豪 Quillette 誌の「英国労働党は目覚め、そして破産した」を訳してみた

 

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オーストラリアのオンラインマガジンであるQuillette誌に掲載されていた「英国労働党は目覚め(woke)、そして破産(broke)した」という記事を訳してみた。

Woke は Wake (起こす) の過去分詞で、「社会正義に目覚めた(意識が高い)」ぐらいの意味で最近よく使われる。左派が自分たちのことを指すときにも使うが、右派が使うときは揶揄のニュアンスが入っていることもある。

筆者のトビー・ヤングは同誌のアソシエート・エディターだが、友人がニューカッスルのある選挙区で保守党から立候補したので、選挙運動を手伝ったという。英国では合法の戸別訪問をする中で彼が体験したことから、なぜ労働党が失敗したのかを考察します。

元記事の公開は2019年12月13日。選挙の翌日です。

quillette.com

 

(翻訳ここから)

英国労働党は目覚め、そして破産した

2019年12月13日

トビー・ヤング(Toby Young)

昨日の英国総選挙で保守党が圧勝したが、「レッド・ウォール(赤い壁)」を選挙運動で歩いた者にとって、これは驚くような結果ではない。「レッド・ウォール」とは、イングランドのミッドランドや北部に広がる、労働党が強い地域に付けられた名前である。そのうちのいくつかの選挙区では、75年以上にわたって、労働党が議席を守り続けてきた。かつては英国の鉄鋼産業の中心地であったシェフィールドのペニストン・アンド・ストックブリッジ(Penistone and Stockbridge)、以前は炭鉱の町だったダラム(Durham)郡のビショップ・オークランド(Bishop Auckland)。今回の選挙で、これらの選挙区の議席は、労働党の牙城であるポスト工業地域の数多くの議席と共に、保守党が奪った。これはもう「レッド・ウォール」ではなく、青と赤の正方形で構成されるモンドリアンの絵のようである(訳注: 赤と青は、それぞれ労働党と保守党のシンボルカラー)。ボリス・ジョンソンの保守党に、1983年以来最大の議席数を与えたのは、こうした選挙区の有権者である。彼らの多くは、最低賃金で働き、公営住宅で暮らしている。

 

彼らは、金髪のリーダーをそれほど愛しているわけではない。私の友人の1人が、ニューカッスル・アポン・タイン・ノース(Newcastle upon Tyne North)選挙区で保守党から立候補した。2年前の選挙では、労働党の現職議員が10,000票の差を付けて当選した選挙区だ。私は先週、彼の選挙運動を手伝うために、何軒かの家を戸別訪問した。私が話したすべての人が、保守党に票を入れるつもりだと話した。「ブレグジットにケリをつけたいから」と言う人もいた。「ブレグジットにケリをつける(Get Brexit Done)」は、保守党が過去6週間で何度も何度も繰り返してきた言葉だ。しかし、労働党党首に対する理屈抜きの嫌悪感を理由にする人もいた。

 

「以前は筋金入りの労働党支持者だった私の知り合いの多くは、ジェレミー・コービンはありえない、と言っている」と、スティーブ・ハートと言う名のエンジニアは言う。「労働党はもう私たちの党ではない。ラベルは同じだが、中身が違う」

 

私と共に歩いた運動員によれば、どこに行ってもこういう反応があるという。その日、彼は既に公営住宅団地の世帯を100軒訪ねていた。そのうち、3人を除くすべての人が、保守党に投票するつもりだと言った。これは、人口の26%がイングランドの最貧層に属する都市での話である。コービンが嫌いなのなら、単に棄権すればいいだけではないのか、と私は尋ねた。12月の厳しい寒さの中を、なぜわざわざイートン校出身の洒落男が率いる党に投票しに行くのか?

 

「それほどコービンを憎んでいるということだよ」と彼は言った。「彼らがコービンに贈ることができる最大のメッセージは、保守党の政権を実現することなんだ」

 

イングランドのいたるところで、同様のことが起こった。労働者階級の有権者が大挙して労働党を見限ったのだ。収入別や職業別の投票行動が明らかになるまでには、しばらく待たなければならない。しかし、投票日前の世論調査では、驚くようなデータがいくつか明らかになった。たとえば、メール・オン・サンデー紙の依頼を受けてデルタポール社が先月行った調査によれば、 全国読者層調査(NRS)分類システムの下半分に相当するC2DE 社会階層に属する人々は、49%が保守党を支持し、労働党支持は23%に過ぎなかった。この分類システムは、職業によって人々をランク付けするものである。すなわち、NRS分布の下半分に属する、熟練/半熟練/非熟練労働者や、国の年金/福祉手当で生活している人々は、2対1以上の割合で、労働党ではなく保守党に投票しようとしていたのである(出口調査が示す実際の数値は1.5対1に近いものだった)。

 

火曜日、2日後の選挙結果がどうなるかを垣間見せるような出来事が起きた。労働党の影の厚生大臣であるジョン・アッシュワース議員のプライベートな会話の録音が流出したのだ。彼は、大都市圏の外では党の状況がどれほど “ひどい (dire)” かを友人に話していた。「地方の状況は真っ暗闇だ」と彼は言った。「彼らはコービンに我慢ならない。労働党がブレグジットを邪魔したと思っている」。

 

アッシュワースは、英国の選挙地図を “あべこべ (topsy-turvey)” と形容した。伝統的な労働党地域での負けが予想されることだけでなく、カンタベリー(Canterbury)などの中産階級の都市で労働党の支持率が上がっていることを指したものだ。世論調査が示すもう1つの驚くべきデータは、大卒者の間で労働党がリードしているということだ。一般的に、大卒者の割合が高い地域ほど、今回の選挙で左に振れる可能性が高かった。また、その逆も同じだ (カンタベリーの議席は労働党が維持した)。

 

「レッド・ウォール」の崩壊は、今回の選挙の中心的な話題だった。一部の評論家は、これを1回限りのものだと説明する。世間一般の通念に従えば、労働者階級の有権者は今回、保守党に票を “貸した” だけであり、意外なことが起きなければ、次の選挙では労働党支持に戻ってくるだろう。メディアにいるコービンの伴走者たちは、勝敗を分けたのはおそらくブレグジットだ、と言う。労働党の敗北を大将のせいにするのは我慢ならないのだ。

今回、保守党が議席を奪った労働者階級の選挙区を見てみると、そのほとんどが2016年の国民投票で離脱派が残留派に大差を付けて勝った場所である。たとえば、イングランド・ヨークシャーの港湾都市であるグレート・グリムズビー(Great Grimsby)では、離脱派が残留派を71.45%対28.55%で破っている。彼らの分析によれば、労働党の問題は、選挙運動でEU離脱の推進を明確にせず、新しい離脱の取り決めを交渉した後、2回目の国民投票を実施して、その取り決めを受け入れるか、残留するかを有権者が選べるようにすると言ったことだ。このごまかしは、大卒者を味方に付けるには十分だったかもしれないが、イングランドの錆び付いたかつての工業地帯に住む、離脱派で労働者階級の有権者を遠ざけたのかもしれない、というのだ。

