハルは工業都市の代表。Hで頭韻を踏んでいる) という言い回しはこうして生まれた。しかし、大量移民とグローバリゼーション、そして膨れ上がる福祉費用とEUのメンバーシップにより、労働党を支持する中産階級と労働者階級の間に亀裂が走った。

 

1974年10月の選挙では、熟練労働者(C2層)の49%と、半熟練/非熟練労働者(DE層)の57%が労働党に票を入れた。2010年には、その数字はそれぞれ29%と40%に落ちた。中産階級の有権者 (ABC1層)について言えば、保守党の支持率は 1974年の56%から2010年には39%に下がった。1974年には、労働党はC2層(熟練労働者)で23%のリードを誇ったが、2010年には保守党に逆転され、8%差を付けられた。2017年もこのパターンは繰り返された。一方、大卒者の間では、2017年の労働党の支持率は保守党を17%上回っていた。これは、2015年と比べても2%伸びている (調査会社のIpsos MORIが作成したこのデータ表を参照のこと)。

 

ジェレミー・コービンと彼の支持者は、労働者階級の票を取り戻すことを熱心に言い募っていたが、コービンの政治的立場は労働者階級にアピールするものではなかった。私は単に、ブレグジットに関する彼の煮え切らない態度について話しているのではない。国旗、信条、家族を大切に思う有権者の間に、コービンはこれらに価値を置く人間ではないという印象が広まっていたのだ。2015年に労働党党首になる前、彼は、スエズ動乱以来、フォークランド紛争も含め、英国が関与したほとんどすべての軍事衝突に精力的に抵抗してきた。彼はまた、英国の独立核抑止力の放棄、NATOからの 脱退、情報機関の解体を主張してきたし、2015 年のバトル・オブ・ブリテン記念式典で国歌を歌わなかったのも有名な話だ。国を愛することが今でも深く根付いた感情である労働者階級有権者の目には、コービンが英国の味方に見えることよりも、英国の敵の味方に見えることの方が多い。

 

労働党の党首選でコービンが勝った後、2014年には193,754人だった党員数は、2015年には388,103人へと大きく増えた。しかし、彼に魅力を感じる活動家たちは、大多数が中産階級である。ガーディアン紙が入手した労働党の内部データによれば、彼らが持ち家のある「高ステータスの都市生活者」である可能性は不釣り合いに高い。

 

労働党の最新のマニフェストに記載された政策を注意深く分析すると、党が提案する公共支出の増大によって利益を受けるのは、主に中産階級の支持者であることがわかる。ちなみに、保守党は労働党の公約を実現するには1.2兆ポンドもかかると試算している。

 

たとえば、労働党は鉄道料金を33%下げると約束していたが、その予算は道路に使うお金を節約することで捻出するとしていた。しかし、自家用車で通勤するイギリス人は68%に達するのに対し、鉄道で通勤する人は11%に過ぎない。そして、電車通勤の人の方が傾向としては裕福である。また、コービンは、年に72億ポンドをかけて、大学の授業料を廃止すると約束した。これは、非常に逆累進的な政策であり、財務研究インスティチュート(IFS)によれば、中~高収入の大卒者にはメリットがあるが、低所得の人々にとっては “まったくといっていいほどほとんど“ 得のない政策だ。

 

また、コービンの興味と見た目 (70歳のベジタリアンで、電車の運転士の帽子が好きで、抗議運動による政治に生涯没頭してきた) は、ほとんどの労働者階級の有権者にとって、”風変り (weird)” だと捉えられている。ニューカッスルで戸別訪問を行っていた私の仲間の運動員は、”風変り” という言葉を玄関口で何度も耳にしたという。コービンはまた、悪意に満ちた反ユダヤ主義者の侵入を許したリーダーであり、彼がその対応に失敗したことで、労働党は現在、英国の平等人権委員会の調査を受けている。既に彼の支援者の1人は、選挙で負けたのはユダヤ人のせいだと言い出している。

 

 

しかし、C2DE層の有権者が労働党に背を向けた主な理由は、ブレグジットでもなければ、コービンでもない。これら2つは、少なくとも過去45年間にわたって進行してきたトレンドを増幅する役割を果たしただけである。そのトレンドとは、「ハムステッド/ハル」連合のほころびと、労働者階級の労働党支持率の落ち込みである。

 

関連する現象で、見過ごされがちなものがもう1つある。こうした “あべこべ” 政治は、英国に限った話ではないということだ。アングロスフィア(訳注: 英国と文化的背景を共有する西洋の英語圏)のほとんどや、その他の西洋民主主義国家の中道左派政党は、彼らなりの「レッド・ウォール」の崩壊を体験してきた。今年5月のオーストラリアの選挙で、スコット・モリソンの自由党が下馬評を覆して勝利した理由の1つは、ビル・ショーテンの労働党が、クイーンズランドなどの伝統的な労働者階級の地域で非常に人気がなかったからだ。スカンジナビアでは、大都市以外において、社会民主主義的な政党に対する支持が過去15年ほどで急降下した。

 

フランスのマルクス主義者であるトマ・ピケティは、昨年、この現象について、「バラモン左翼と商人右翼: 不平等の高まりと変化する政治闘争の構造」という論文を書いた。これは、彼の最新の本である『資本とイデオロギー』のテーマでもある。彼は、米国、英国、フランスの政治は(ピケティは今回の分析をこの3か国に限定している)、バラモン左翼と商人右翼という2つのエリート集団間の争いに支配されているという仮説を立てた。米国、英国、フランスの左翼政党は、以前は選挙に勝つために “地元密着主義者” の有権者を頼りにしていた。教育レベルが低く、低所得の有権者だ。しかし、1970年代から、”グローバリスト” の有権者を引き寄せるようになってきた。教育レベルも所得も高い有権者だ(ただし、所得が上位10%に入る層は除く)。その間、地元密着主義者は右に流れ、ビジネス・エリートと連合を形成した。ピケティはデータをかみ砕き、米国においては、1940年代から1960年代まで、教育レベルが高い人ほど共和党に投票していたことを示した。しかし、今ではそれが逆になった。修士号を持っている有権者の70%が2016年にヒラリー・クリントンに投票したのだ。「このトレンドは、3つの国で実質上まったく同じである」とピケティは言う。

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ピケティが見るところ、ポスト工業社会の労働者階級(プレカリアート)(訳注: 下を参照)の選挙行動を左右しているのは、マッテオ・サルヴィーニやオルバーン・ヴィクトルなどのポピュリストの蛇使い(訳注: 下を参照)がしばしば生み出す一種の虚偽意識(訳注: 下を参照)である。ピケティは、超絶リッチな “商人” とルンペン・プロレタリアートの不自然な同盟については強い猜疑心を抱いている。そして、ボリス・ジョンソンが獲得した高い支持についても同様の雑音が聞こえる。

(訳注: プレカリアート(precariat)は「不安定な(precarious)」と「プロレタリアート」を組み合わせた語で、1990年代以後に急増した不安定な雇用・労働状況における非正規雇用者および失業者の総体)

(訳注: マッテオ・サルヴィーニはイタリアの元副首相で同盟(旧称・北部同盟)の書記長、オルバーン・ヴィクトルはハンガリー首相。共に右派ポピュリストと呼ばれることが多い。彼らが蛇使いなら、踊らされる蛇は民衆ということになるので、「ポピュリストの蛇使い」はポピュリズムを揶揄した言い方)

(訳注: 「虚偽意識」は、マルクス主義の社会学者がよく使う言葉で、資本主義社会において、階級間の社会的関係に内在する搾取を隠すために、物質的、イデオロギー的、制度的プロセスを用い、プロレタリアートや他の階級の判断を誤らせることを意味する)

 (訳注: Titania McGrath のアカウントの中の人は、英国のコメディアン。左派が言いそうなことを誇張して面白おかしくツイートするパロディ・アカウント。彼女のこのツイートにぶらさがっているのは、本当に左派の人のツイート)

木曜日に保守党はハルやハムステッドでは勝てなかった。しかし、総投票数の43%を獲得した。これは、1979年以来最高の数字だ。一方、労働党が得た議席数は203に過ぎない。これは1935年以来最低の数字である。

 

私よりも優れた多くの書き手、たとえば、ダグラス・マレージョン・グレーが、低所得の有権者が右翼政治を支持する唯一の理由は、エスノナショナリズムと偽りの希望を混ぜたカクテルに酔っているからだ (ルパート・マードックとウラジミール・プーチンの名がカクテル職人として交互に挙げられる) という考えが誤りであることを暴いてきた。間違いなくそれよりも深く関連しているのは、アメリカ中央部に住む “嘆かわしい人々” に対する左派の軽蔑である。左派が 、壁に囲まれたコスモポリタンの大票田を飛行機で行き来するときに飛び越えるような場所に住む人々だ。英国の選挙でコービンの政策プラットフォームが示したように、大都市以外に住む地元に根付いたワーキング・クラスの人々に対して、左翼政党が提供するものはほとんどなくなった。そして、左派の活動家は、白人だから、シスジェンダーだから、などといろいろな理由を付けて、こうした取り残された有権者は特権を持っているのだと言い募り、傷口に塩を塗り込むことも多い。労働党のような政党が、アイデンティティ・ポリティクスを好む中産階級の活動家の歓心を買うことに腐心し、本当の意味で不利な条件に置かれた人々の利益を無視し続ければ、連戦連敗は免れない。目覚めよ、そして破産せよ(Get woke, go broke)