 

この分析は精査に耐えない。まず、労働党が労働者階級の支持を失い、裕福で教育レベルの高い有権者の支持を増やしているのは、長期的なトレンドであり、例外的な状況ではない。労働党の伝統的な支持基盤の消失は、今回の選挙だけの話ではなく、英国の戦後政治史のメインテーマの1つである。労働党は、絶頂期には、ロンドンや南部に住む大卒のリベラルと、ミッドランドや北部の工業都市に住む低所得の有権者との連合を形成することに成功した。 “ハムステッド(Hampstead)からハル(Hull)まで” (訳注: ハムステッドは中産階級の街の代表で、ハルは工業都市の代表。Hで頭韻を踏んでいる) という言い回しはこうして生まれた。しかし、大量移民とグローバリゼーション、そして膨れ上がる福祉費用とEUのメンバーシップにより、労働党を支持する中産階級と労働者階級の間に亀裂が走った。

 

1974年10月の選挙では、熟練労働者(C2層)の49%と、半熟練/非熟練労働者(DE層)の57%が労働党に票を入れた。2010年には、その数字はそれぞれ29%と40%に落ちた。中産階級の有権者 (ABC1層)について言えば、保守党の支持率は 1974年の56%から2010年には39%に下がった。1974年には、労働党はC2層(熟練労働者)で23%のリードを誇ったが、2010年には保守党に逆転され、8%差を付けられた。2017年もこのパターンは繰り返された。一方、大卒者の間では、2017年の労働党の支持率は保守党を17%上回っていた。これは、2015年と比べても2%伸びている (調査会社のIpsos MORIが作成したこのデータ表を参照のこと)。

 

ジェレミー・コービンと彼の支持者は、労働者階級の票を取り戻すことを熱心に言い募っていたが、コービンの政治的立場は労働者階級にアピールするものではなかった。私は単に、ブレグジットに関する彼の煮え切らない態度について話しているのではない。国旗、信条、家族を大切に思う有権者の間に、コービンはこれらに価値を置く人間ではないという印象が広まっていたのだ。2015年に労働党党首になる前、彼は、スエズ動乱以来、フォークランド紛争も含め、英国が関与したほとんどすべての軍事衝突に精力的に抵抗してきた。彼はまた、英国の独立核抑止力の放棄、NATOからの 脱退、情報機関の解体を主張してきたし、2015 年のバトル・オブ・ブリテン記念式典で国歌を歌わなかったのも有名な話だ。国を愛することが今でも深く根付いた感情である労働者階級有権者の目には、コービンが英国の味方に見えることよりも、英国の敵の味方に見えることの方が多い。

 

労働党の党首選でコービンが勝った後、2014年には193,754人だった党員数は、2015年には388,103人へと大きく増えた。しかし、彼に魅力を感じる活動家たちは、大多数が中産階級である。ガーディアン紙が入手した労働党の内部データによれば、彼らが持ち家のある「高ステータスの都市生活者」である可能性は不釣り合いに高い。

 

労働党の最新のマニフェストに記載された政策を注意深く分析すると、党が提案する公共支出の増大によって利益を受けるのは、主に中産階級の支持者であることがわかる。ちなみに、保守党は労働党の公約を実現するには1.2兆ポンドもかかると試算している。

 

たとえば、労働党は鉄道料金を33%下げると約束していたが、その予算は道路に使うお金を節約することで捻出するとしていた。しかし、自家用車で通勤するイギリス人は68%に達するのに対し、鉄道で通勤する人は11%に過ぎない。そして、電車通勤の人の方が傾向としては裕福である。また、コービンは、年に72億ポンドをかけて、大学の授業料を廃止すると約束した。これは、非常に逆累進的な政策であり、財務研究インスティチュート(IFS)によれば、中~高収入の大卒者にはメリットがあるが、低所得の人々にとっては “まったくといっていいほどほとんど“ 得のない政策だ。

 

また、コービンの興味と見た目 (70歳のベジタリアンで、電車の運転士の帽子が好きで、抗議運動による政治に生涯没頭してきた) は、ほとんどの労働者階級の有権者にとって、”風変り (weird)” だと捉えられている。ニューカッスルで戸別訪問を行っていた私の仲間の運動員は、”風変り” という言葉を玄関口で何度も耳にしたという。コービンはまた、悪意に満ちた反ユダヤ主義者の侵入を許したリーダーであり、彼がその対応に失敗したことで、労働党は現在、英国の平等人権委員会の調査を受けている。既に彼の支援者の1人は、選挙で負けたのはユダヤ人のせいだと言い出している。

 

 

しかし、C2DE層の有権者が労働党に背を向けた主な理由は、ブレグジットでもなければ、コービンでもない。これら2つは、少なくとも過去45年間にわたって進行してきたトレンドを増幅する役割を果たしただけである。そのトレンドとは、「ハムステッド/ハル」連合のほころびと、労働者階級の労働党支持率の落ち込みである。

 

関連する現象で、見過ごされがちなものがもう1つある。こうした “あべこべ” 政治は、英国に限った話ではないということだ。アングロスフィア(訳注: 英国と文化的背景を共有する西洋の英語圏)のほとんどや、その他の西洋民主主義国家の中道左派政党は、彼らなりの「レッド・ウォール」の崩壊を体験してきた。今年5月のオーストラリアの選挙で、スコット・モリソンの自由党が下馬評を覆して勝利した理由の1つは、ビル・ショーテンの労働党が、クイーンズランドなどの伝統的な労働者階級の地域で非常に人気がなかったからだ。スカンジナビアでは、大都市以外において、社会民主主義的な政党に対する支持が過去15年ほどで急降下した。

 

フランスのマルクス主義者であるトマ・ピケティは、昨年、この現象について、「バラモン左翼と商人右翼: 不平等の高まりと変化する政治闘争の構造」という論文を書いた。これは、彼の最新の本である『資本とイデオロギー』のテーマでもある。彼は、米国、英国、フランスの政治は(ピケティは今回の分析をこの3か国に限定している)、バラモン左翼と商人右翼という2つのエリート集団間の争いに支配されているという仮説を立てた。米国、英国、フランスの左翼政党は、以前は選挙に勝つために “地元密着主義者” の有権者を頼りにしていた。教育レベルが低く、低所得の有権者だ。しかし、1970年代から、”グローバリスト” の有権者を引き寄せるようになってきた。教育レベルも所得も高い有権者だ(ただし、所得が上位10%に入る層は除く)。その間、地元密着主義者は右に流れ、ビジネス・エリートと連合を形成した。ピケティはデータをかみ砕き、米国においては、1940年代から1960年代まで、教育レベルが高い人ほど共和党に投票していたことを示した。しかし、今ではそれが逆になった。修士号を持っている有権者の70%が2016年にヒラリー・クリントンに投票したのだ。「このトレンドは、3つの国で実質上まったく同じである」とピケティは言う。