 

米国民主党は労働党の失敗から学び、ジョー・バイデンや、もっと言えばピート・ブーテジェッジを候補に選ぶだろうか? 私にはそうは思えない。たとえ現実が目の前に迫っていたとしても、ポストモダン左派の熱狂者のそれを無視する能力は底なしだからだ。昨日の夜、開票結果が明らかになる中で、私は友人にこう言った。ジェレミー・コービンのような政敵と戦うのは、地球が平らだと思っているチームを相手にヨットの世界一周レースを戦うようなものだ。それは楽しいかもしれない。気分爽快にすらなるかもしれない。しかし、彼らが羅針盤を手に入れ、海図の読み方を覚えるまでは、それを公平な戦いと呼ぶことはできないだろう。(翻訳ここまで)

 

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「アメリカ人はポリティカル・コレクトネス文化を強く嫌悪している」という米アトランティック誌の記事を訳してみた

「アメリカ人はポリティカル・コレクトネス文化を強く嫌悪している」という記事を訳してみた。学識者による全国的な調査の結果、米国でも圧倒的多数の人がポリティカル・コレクトネス(PC)文化を嫌っていることがわかった、という記事。

記事の要点は以前こちら(↓)にまとめたのでご興味のある方はどうぞ。

tarafuku10working.hatenablog.com

 

この記事は、2018年10月に米国のアトランティック誌に掲載されたもの。筆者は政治学者のヤシャ・モンク(Yascha Mounk)氏。アトランティック誌は歴史の古い雑誌で、リベラル寄りと言っていいと思う。ちょっと古い記事なのですが、80%が嫌っているという数字に私自身びっくりしたし、日本語で参照できるようにしとくのもいいかな、と思ったので訳しました。

 

www.theatlantic.com

 

(翻訳ここから)

アメリカ人はポリティカル・コレクトネス文化を強く嫌悪している

若さはPC支持の指標とならないが、それは人種も同じである。

2018 年10月10日

ヤシャ・モンク (Yascha Mounk)

 

ソーシャル・メディアでは、この国は2つの陣営にきれいに分かれているように見える。それぞれ、「目覚めた人々」(The Woke)と「憤慨した人々」(The Resentful)と呼ぶことにしよう。憤慨した人々のチームは、その多くが男性であり、年配であり、ほぼ間違いなく白人だ。目覚めた人々のチームは、若く、女性の割合が高く、黒人、褐色の肌の人、アジア系が圧倒的に多い (白人の「アライ(支持者)」も忠実に義務を果たすが)。2つのチームは、数の上ではほぼ同じ。そして、最も熱心に、また最も日常的に意見を戦わせているのが、ポリティカル・コレクトネス(PC)と呼ばれる、あらゆる状況を覆いつくす概念についてだ。

 

だが、現実はこれとはまったく異なる。研究者であるスティーブン・ホーキンス、ダニエル・ヤドキン、ミリアム・ホァン=トレス、ティム・ディクソンが水曜日に発表した「隠れた種族: アメリカの二極化した状況に関する研究 (Hidden Tribes: A Study of America’s Polarized Landscape)」という報告書によれば、ほとんどのアメリカ人は、どちらの陣営にも属さない。また、ソーシャル・メディアで毎日のように繰り広げられる争いの陰に隠れているかもしれないが、共通点も多い。そして、その共通点には、PC文化に対する全般的な嫌悪も含まれる。

 

この調査は、「More in Common」によってまとめられた。これは、ブレグジットの国民投票の直前に殺害された英国国会議員のジョー・コックスを追悼して設立された組織である。調査は、全国を代表する8,000人の回答者による世論調査、30回の1時間に及ぶインタビュー、6つのフォーカス・グループという形式で、2017年12月から2018年9月にかけて行われた。

 

報告書を書いた研究者たちによれば、移民、白人の特権の程度、セクシュアル・ハラスメントの広がりなどの問題をアメリカ人がどう考えているか調査したところ、7つの明確な集団が浮かび上がってきたという。それらは、進歩的活動家、伝統的リベラル、受動的リベラル、政治的無関心派、穏健派、伝統的保守派、そして、ひたむきな保守派である。

 

この報告書によれば、アメリカ人の25%が伝統的保守派またはひたむきな保守派であり、彼らの見方はアメリカ人の主流派からは大きく外れる。また、アメリカ人の約8%は進歩的な活動家だが、彼らの意見はこれよりもさらに一般性が低い。対照的に、両極に属さない3分の2のアメリカ人は、「疲れ果てた多数派」である。彼らは、「二極化した全国的な対話について倦怠感を抱いており、自身の政治的見方を柔軟に変える用意があり、全国的な対話において声を代弁してくれる人がいないと感じている」。

 

「疲れ果てた多数派」のほとんどは、PCを嫌っている。母集団全体の80%が「PCはこの国の問題である」と考えている。若い世代ですら、24~29歳の74%、24歳未満の79%が、PCに気まずさを感じている。この特定の問題に関しては、「目覚めた人々」はすべての年代で明らかに少数派である。

 

若さはPC支持の指標とならないが、それは人種も同じである。

 

PCがこの国の問題であると考えている白人は、79%と平均よりもほんの少し低いだけだ。アジア系は82%、ヒスパニック系は87%で、アメリカ先住民(88%)はPCに反対する可能性が最も高い。報告書によれば、オクラホマに住む40歳のアメリカ先住民男性は、参加したフォーカス・グループでこう言っている。

 

「毎朝、目が覚めると、何かが変化しているようだ。「ユダヤ人(Jew)」と言えばいいのか、それとも「ユダヤ系(Jewish)」? 「黒人」それとも「アフリカ系アメリカ人」? 何を言っていいかわからないので、びくびくしている。その意味で、PCはおっかない」

 

今回のデータで部分的に追認できた定説の1つは、アフリカ系アメリカ人はPCを支持する可能性が最も高いということである。しかし、彼らと他の集団の間の差は、一般に思われているよりもずっと小さい。アフリカ系アメリカ人の4分の3がPCに反対している。これは、白人より4%、平均よりも5%少ないだけである。

 

年齢と人種でPCの支持率を予測できないとすれば、何を頼りにすればよいのか? 収入と教育である。

 

年収が5万ドル未満の回答者の83%がPCを嫌っているが、10万ドル超を稼ぐ層でPCに懐疑的なのは70%に過ぎない。大学に通ったことのない回答者の87%は、PCが問題だと考えているが、大学院を卒業した回答者の場合は、66%しかそのように考えていない。

 

PCに関する意見を予測する際にさらによい指標となるのは、報告書の著者が定義した政治的種族である。ひたむきな保守派の97%がPCは問題だと考えている。伝統的リベラルの場合は61%である。PCを強く推す唯一の集団は進歩的活動家であり、彼らの中でPCを問題だと考えるのは30%に過ぎない。

 

では、進歩的活動家とはどのような人々だろうか? 進歩的活動家は、(全国を代表する)世論調査サンプルの残りと比べて、裕福で高い教育を受けており、白人である。年収が10万ドルを超えている可能性は、平均のほぼ2倍である。また、大学院を卒業している可能性は3倍に近い。今回の調査全体に占めるアフリカ系アメリカ人は12%だが、進歩的活動家に占める割合はたった3%だ。ひたむきな保守派という小規模な種族を除けば、進歩的活動家はこの国で最も人種的に同質な集団である。

 

明白な疑問の1つは、人々は何をもって「ポリティカル・コレクトネス」とするのかということだ。長時間の面接とフォーカス・グループにおいて、参加者は自分の考えを述べるという日常的な能力について懸念があるのだということが明らかになった。あるトピックに精通していない場合や、軽はずみな言葉を選択した場合に、深刻な社会的制裁を受けるのではないかと心配しているのだ。しかし、調査の質問では、PCの定義を回答者に示していないので、PCが問題だと考えたアメリカ人の80%が何を念頭に置いていたのかを正確に知ることはできない。

 

しかし、多くのアメリカ人の社会に対する見方は、一般に信じられているほど年齢や人種によってはっきり分かれているわけではないようだ。この説を支持するデータは、他にもたくさんある。たとえば、ピュー・リサーチ・センターによれば、自分がリベラルだと思っている黒人のアメリカ人は26%しかいない。「More in Common」調査では、ラテン系の半分近くが「今日、イスラム教徒がどのように処遇されるかについて、多くの人が過敏になりすぎている」と答えている。また、アフリカ系アメリカ人の5人に2人が「今日、移民はアメリカにとって悪いことである」という考えに同意する。

 

「隠れた種族」報告書が公開される数日前、私はTwitterでちょっとした実験を行った。アメリカ人の何%が、この国でPCが問題だと考えているのか予想してほしいと、フォロワーに頼んだのだ。その結果は、驚くべきものだった。私のフォロワーのほぼ全員が、アメリカ人がPCを拒絶する割合を低く見積もっていた。正解したのはたった6%だった(有色人種がPCについてどう考えているかという問いについては、当然のことながら、彼らの予想はさらに大きく外れていた) 。