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ピケティが見るところ、ポスト工業社会の労働者階級(プレカリアート)(訳注: 下を参照)の選挙行動を左右しているのは、マッテオ・サルヴィーニやオルバーン・ヴィクトルなどのポピュリストの蛇使い(訳注: 下を参照)がしばしば生み出す一種の虚偽意識(訳注: 下を参照)である。ピケティは、超絶リッチな “商人” とルンペン・プロレタリアートの不自然な同盟については強い猜疑心を抱いている。そして、ボリス・ジョンソンが獲得した高い支持についても同様の雑音が聞こえる。

(訳注: プレカリアート(precariat)は「不安定な(precarious)」と「プロレタリアート」を組み合わせた語で、1990年代以後に急増した不安定な雇用・労働状況における非正規雇用者および失業者の総体)

(訳注: マッテオ・サルヴィーニはイタリアの元副首相で同盟(旧称・北部同盟)の書記長、オルバーン・ヴィクトルはハンガリー首相。共に右派ポピュリストと呼ばれることが多い。彼らが蛇使いなら、踊らされる蛇は民衆ということになるので、「ポピュリストの蛇使い」はポピュリズムを揶揄した言い方)

(訳注: 「虚偽意識」は、マルクス主義の社会学者がよく使う言葉で、資本主義社会において、階級間の社会的関係に内在する搾取を隠すために、物質的、イデオロギー的、制度的プロセスを用い、プロレタリアートや他の階級の判断を誤らせることを意味する)

 (訳注: Titania McGrath のアカウントの中の人は、英国のコメディアン。左派が言いそうなことを誇張して面白おかしくツイートするパロディ・アカウント。彼女のこのツイートにぶらさがっているのは、本当に左派の人のツイート)

木曜日に保守党はハルやハムステッドでは勝てなかった。しかし、総投票数の43%を獲得した。これは、1979年以来最高の数字だ。一方、労働党が得た議席数は203に過ぎない。これは1935年以来最低の数字である。

 

私よりも優れた多くの書き手、たとえば、ダグラス・マレージョン・グレーが、低所得の有権者が右翼政治を支持する唯一の理由は、エスノナショナリズムと偽りの希望を混ぜたカクテルに酔っているからだ (ルパート・マードックとウラジミール・プーチンの名がカクテル職人として交互に挙げられる) という考えが誤りであることを暴いてきた。間違いなくそれよりも深く関連しているのは、アメリカ中央部に住む “嘆かわしい人々” に対する左派の軽蔑である。左派が 、壁に囲まれたコスモポリタンの大票田を飛行機で行き来するときに飛び越えるような場所に住む人々だ。英国の選挙でコービンの政策プラットフォームが示したように、大都市以外に住む地元に根付いたワーキング・クラスの人々に対して、左翼政党が提供するものはほとんどなくなった。そして、左派の活動家は、白人だから、シスジェンダーだから、などといろいろな理由を付けて、こうした取り残された有権者は特権を持っているのだと言い募り、傷口に塩を塗り込むことも多い。労働党のような政党が、アイデンティティ・ポリティクスを好む中産階級の活動家の歓心を買うことに腐心し、本当の意味で不利な条件に置かれた人々の利益を無視し続ければ、連戦連敗は免れない。目覚めよ、そして破産せよ(Get woke, go broke)

 

米国民主党は労働党の失敗から学び、ジョー・バイデンや、もっと言えばピート・ブーテジェッジを候補に選ぶだろうか? 私にはそうは思えない。たとえ現実が目の前に迫っていたとしても、ポストモダン左派の熱狂者のそれを無視する能力は底なしだからだ。昨日の夜、開票結果が明らかになる中で、私は友人にこう言った。ジェレミー・コービンのような政敵と戦うのは、地球が平らだと思っているチームを相手にヨットの世界一周レースを戦うようなものだ。それは楽しいかもしれない。気分爽快にすらなるかもしれない。しかし、彼らが羅針盤を手に入れ、海図の読み方を覚えるまでは、それを公平な戦いと呼ぶことはできないだろう。(翻訳ここまで)

 

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「アメリカ人はポリティカル・コレクトネス文化を強く嫌悪している」という米アトランティック誌の記事を訳してみた

「アメリカ人はポリティカル・コレクトネス文化を強く嫌悪している」という記事を訳してみた。学識者による全国的な調査の結果、米国でも圧倒的多数の人がポリティカル・コレクトネス(PC)文化を嫌っていることがわかった、という記事。

記事の要点は以前こちら(↓)にまとめたのでご興味のある方はどうぞ。

tarafuku10working.hatenablog.com

 

この記事は、2018年10月に米国のアトランティック誌に掲載されたもの。筆者は政治学者のヤシャ・モンク(Yascha Mounk)氏。アトランティック誌は歴史の古い雑誌で、リベラル寄りと言っていいと思う。ちょっと古い記事なのですが、80%が嫌っているという数字に私自身びっくりしたし、日本語で参照できるようにしとくのもいいかな、と思ったので訳しました。

 

www.theatlantic.com

 

(翻訳ここから)

アメリカ人はポリティカル・コレクトネス文化を強く嫌悪している

若さはPC支持の指標とならないが、それは人種も同じである。

2018 年10月10日

ヤシャ・モンク (Yascha Mounk)

 

ソーシャル・メディアでは、この国は2つの陣営にきれいに分かれているように見える。それぞれ、「目覚めた人々」(The Woke)と「憤慨した人々」(The Resentful)と呼ぶことにしよう。憤慨した人々のチームは、その多くが男性であり、年配であり、ほぼ間違いなく白人だ。目覚めた人々のチームは、若く、女性の割合が高く、黒人、褐色の肌の人、アジア系が圧倒的に多い (白人の「アライ(支持者)」も忠実に義務を果たすが)。2つのチームは、数の上ではほぼ同じ。そして、最も熱心に、また最も日常的に意見を戦わせているのが、ポリティカル・コレクトネス(PC)と呼ばれる、あらゆる状況を覆いつくす概念についてだ。

 

だが、現実はこれとはまったく異なる。研究者であるスティーブン・ホーキンス、ダニエル・ヤドキン、ミリアム・ホァン=トレス、ティム・ディクソンが水曜日に発表した「隠れた種族: アメリカの二極化した状況に関する研究 (Hidden Tribes: A Study of America’s Polarized Landscape)」という報告書によれば、ほとんどのアメリカ人は、どちらの陣営にも属さない。また、ソーシャル・メディアで毎日のように繰り広げられる争いの陰に隠れているかもしれないが、共通点も多い。そして、その共通点には、PC文化に対する全般的な嫌悪も含まれる。