 

もちろん、私のTwitterアカウントのフォロワーが、アメリカを代表するサンプルだと言うつもりはない。しかし、彼らは一般的にPCを支持していることから、おそらく、特定の知的環境を十分に代表していると言えるだろう。そこには私も属している。つまり、政治に積極的に関与し、高い教育を受け、左派的なアメリカ人だ。言い換えれば、大学で責任のある地位に就き、アメリカの最も重要な新聞や雑誌を編集し、選挙運動では民主党の候補者にアドバイスするような人々だ。

 

多くの人がPCについてどう感じているのかについて、私たちがこれほど的外れな理解をしているのであれば、この国に関するその他の基本的な定説も見直した方がいいだろう。

 

明白な人種的憎悪を吐き出すことを正当化するために、PCがうまくいかなかった例を嘲笑う人々が、右派の一部にいることは明白だ。一部の進歩派が、PCは右派発見器であり、あえてPCを批判する人は右派に利用されるばかだと考えるのも理解できないことではない。しかし、これは、「目覚めた人々」の文化に深い疎外感を感じているアメリカ人に対して公平な言い方ではない。アメリカ人の80%がPCはこの国の問題になったと思っている一方で、これよりも多い82%の人がヘイト・スピーチも問題であると思っているのだ。

 

今回の調査でわかったのは、進歩的活動家はヘイト・スピーチのみが問題だと考える傾向があり、ひたむきな保守派はPCのみが問題だと考える傾向があるということだ。そして、大多数のアメリカ人は、もっとニュアンスに富んだ見方をする。彼らは、レイシズムをひどく嫌悪しているが、今のPCのやり方は、人種的不公平を克服するための有望な手段ではないと考えているのだ。

 

また、調査結果は、社会的特徴の目印として言論規範を使うその方法について、進歩派に反省を促す。裕福で高い教育を受けた人々が、「問題のある」言葉を使った人や、文化の盗用を犯した人を非難するとき、私は彼らの誠実さを疑うわけではない。しかし、少なくとも「隠れた種族」報告書のために行われた調査によれば、大多数のアメリカ人の目には、それは社会正義に対する心からの懸念ではなく、文化的優越性を誇らしげに見せびらかしているように映っている。

 

年齢や人種を問わず、政治をそれほど熱心に追いかけているわけでもなく、ユタ州に住むティーンエージャーがプロムで着たドレスについての議論(訳注: 2018年5月、ユタ州に住む中国系でないティーンエージャー女性がプロムにチャイナドレスを着ていった写真を投稿したところ、それを文化的盗用だと非難する人達が出てきて大騒ぎになった)よりも、家賃の支払いについて心配している数多くのアメリカ人には、近頃のコールアウト文化(訳注: PC的に不適切な言動をした人をあげつらい、非難(コールアウト)する文化)は、他人の価値観や無知を嘲笑うための言い訳にすぎないと見られている。ミシシッピ州に住む57歳の女性はこう思い悩む。

 

「なんでも正しい呼び方をしないといけない。正しい呼び方をしないと、差別していることになる。誰もがどう呼ばれるべきか分かっているみたいだが、私たちの中にはそれが分からない人もいる。しかし、分かっていなければ、すごく問題のある人ということにされる」

 

この問題に関する進歩派の感じ方と一般市民の現実的な見方のギャップは、「目覚めた」エリートが集団的に運営する組織にダメージを与える可能性がある。アメリカ人の多数の見方を代表していると編集者が信じている出版物が、実は国内の少数派にしか語りかけていないのなら、ゆくゆくはその影響力が低下し、読者数は減少するかもしれない。人口の半分を代表していると考えている候補者が、実際には5分の1の意見しか代弁していないのなら、その候補者は次の選挙でおそらく落ちる。

 

民主主義において、人々が世界をどのように見ているのかを根本的に誤解しているのであれば、市民を自分の味方に付けることや、現実に残る不公正を是正するために一般の支持を取り付けることは難しい。(翻訳ここまで)

 

2019/12/31追記

私は読んでないのですが、この記事を書いたヤシャ・モンク氏の本が日本でも出版されているようですのでご紹介しておきます。

 

「自己責任の時代 その先に構想する、支え合う福祉国家」みすず書房、2019/11/20発売、2960

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「民主主義を救え」岩波書店、2019/8/29発売、3080円 

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David McNeill's half-baked story on a high-profile rape case in Japan

McNeill's article was punlished for the Irish Times on 22/Dec/2019 online and 23/Dec/2019 on paper. My comment below was posted in the comment section of the article.

www.irishtimes.com

 

This article is written by a journalist who is part of those people who once hampered Shiori Ito’s pursuit of the truth. He is now presenting himself as a champion of women’s rights here.

 

Ito had a press conference on 29 May 2017 at the Judiciary Journalist Club. She tried to have another one the following day at the Foreign Correspondents' Club of Japan (FCCJ) but her application was disapproved by its Professional Activities Committee (PAC). The reason was explained by David McNeill, who wrote this article and was a member of PAC at the time, to the Weekly Gendai, “what is important to the (foreign) correspondents is whether this incident affects Abe administration.” 

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Really? Was this high-profile rape case news-worthy only if it had political implication? Even if alleged offender Yamaguchi was an employee of the Tokyo Broadcasting System (TBS), one of Japan’s major broadcasting companies, and the incident happened in relation to Ito’s job or intern placement?

 

As this article says, an arrest warrant of Yamaguchi was inexplicably revoked. The left (the opposition parties and main-stream media) tried to associate this with Yamaguchi’s close relationship with PM Shinzo Abe.

 

However, there is an inconvenient fact that doesn’t fit their narrative. Some key figures of the then largest opposition party Democratic Party of Japan (DPJ) dissuaded its members to question about the incident at the Diet although the questioning might have helped finding the truth as well as achieving their political gain.

 

Journalist Takashi Uesugi, who supported Ito personally, but didn’t go along with the narrative, has his own podcast program “Op-Ed” in which those key figures who dissuaded questioning were named as Yukio Edano (former Minister of Economy, Trade and Industry) and Jun Azumi (Former Minister of Finance), both of DPJ. Uesugi claims that he has asked Edano (now the leader of Constitutional Democratic Party of Japan that was developed from DPJ) and Tetsuro Fukuyama (CDPJ’s No. 2) to explain why in many occasions, but in vain. 

www.youtube.com

Hiroyuki Konishi, a lawmaker in the Upper House and then a member of DPJ, also acknowledged such dissuasion from some members of opposition parties at the FCCJ press conference on 25 October 2017. 

www.youtube.com

 

Why did the largest opposition party self-destroy the golden opportunity to attack the ruling party if the arrest warrant was indeed revoked under the influence of Abe administration? Why didn’t TBS investigate, address or report the incident when they were aware of the police looking into it as a possible rape case and how come could they get away with it? Why is everybody from the left, including the opposition parties, the main-stream media as well as this article so quiet about TBS, which quite possibly is responsible for the incident as Yamaguchi’s employer, and is potentially powerful enough to influence the law enforcement authorities? Why does Ito seem to have made no effort to hold TBS accountable? Why did FCCJ, a club for foreign correspondents who generally love Japan-themed erotica so much like Sir. Richard Burton who creatively translated the Arabian Nights with loads of sexual exaggerations and additions, initially turn down Ito’s presser?

 

It is clear this article doesn’t tell the whole story.

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Japanese version of this post.

tarafuku10working.hatenablog.com

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UK総選挙: ダグラス・マレーのコラム「英国の分断は、北 vs 南でも、赤 vs 青でもない。醜く非寛容な左派とその他の人々との間の分断である」を訳してみた

 

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20191212(木曜日)に行われたUKの総選挙は、ご存じのように保守党の圧勝に終わりました。これで来年1月末のブレグジットはほぼ決定。歴史的大敗を喫した労働党のコービン党首は辞任。自由民主党党首のジョー・スウィンソンは、獲得議席数こそ1減と踏みとどまったものの、本人が落選して、こちらも党首を辞任しました。

 

 

なぜ労働党は敗れたのか。選挙結果を受け、『西洋の自死』の著者であるダグラス・マレーが、ディリー・メール紙におもしろいコラムを書いていたので訳してみました。題して、「英国の分断は、北 vs 南でも、赤 vs 青でもない。醜く非寛容な左派とその他の人々との間の分断である」。

 

www.dailymail.co.uk

 

(翻訳ここから)

 

私たちの国に厄介な分断が新たに生じている。しかし、それは、人々が想像するような分断ではない。それを最もよく表したのが、ロンドン西部のパトニー(Putney)の選挙結果だ。裕福な人々が住むパトニーは、労働党が保守党から議席を奪った数少ない選挙区の1つである。

 

パトニーには、ケンジントンやチェルシーと同様に、100万ポンド(15000万円)を超える法外な値段の家が立ち並んでいる。労働党が政権をとれば、ここに住む人々の税金は跳ね上がるだろう。それでも、この選挙区の有権者は、ジェレミー・コービンやジョン・マクドネル(訳注: 労働党の国会議員、影の内閣の財務大臣)が約束する社会主義者の実験に投票することを選んだ。そして、そうすることで、すべての定説を覆した。