 

この調査は、「More in Common」によってまとめられた。これは、ブレグジットの国民投票の直前に殺害された英国国会議員のジョー・コックスを追悼して設立された組織である。調査は、全国を代表する8,000人の回答者による世論調査、30回の1時間に及ぶインタビュー、6つのフォーカス・グループという形式で、2017年12月から2018年9月にかけて行われた。

 

報告書を書いた研究者たちによれば、移民、白人の特権の程度、セクシュアル・ハラスメントの広がりなどの問題をアメリカ人がどう考えているか調査したところ、7つの明確な集団が浮かび上がってきたという。それらは、進歩的活動家、伝統的リベラル、受動的リベラル、政治的無関心派、穏健派、伝統的保守派、そして、ひたむきな保守派である。

 

この報告書によれば、アメリカ人の25%が伝統的保守派またはひたむきな保守派であり、彼らの見方はアメリカ人の主流派からは大きく外れる。また、アメリカ人の約8%は進歩的な活動家だが、彼らの意見はこれよりもさらに一般性が低い。対照的に、両極に属さない3分の2のアメリカ人は、「疲れ果てた多数派」である。彼らは、「二極化した全国的な対話について倦怠感を抱いており、自身の政治的見方を柔軟に変える用意があり、全国的な対話において声を代弁してくれる人がいないと感じている」。

 

「疲れ果てた多数派」のほとんどは、PCを嫌っている。母集団全体の80%が「PCはこの国の問題である」と考えている。若い世代ですら、24~29歳の74%、24歳未満の79%が、PCに気まずさを感じている。この特定の問題に関しては、「目覚めた人々」はすべての年代で明らかに少数派である。

 

若さはPC支持の指標とならないが、それは人種も同じである。

 

PCがこの国の問題であると考えている白人は、79%と平均よりもほんの少し低いだけだ。アジア系は82%、ヒスパニック系は87%で、アメリカ先住民(88%)はPCに反対する可能性が最も高い。報告書によれば、オクラホマに住む40歳のアメリカ先住民男性は、参加したフォーカス・グループでこう言っている。

 

「毎朝、目が覚めると、何かが変化しているようだ。「ユダヤ人(Jew)」と言えばいいのか、それとも「ユダヤ系(Jewish)」? 「黒人」それとも「アフリカ系アメリカ人」? 何を言っていいかわからないので、びくびくしている。その意味で、PCはおっかない」

 

今回のデータで部分的に追認できた定説の1つは、アフリカ系アメリカ人はPCを支持する可能性が最も高いということである。しかし、彼らと他の集団の間の差は、一般に思われているよりもずっと小さい。アフリカ系アメリカ人の4分の3がPCに反対している。これは、白人より4%、平均よりも5%少ないだけである。

 

年齢と人種でPCの支持率を予測できないとすれば、何を頼りにすればよいのか? 収入と教育である。

 

年収が5万ドル未満の回答者の83%がPCを嫌っているが、10万ドル超を稼ぐ層でPCに懐疑的なのは70%に過ぎない。大学に通ったことのない回答者の87%は、PCが問題だと考えているが、大学院を卒業した回答者の場合は、66%しかそのように考えていない。

 

PCに関する意見を予測する際にさらによい指標となるのは、報告書の著者が定義した政治的種族である。ひたむきな保守派の97%がPCは問題だと考えている。伝統的リベラルの場合は61%である。PCを強く推す唯一の集団は進歩的活動家であり、彼らの中でPCを問題だと考えるのは30%に過ぎない。

 

では、進歩的活動家とはどのような人々だろうか? 進歩的活動家は、(全国を代表する)世論調査サンプルの残りと比べて、裕福で高い教育を受けており、白人である。年収が10万ドルを超えている可能性は、平均のほぼ2倍である。また、大学院を卒業している可能性は3倍に近い。今回の調査全体に占めるアフリカ系アメリカ人は12%だが、進歩的活動家に占める割合はたった3%だ。ひたむきな保守派という小規模な種族を除けば、進歩的活動家はこの国で最も人種的に同質な集団である。

 

明白な疑問の1つは、人々は何をもって「ポリティカル・コレクトネス」とするのかということだ。長時間の面接とフォーカス・グループにおいて、参加者は自分の考えを述べるという日常的な能力について懸念があるのだということが明らかになった。あるトピックに精通していない場合や、軽はずみな言葉を選択した場合に、深刻な社会的制裁を受けるのではないかと心配しているのだ。しかし、調査の質問では、PCの定義を回答者に示していないので、PCが問題だと考えたアメリカ人の80%が何を念頭に置いていたのかを正確に知ることはできない。

 

しかし、多くのアメリカ人の社会に対する見方は、一般に信じられているほど年齢や人種によってはっきり分かれているわけではないようだ。この説を支持するデータは、他にもたくさんある。たとえば、ピュー・リサーチ・センターによれば、自分がリベラルだと思っている黒人のアメリカ人は26%しかいない。「More in Common」調査では、ラテン系の半分近くが「今日、イスラム教徒がどのように処遇されるかについて、多くの人が過敏になりすぎている」と答えている。また、アフリカ系アメリカ人の5人に2人が「今日、移民はアメリカにとって悪いことである」という考えに同意する。

 

「隠れた種族」報告書が公開される数日前、私はTwitterでちょっとした実験を行った。アメリカ人の何%が、この国でPCが問題だと考えているのか予想してほしいと、フォロワーに頼んだのだ。その結果は、驚くべきものだった。私のフォロワーのほぼ全員が、アメリカ人がPCを拒絶する割合を低く見積もっていた。正解したのはたった6%だった(有色人種がPCについてどう考えているかという問いについては、当然のことながら、彼らの予想はさらに大きく外れていた) 。

 

もちろん、私のTwitterアカウントのフォロワーが、アメリカを代表するサンプルだと言うつもりはない。しかし、彼らは一般的にPCを支持していることから、おそらく、特定の知的環境を十分に代表していると言えるだろう。そこには私も属している。つまり、政治に積極的に関与し、高い教育を受け、左派的なアメリカ人だ。言い換えれば、大学で責任のある地位に就き、アメリカの最も重要な新聞や雑誌を編集し、選挙運動では民主党の候補者にアドバイスするような人々だ。

 

多くの人がPCについてどう感じているのかについて、私たちがこれほど的外れな理解をしているのであれば、この国に関するその他の基本的な定説も見直した方がいいだろう。

 

明白な人種的憎悪を吐き出すことを正当化するために、PCがうまくいかなかった例を嘲笑う人々が、右派の一部にいることは明白だ。一部の進歩派が、PCは右派発見器であり、あえてPCを批判する人は右派に利用されるばかだと考えるのも理解できないことではない。しかし、これは、「目覚めた人々」の文化に深い疎外感を感じているアメリカ人に対して公平な言い方ではない。アメリカ人の80%がPCはこの国の問題になったと思っている一方で、これよりも多い82%の人がヘイト・スピーチも問題であると思っているのだ。