 

その一方で、ダービーシャーのボルソーバー(Bolsover)などの選挙区では、これまで聞いたことがないことが起こった。この選挙区選出のデニス・スキナーは、半世紀近くにわたって労働党の国会議員を務めており、ボルソーバーは労働党の牙城の代名詞であった。

 

ボルソーバーでは、瀟洒なセミデタッチトの家が10万ポンドで買える。これはパトニーの10分の1の値段である。しかし、左を向いたのがパトニーであり、右に向かったのがボルソーバーだった。(訳注: セミデタッチトの家とは、2つの世帯が中央の壁で区切られた1つの建物に住むような設計の家。日本では俗にニコイチと呼ばれ、公営住宅のイメージが強いが、イギリスでは中産階級のエリアでも普通にある)

 

先週の桁外れの大混乱を、左右の対立だと捉えるのは正しくない。

 

ほんとうの分断は、人々の意思を実現することに取り組んでいる保守党と、3年半にわたってそれを覆すことに専心してきた2つの左翼政党の間に生じている。

 

それは、現実世界の懸念を持つ人々と、ニッチでほとんど重要性のない懸念を持つ人々との間の分断だ。政府がどのような統治を行うのか、国民の暮らしはどうなるのか、大量の移民はどうあるべきなのかなどについて懸念を持つ人々と、そうしたことに気付いたというだけで、彼らを時代遅れで偏狭だと怒鳴りつける人々との間の分断だ。

 

どうしてこんなことになってしまったのか、とあなたは尋ねるかもしれない。そのヒントは、木曜日の破滅的な敗北に対する労働党の機能不全の反応にある。

 

保守党の地滑り的と言ってよいほどの勝利の後でも、労働党の実権を握る左翼装置は、何も学ばないことを選んだ。

 

彼らはこの機会を、自省のために使ったり、新しい分断にどうアプローチするかを考えるために使ったりはしない。彼らは、これまでと同じ言葉を繰り返す。しかも、ボリュームを上げて。

 

その完璧な例が、自称エコノミストで、コービンのフルタイム応援団員であるグレース・ブレークリーだ。彼女は、金曜日にITVの『Good Morning Britain』に出演し、視聴者に向けて「コービンは神」的なマントラを唱えた。彼女の親愛なる指導者が党を歴史的な敗北に導いた数時間後、労働党の「民主的に策定された」政策は「信じられないほど人気が高い」とテレビ番組で盲目的に主張したのである。

 

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スタジオにいた他のゲストは、労働党のジャッキー・スミス元内相も含め、彼女の意見に反対した。しかし、ブレークリーは別の宇宙に住んでいるかのようだった。

 

「この国の人々は、相当に急進的な左翼思想を支持している」と彼女は叫んだ。スタジオが紛糾する中、ブレークリーは品位のかけらも見せなかった。ピアース・モーガンやその場にいる全員に対し、「彼らは支持している」と繰り返し叫んだ。

 

これが示すことはただ1つ。ブレークリーのような人々が負けを認められないのには理由がある。彼らに同意しない人に会ったことがないのだ。

 

いや、ソーシャル・メディアでは会うこともあったかもしれない。だが、そこでは、簡単にフレンド解除したり、ブロックしたりすることができる。だが、英国の有権者全体を無視するのは、それよりもずっとずっと難しい。

 

しかし、これが起きてしまった。近年、ブレークリーのような英国左派の一部は、非常に注意深くエコー・チェンバーを構築し、その中に閉じこもってしまった。

 

このチェンバーの中では、英国一般市民の大部分の考え方を、一貫して無視することができる。その最たるものが、2016年の国民投票の結果だ。

 

このロンドンを中心とした小集団は、そのプロセスにおいて、この国に住むほかの人々を置き去りにした。

 

これが、英国の政治に存在すると以前は言われていた分断 ( vs 南、赤vs )が、完全に取って代わられた理由である。現在の分断は、急進的左派とその他の人々の間にある。(訳注:赤と青は、それぞれ労働党と保守党のシンボルカラー)

 

こうはならない選択肢だってあったはずだ。2015年の総選挙でエド・ミリバンド(訳注: 当時の労働党党首)が失敗した後、その敗北の主な教訓は「急進性」が足りなかったことだと結論付ける必要はなかったはずだ。しかし、彼らが党首に選んだのはコービンだった。それこそが彼らがやったことだ。

 

2016年の国民投票の後も同じだ。以前であれば、労働党も自由民主党も、こうした結果を受け入れていただろう。しかし、私たちの歴史で初めて、こうした政党の実権を握るカルト集団が結果を受け入れないことに決めた。結果を無視しただけでなく、一般大衆をばかだ、無知だと嘲笑って侮辱し、だまそうとした。

 

2回目の国民投票を求めるキャンペーンを「People’s Vote (人々の票)」と名付けるなどの仕掛けを弄する彼らは、私たちは鈍いから彼らが何をしているのか気付かないと思っているのだ。

 

彼らは、私たちの政治をシンプルな二項対立に落とし込んでしまう。「希望」か「恐怖」か。レイシズムか寛容か。国民医療サービス(NHS)を潰すのか救うのか。

 

加えて、微小な問題に取り組み始めたことで、彼らは一般大衆の支持を完全に失った。木曜日の潔くない敗者をもうひとり紹介しよう。ジョー・スウィンソンだ。今では自由民主党の 党首となった彼女は、投票日の前日にBBCラジオ4の『Today』という番組に出演し、英国有権者の約0.01%にしか影響しないことについて話した。トランスジェンダーの人々のために、自由民主党はパスポートの性別欄に “x” を付け加えるというのだ。(訳注: M - 男性、 F - 女性に加えて、どちらにもあてはまらないと思う人向けに x を用意するということ)

 

スウィンソンのエコー・チェンバーでは、こうした物事をきちんとすることが重要なのだ。一歩間違えば、 Twitterで焼かれる。その後もスウィンソンは、生物学的な性は社会的構成概念に過ぎず、人は男性か女性のどちらかであると信じる人々はトランスジェンダーの人を悪魔化しているのだという主張を延々と続けた。これ以上にニッチな問題を想像することは難しい。

 

それからほんの数日後、自身の選挙区の開票所で、イースト・ダンバートンシャーの有権者が彼女を下院議員に再選しなかったことにスウィンソンが顔色を失くす様は、ほんとうに美しい光景だった。彼女はお馴染みの態度で、「暖かさ」「寛容さ」「希望」に反対した人々を責めた。しかし、彼女は149票差で敗れた。皮肉なことだが、もし彼女がイースト・ダンバートンシャーの人々に対して、もう少し寛容さと暖かさを示していたなら、彼女は今でも国会議員を続けていられたのではないか。

 

私はたまたま、この国の大多数の人々と意見が同じである。私は、長年にわたって、左翼のロボットたちを間近で見てきた。公会堂や放送局のスタジオで彼らと同じテーブルに座り、一般大衆と同じような侮辱を彼らから受けてきた。

 

彼らは私のことを「ちんけなイングランド野郎(Little Englander)」と呼んだ。私がたまたま、イギリスはEUの中ではうまくいかないと考えていたからだ。彼らは私のことを「レイシスト」「くず(scum)」と呼んだ。移民が非常に多いことを私が懸念したからだ。彼らは私のことを「偏狭な人間(bigot)」「トランス嫌悪(transphobe)」と呼んだ。私が、生物学的な性など存在しないというふりをすることを拒んだからだ。(訳注: Little Englander - 元々は、19世紀に大英帝国の拡大に反対した自由党の一部を指した言葉。最近では、イングランドのナショナリスト、または外国人を嫌悪する人や過剰なナショナリストに対する侮蔑語として使用される)

 

こうした仕打ちを受けた後、その前よりも彼らに票を入れたいという気持ちには私はならなかった。一般市民も同じではないかと思う。

 

言うまでもなく、このメッセージはまだ彼らに届いていない。

 

木曜日の出口調査の結果が発表された直後、元ジャーナリストのポール・メイソンは、保守党の勝利が示すのは、「若者に対する老人の勝利であり、有色人種に対するレイシストの勝利であり、この惑星に対する利己主義の勝利である」と宣言した。

 

金曜夜のウェストミンスターのデモでは、負けを受け入れられない人たちが、警察を攻撃し、民主主義を侮辱した。

 

(ボリス・ジョンソンが)惨たらしい死に方をすればいいのにと思う」と、雄弁な若い女性のデモ参加者がカメラに向かって言った。「私はNHSで働こうと思っている。私は医者になろうと思っている。人をほんとうに大切にしようと思っている」。信じがたいことに彼女はこう続けた。「くそったれ(Go f*** yourself)のボリス・ジョンソン。心の底から言うわ。このくずが(What a c***)

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現在の英国に分断が存在するのは事実だ。しかし、それは過去の分断のどれとも似ていない。それは、都市に住む醜く非寛容な左派とそれ以外の人々との間の分断だ。そして、木曜日に美しい形で示されたように、彼らよりも私たちの方が数の上では勝っている。

(翻訳終わり)

 

 ダグラス・マレーの著書:『西洋の自死: 移民・アイデンティティ・イスラム』東洋経済新報社、2018/12/14発売、価格 3080(税込み)

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