 

今回の調査でわかったのは、進歩的活動家はヘイト・スピーチのみが問題だと考える傾向があり、ひたむきな保守派はPCのみが問題だと考える傾向があるということだ。そして、大多数のアメリカ人は、もっとニュアンスに富んだ見方をする。彼らは、レイシズムをひどく嫌悪しているが、今のPCのやり方は、人種的不公平を克服するための有望な手段ではないと考えているのだ。

 

また、調査結果は、社会的特徴の目印として言論規範を使うその方法について、進歩派に反省を促す。裕福で高い教育を受けた人々が、「問題のある」言葉を使った人や、文化の盗用を犯した人を非難するとき、私は彼らの誠実さを疑うわけではない。しかし、少なくとも「隠れた種族」報告書のために行われた調査によれば、大多数のアメリカ人の目には、それは社会正義に対する心からの懸念ではなく、文化的優越性を誇らしげに見せびらかしているように映っている。

 

年齢や人種を問わず、政治をそれほど熱心に追いかけているわけでもなく、ユタ州に住むティーンエージャーがプロムで着たドレスについての議論(訳注: 2018年5月、ユタ州に住む中国系でないティーンエージャー女性がプロムにチャイナドレスを着ていった写真を投稿したところ、それを文化的盗用だと非難する人達が出てきて大騒ぎになった)よりも、家賃の支払いについて心配している数多くのアメリカ人には、近頃のコールアウト文化(訳注: PC的に不適切な言動をした人をあげつらい、非難(コールアウト)する文化)は、他人の価値観や無知を嘲笑うための言い訳にすぎないと見られている。ミシシッピ州に住む57歳の女性はこう思い悩む。

 

「なんでも正しい呼び方をしないといけない。正しい呼び方をしないと、差別していることになる。誰もがどう呼ばれるべきか分かっているみたいだが、私たちの中にはそれが分からない人もいる。しかし、分かっていなければ、すごく問題のある人ということにされる」

 

この問題に関する進歩派の感じ方と一般市民の現実的な見方のギャップは、「目覚めた」エリートが集団的に運営する組織にダメージを与える可能性がある。アメリカ人の多数の見方を代表していると編集者が信じている出版物が、実は国内の少数派にしか語りかけていないのなら、ゆくゆくはその影響力が低下し、読者数は減少するかもしれない。人口の半分を代表していると考えている候補者が、実際には5分の1の意見しか代弁していないのなら、その候補者は次の選挙でおそらく落ちる。

 

民主主義において、人々が世界をどのように見ているのかを根本的に誤解しているのであれば、市民を自分の味方に付けることや、現実に残る不公正を是正するために一般の支持を取り付けることは難しい。(翻訳ここまで)

 

2019/12/31追記

私は読んでないのですが、この記事を書いたヤシャ・モンク氏の本が日本でも出版されているようですのでご紹介しておきます。

 

「自己責任の時代 その先に構想する、支え合う福祉国家」みすず書房、2019/11/20発売、2960

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「民主主義を救え」岩波書店、2019/8/29発売、3080円 

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David McNeill's half-baked story on a high-profile rape case in Japan

McNeill's article was punlished for the Irish Times on 22/Dec/2019 online and 23/Dec/2019 on paper. My comment below was posted in the comment section of the article.

www.irishtimes.com

 

This article is written by a journalist who is part of those people who once hampered Shiori Ito’s pursuit of the truth. He is now presenting himself as a champion of women’s rights here.

 

Ito had a press conference on 29 May 2017 at the Judiciary Journalist Club. She tried to have another one the following day at the Foreign Correspondents' Club of Japan (FCCJ) but her application was disapproved by its Professional Activities Committee (PAC). The reason was explained by David McNeill, who wrote this article and was a member of PAC at the time, to the Weekly Gendai, “what is important to the (foreign) correspondents is whether this incident affects Abe administration.” 

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Really? Was this high-profile rape case news-worthy only if it had political implication? Even if alleged offender Yamaguchi was an employee of the Tokyo Broadcasting System (TBS), one of Japan’s major broadcasting companies, and the incident happened in relation to Ito’s job or intern placement?

 

As this article says, an arrest warrant of Yamaguchi was inexplicably revoked. The left (the opposition parties and main-stream media) tried to associate this with Yamaguchi’s close relationship with PM Shinzo Abe.

 

However, there is an inconvenient fact that doesn’t fit their narrative. Some key figures of the then largest opposition party Democratic Party of Japan (DPJ) dissuaded its members to question about the incident at the Diet although the questioning might have helped finding the truth as well as achieving their political gain.

 

Journalist Takashi Uesugi, who supported Ito personally, but didn’t go along with the narrative, has his own podcast program “Op-Ed” in which those key figures who dissuaded questioning were named as Yukio Edano (former Minister of Economy, Trade and Industry) and Jun Azumi (Former Minister of Finance), both of DPJ. Uesugi claims that he has asked Edano (now the leader of Constitutional Democratic Party of Japan that was developed from DPJ) and Tetsuro Fukuyama (CDPJ’s No. 2) to explain why in many occasions, but in vain. 

www.youtube.com

Hiroyuki Konishi, a lawmaker in the Upper House and then a member of DPJ, also acknowledged such dissuasion from some members of opposition parties at the FCCJ press conference on 25 October 2017. 

www.youtube.com

 

Why did the largest opposition party self-destroy the golden opportunity to attack the ruling party if the arrest warrant was indeed revoked under the influence of Abe administration? Why didn’t TBS investigate, address or report the incident when they were aware of the police looking into it as a possible rape case and how come could they get away with it? Why is everybody from the left, including the opposition parties, the main-stream media as well as this article so quiet about TBS, which quite possibly is responsible for the incident as Yamaguchi’s employer, and is potentially powerful enough to influence the law enforcement authorities? Why does Ito seem to have made no effort to hold TBS accountable? Why did FCCJ, a club for foreign correspondents who generally love Japan-themed erotica so much like Sir. Richard Burton who creatively translated the Arabian Nights with loads of sexual exaggerations and additions, initially turn down Ito’s presser?

 

It is clear this article doesn’t tell the whole story.

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Japanese version of this post.

tarafuku10working.hatenablog.com

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UK総選挙: ダグラス・マレーのコラム「英国の分断は、北 vs 南でも、赤 vs 青でもない。醜く非寛容な左派とその他の人々との間の分断である」を訳してみた

 

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20191212(木曜日)に行われたUKの総選挙は、ご存じのように保守党の圧勝に終わりました。これで来年1月末のブレグジットはほぼ決定。歴史的大敗を喫した労働党のコービン党首は辞任。自由民主党党首のジョー・スウィンソンは、獲得議席数こそ1減と踏みとどまったものの、本人が落選して、こちらも党首を辞任しました。

 

 

なぜ労働党は敗れたのか。選挙結果を受け、『西洋の自死』の著者であるダグラス・マレーが、ディリー・メール紙におもしろいコラムを書いていたので訳してみました。題して、「英国の分断は、北 vs 南でも、赤 vs 青でもない。醜く非寛容な左派とその他の人々との間の分断である」。

 

www.dailymail.co.uk

 

(翻訳ここから)

 

私たちの国に厄介な分断が新たに生じている。しかし、それは、人々が想像するような分断ではない。それを最もよく表したのが、ロンドン西部のパトニー(Putney)の選挙結果だ。裕福な人々が住むパトニーは、労働党が保守党から議席を奪った数少ない選挙区の1つである。

 

パトニーには、ケンジントンやチェルシーと同様に、100万ポンド(15000万円)を超える法外な値段の家が立ち並んでいる。労働党が政権をとれば、ここに住む人々の税金は跳ね上がるだろう。それでも、この選挙区の有権者は、ジェレミー・コービンやジョン・マクドネル(訳注: 労働党の国会議員、影の内閣の財務大臣)が約束する社会主義者の実験に投票することを選んだ。そして、そうすることで、すべての定説を覆した。

 

その一方で、ダービーシャーのボルソーバー(Bolsover)などの選挙区では、これまで聞いたことがないことが起こった。この選挙区選出のデニス・スキナーは、半世紀近くにわたって労働党の国会議員を務めており、ボルソーバーは労働党の牙城の代名詞であった。

 

ボルソーバーでは、瀟洒なセミデタッチトの家が10万ポンドで買える。これはパトニーの10分の1の値段である。しかし、左を向いたのがパトニーであり、右に向かったのがボルソーバーだった。(訳注: セミデタッチトの家とは、2つの世帯が中央の壁で区切られた1つの建物に住むような設計の家。日本では俗にニコイチと呼ばれ、公営住宅のイメージが強いが、イギリスでは中産階級のエリアでも普通にある)

 

先週の桁外れの大混乱を、左右の対立だと捉えるのは正しくない。

 

ほんとうの分断は、人々の意思を実現することに取り組んでいる保守党と、3年半にわたってそれを覆すことに専心してきた2つの左翼政党の間に生じている。

 

それは、現実世界の懸念を持つ人々と、ニッチでほとんど重要性のない懸念を持つ人々との間の分断だ。政府がどのような統治を行うのか、国民の暮らしはどうなるのか、大量の移民はどうあるべきなのかなどについて懸念を持つ人々と、そうしたことに気付いたというだけで、彼らを時代遅れで偏狭だと怒鳴りつける人々との間の分断だ。

 

どうしてこんなことになってしまったのか、とあなたは尋ねるかもしれない。そのヒントは、木曜日の破滅的な敗北に対する労働党の機能不全の反応にある。

 

保守党の地滑り的と言ってよいほどの勝利の後でも、労働党の実権を握る左翼装置は、何も学ばないことを選んだ。

 

彼らはこの機会を、自省のために使ったり、新しい分断にどうアプローチするかを考えるために使ったりはしない。彼らは、これまでと同じ言葉を繰り返す。しかも、ボリュームを上げて。

 

その完璧な例が、自称エコノミストで、コービンのフルタイム応援団員であるグレース・ブレークリーだ。彼女は、金曜日にITVの『Good Morning Britain』に出演し、視聴者に向けて「コービンは神」的なマントラを唱えた。彼女の親愛なる指導者が党を歴史的な敗北に導いた数時間後、労働党の「民主的に策定された」政策は「信じられないほど人気が高い」とテレビ番組で盲目的に主張したのである。

 

www.youtube.com

 

スタジオにいた他のゲストは、労働党のジャッキー・スミス元内相も含め、彼女の意見に反対した。しかし、ブレークリーは別の宇宙に住んでいるかのようだった。

 

「この国の人々は、相当に急進的な左翼思想を支持している」と彼女は叫んだ。スタジオが紛糾する中、ブレークリーは品位のかけらも見せなかった。ピアース・モーガンやその場にいる全員に対し、「彼らは支持している」と繰り返し叫んだ。

 

これが示すことはただ1つ。ブレークリーのような人々が負けを認められないのには理由がある。彼らに同意しない人に会ったことがないのだ。

 

いや、ソーシャル・メディアでは会うこともあったかもしれない。だが、そこでは、簡単にフレンド解除したり、ブロックしたりすることができる。だが、英国の有権者全体を無視するのは、それよりもずっとずっと難しい。

 

しかし、これが起きてしまった。近年、ブレークリーのような英国左派の一部は、非常に注意深くエコー・チェンバーを構築し、その中に閉じこもってしまった。

 

このチェンバーの中では、英国一般市民の大部分の考え方を、一貫して無視することができる。その最たるものが、2016年の国民投票の結果だ。

 

このロンドンを中心とした小集団は、そのプロセスにおいて、この国に住むほかの人々を置き去りにした。

 

これが、英国の政治に存在すると以前は言われていた分断 ( vs 南、赤vs )が、完全に取って代わられた理由である。現在の分断は、急進的左派とその他の人々の間にある。(訳注:赤と青は、それぞれ労働党と保守党のシンボルカラー)

 

こうはならない選択肢だってあったはずだ。2015年の総選挙でエド・ミリバンド(訳注: 当時の労働党党首)が失敗した後、その敗北の主な教訓は「急進性」が足りなかったことだと結論付ける必要はなかったはずだ。しかし、彼らが党首に選んだのはコービンだった。それこそが彼らがやったことだ。

 

2016年の国民投票の後も同じだ。以前であれば、労働党も自由民主党も、こうした結果を受け入れていただろう。しかし、私たちの歴史で初めて、こうした政党の実権を握るカルト集団が結果を受け入れないことに決めた。結果を無視しただけでなく、一般大衆をばかだ、無知だと嘲笑って侮辱し、だまそうとした。

 

2回目の国民投票を求めるキャンペーンを「People’s Vote (人々の票)」と名付けるなどの仕掛けを弄する彼らは、私たちは鈍いから彼らが何をしているのか気付かないと思っているのだ。

 

彼らは、私たちの政治をシンプルな二項対立に落とし込んでしまう。「希望」か「恐怖」か。レイシズムか寛容か。国民医療サービス(NHS)を潰すのか救うのか。

 

加えて、微小な問題に取り組み始めたことで、彼らは一般大衆の支持を完全に失った。木曜日の潔くない敗者をもうひとり紹介しよう。ジョー・スウィンソンだ。今では自由民主党の 党首となった彼女は、投票日の前日にBBCラジオ4の『Today』という番組に出演し、英国有権者の約0.01%にしか影響しないことについて話した。トランスジェンダーの人々のために、自由民主党はパスポートの性別欄に “x” を付け加えるというのだ。(訳注: M - 男性、 F - 女性に加えて、どちらにもあてはまらないと思う人向けに x を用意するということ)

 

スウィンソンのエコー・チェンバーでは、こうした物事をきちんとすることが重要なのだ。一歩間違えば、 Twitterで焼かれる。その後もスウィンソンは、生物学的な性は社会的構成概念に過ぎず、人は男性か女性のどちらかであると信じる人々はトランスジェンダーの人を悪魔化しているのだという主張を延々と続けた。これ以上にニッチな問題を想像することは難しい。

 

それからほんの数日後、自身の選挙区の開票所で、イースト・ダンバートンシャーの有権者が彼女を下院議員に再選しなかったことにスウィンソンが顔色を失くす様は、ほんとうに美しい光景だった。彼女はお馴染みの態度で、「暖かさ」「寛容さ」「希望」に反対した人々を責めた。しかし、彼女は149票差で敗れた。皮肉なことだが、もし彼女がイースト・ダンバートンシャーの人々に対して、もう少し寛容さと暖かさを示していたなら、彼女は今でも国会議員を続けていられたのではないか。

 

私はたまたま、この国の大多数の人々と意見が同じである。私は、長年にわたって、左翼のロボットたちを間近で見てきた。公会堂や放送局のスタジオで彼らと同じテーブルに座り、一般大衆と同じような侮辱を彼らから受けてきた。

 

彼らは私のことを「ちんけなイングランド野郎(Little Englander)」と呼んだ。私がたまたま、イギリスはEUの中ではうまくいかないと考えていたからだ。彼らは私のことを「レイシスト」「くず(scum)」と呼んだ。移民が非常に多いことを私が懸念したからだ。彼らは私のことを「偏狭な人間(bigot)」「トランス嫌悪(transphobe)」と呼んだ。私が、生物学的な性など存在しないというふりをすることを拒んだからだ。(訳注: Little Englander - 元々は、19世紀に大英帝国の拡大に反対した自由党の一部を指した言葉。最近では、イングランドのナショナリスト、または外国人を嫌悪する人や過剰なナショナリストに対する侮蔑語として使用される)

 

こうした仕打ちを受けた後、その前よりも彼らに票を入れたいという気持ちには私はならなかった。一般市民も同じではないかと思う。

 

言うまでもなく、このメッセージはまだ彼らに届いていない。

 

木曜日の出口調査の結果が発表された直後、元ジャーナリストのポール・メイソンは、保守党の勝利が示すのは、「若者に対する老人の勝利であり、有色人種に対するレイシストの勝利であり、この惑星に対する利己主義の勝利である」と宣言した。

 

金曜夜のウェストミンスターのデモでは、負けを受け入れられない人たちが、警察を攻撃し、民主主義を侮辱した。

 

(ボリス・ジョンソンが)惨たらしい死に方をすればいいのにと思う」と、雄弁な若い女性のデモ参加者がカメラに向かって言った。「私はNHSで働こうと思っている。私は医者になろうと思っている。人をほんとうに大切にしようと思っている」。信じがたいことに彼女はこう続けた。「くそったれ(Go f*** yourself)のボリス・ジョンソン。心の底から言うわ。このくずが(What a c***)

www.youtube.com

 

 

現在の英国に分断が存在するのは事実だ。しかし、それは過去の分断のどれとも似ていない。それは、都市に住む醜く非寛容な左派とそれ以外の人々との間の分断だ。そして、木曜日に美しい形で示されたように、彼らよりも私たちの方が数の上では勝っている。

(翻訳終わり)

 

 ダグラス・マレーの著書:『西洋の自死: 移民・アイデンティティ・イスラム』東洋経済新報社、2018/12/14発売、価格 3080(税込み)

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Photo:

Boris Johnson: Contains public sector information licensed under the Open Government Licence v3.0.

Jeremy Corbyn: Chris McAndrew

Jo Swinson: UK Government

 

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「アイルランドには中国のスパイがたくさんいる、と活動家が主張」という記事を翻訳しました

アイリッシュタイムズ紙に「China has ‘a lot of spies’ in Ireland, activists claim (アイルランドには中国のスパイがたくさんいる、と活動家が主張)」という面白い記事の掲載されていたので、全文を翻訳してみました。記事の公開は2019/11/30 (オンライン版)。

 

香港の民主運動を応援しているアイルランド在住の 3 人 (香港出身2人、中国本土出身1人) のインタビューを中心とした記事。中国共産党が、海外在住の中国人をどのようにコントロールしているのかが詳細に語られます。

 

www.irishtimes.com

<翻訳ここから↓>

フェイスマスクを付け、ミラーレンズ・サングラスを掛け、黒い野球帽を目深に被った姿で、取材の相手が現れることは稀だ。しかし、これが、今回取材に応じてくれた、香港の民主運動を支持する3人の恰好だった。2人が香港出身、1人が中国本土出身。全員がダブリン在住だ。

 

「彼らは人を殺している」。取材が始まってまもなく、香港出身の女性がそう言った。「それが今起こっていること。香港政府。警察。彼らはほんとうに人を殺している」

 

アイルランドのメディアの取材に応じたことがバレたらどうなるのか。3人ともそれを心配していた。1人は、ダブリンで行われた抗議運動に参加した写真が中国のソーシャルメディアに投稿されたため、仕事を失うという経験を既にしていた。経営者は中国人だった。

 

この2週間、アイリッシュタイムズでは、北京政府当局に気付かれないように注意しながら、アイルランドに住むチベット人および香港人のコミュニティの話を聞いてきた。中国北西部の新疆出身のウィグル人(チュルク系ムスリム)もアイルランドに小さなコミュニティを作っているが、取材を受けてくれる人はいなかった。

 

中国政府は、少なくとも100万人のウィグル人と他のチュルク系ムスリムを、抑圧作戦の一環として、再教育収容所に収監していると考えられている。

 

「故郷に残る家族に深刻な影響が出ることを恐れ、海外在住のムスリムは迫害について語りたがらない。激しい迫害による恐怖はそれほどまでに広がっている」。クロンスキー(ダブリンの地域名)にあるイスラム文化センターのアリ・セリム博士はそう言う。ここのモスクにはウィグル人も何人か通っている。

 

中国に家族を残している人にとって、北京政府が認めない意見を表明する人物だと認識されることは、重大な事態の発生につながる可能性がある、と活動家たちは主張する。アイルランドに住んでいるのであれば、家族のもとを訪れるためのビザを取得するのが難しくなるかもしれない。アイルランドで何かを言うと、中国に住む家族が罰せられるかもしれない。そう彼らは主張する。そして、アイルランドに住む人は、中国に帰った後、自分の身に何か起こるのではないかと恐れることもある。

 

今週、中国共産党 (CCP)の文書が流出した。「中国電報(The China Cables)」と名付けられたこの文書は、新彊で何が起きているのかについて 、新たな知見を提供する。

 

この機密文書を手に入れたのは、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)だ。ICIJは、アイリッシュタイムズを含むメディアパートナーとこの文書を共有した。

 

この文書により明らかになったことの1つは、新彊での作戦の一環として、中国政府がどのように国際的な外交ネットワークを使っているのか、ということだ。

 

流出した文書によれば、中国の大使館や領事館のネットワークと関わった海外在住の新彊出身者には、コンピュータ化された監視システムによって要注意のフラグが立てられる。海外に住んでいるというだけで、彼らやその家族は疑いの目で見られ、拘留の候補になるのだ。

 

香港のデモ参加者を支持する本土出身の中国人男性は、アイルランドのより広範な中国人コミュニティも、監視ネットワークの一部であると信じている。「中国のスパイがたくさんいる」と彼は言う。頼まれたからスパイをする者もいるし、中国と中国共産党を愛しているからスパイをする者もいる、と彼は言う。「彼らは、中国と党を同じものだと見ている。しかし、党は非常に邪悪だ。それは独裁政治だ」

 

民主化を求めて抗議する3人は、香港で逮捕された人が、新彊と同様に再教育キャンプに送られることを恐れている。「将来どうなるのか、私たちにはわからない」。香港で育った1人は、英国統治下の学校ですら、中国の歴史について真実を教わらなかった、と言う。「中国共産党は、第二次世界大戦中の日本よりも多くの中国人を殺してきた。誰もこれを知らない」

 

アイルランドに住む教育を受けた中国人ですら、真実を知ろうとしない。「彼らは、アイルランドにいるときも、自由に話すことを恐れている。彼らは洗脳されているのだ」

 

南ダブリンのカフェで、現在はダブリンに住んでいるチベット出身の2人の男性が、匿名を条件に取材に応じてくれた。2人とも家族がチベットにいる。

 

チベットは、中国西部に位置し、新彊のすぐ南にある。新彊と同様に、ここ数十年で、チベットにも多数派民族の漢族が大量に移住してきた。また、これも新彊と同じだが、チベットは、分離を希求する感情やダライ・ラマへの忠誠心を恐れる北京政府による大規模な監視および抑圧政策の対象となっている。

 

「新彊では最近始まったが、チベットで何年も前から行われてきた。私はここに X 年住んでいるが、家族はチベットにいる。勇気を出して家族に連絡したことは一度もない」

 

10年か、それよりもう少し前、状況が改善されたことはあった。しかし、2013年に中国国家主席の習近平が中国共産党のトップに登り詰めて以降、状況は悪化した。

 

「電話は常に盗聴されていたが、今では統一戦線プロパガンダチームが村を回って質問するようになった。息子はどこにいる? 善い振舞いには褒美が与えられる [悪い振舞いは罰せられる]。アイルランドに住んでいて、政治的な活動をしていなくても、ダライ・ラマの話を聞きにいくだけで、家族が危険に晒される可能性がある。彼らは家族に警告するのだ」

 

家族に会いに戻るためにビザを取得するのも難しくなる可能性がある。家族は、訪問者が「母国を不安定化し、社会の調和を乱す」ことがないという手紙に署名する必要がある。家族はそれを保障する必要があるのだ。

 

「私は一度も帰っていない。私にとって、家族に連絡するのはつらいことだ。私は自由な世界におり、家族はそうではない」

 

彼らには、中国本土出身の友人がアイルランドにいる。

 

「彼らは、[中国が]チベットを貧困から救っているのだと信じている。彼らは、自身をチベットの救済者だと考えている。彼らは、文化大革命で[チベットの]数多くの文化遺産がどのように破壊されたか、そして現在も破壊されているか、理解していない。彼らは、それはアメリカのプロパガンダだと言う。そして、私たちのことを帝国主義の犬だと呼ぶ」

 

中国当局は、中国人とアイルランド人の団体や学生グループを利用している、と活動家は主張する。こうした組織には、中国共産党の人が入り込み、全員に目を光らせている、と彼らは言う。「こうした方法で、国外に住む中国人を操っている。露骨な方法ではなく、わかりにくい方法で」

 

すべての文化交流団体が、こうした行為に関与しているわけではない。しかし、大きな議論を巻き起こしてきた団体が1つある。アイルランド支部もあるその国際ネットワークの名前は、中国学生学者連合会 (CSSA)だ。現地のCSSAは、中国国外で研究・実務に勤しむ中国人学生および学者に有益な支援を提供する。しかし、ワシントンDCに本拠を置く米中経済・安全保障問題検討委員会の昨年の報告書によれば、忠誠心を推進および監視するために中国共産党がこの組織を利用している。

 

報告書によれば、CSSAは「中国大使館や領事館を介してCCPからガイダンスを受け(こうした政府とのつながりは隠されることが多い)、北京政府の統一戦線戦略に沿った中国の海外活動に積極的に関与している」

 

ベルリンにある世界公共政策インスティチュートが昨年発表した『権威主義の前進(Authoritarian Advance)』という報告書には、CSSAの欧州ネットワークに関する情報が詳細に記載されている。「CSSAは、中国政府が神経を尖らせる活動に参加した中国人学生を、中国大使館に報告している」と報告書は言う。「こうした学生や中国にいる彼らの家族は、中国当局者からの強迫という報復を受ける可能性がある」

 

ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン、アイルランド国立大学ゴールウェイ校、ダブリンシティ大学、ウォーターフォード工科大学にCSSA の支部がある。この組織のアイルランドのWebページは、ダブリンにある中国大使館のWebサイトの一覧にも掲載されている。アイルランドの支部に電子メールで問い合わせたが (Webサイトには電話番号が記載されていない)、この記事を印刷に回すまでに応答はなかった。

 

ベルリンのシンクタンクは、中国という一党支配の国家を海外の中国人コミュニティと区別することが重要であると指摘する。しかし、報告書によれば、中国共産党の考えは逆だ。党の関心が、すべての民族的中国人の関心と同じであると示すことができるからである。

 

この記事で指摘した点について、ダブリンの中国大使館に問い合わせたところ、次のような回答があった。「私たちは、どこに住んでいようと、中国のどこの出身であろうと、すべての中国人の表現の法的権利を尊重する」

 

回答は続く。「言論の自由が他の中国人によって脅かされているとあなたに話した中国人については、残念ながら、被害妄想の症状が出ているか、意見を異にするアイルランド在住の大多数の中国人を貶め、中傷することで、同情を引こうとしているのだろう」

 

“ケイト” は、香港出身で、何年もダブリンに住んでいる。彼女の家族は香港にいる。彼女は、自分は民主主義派ではなく、独立支持派だと言う。「だから、中国人に私のことが知られるのはとても怖い」

 

彼女にとって、中国は国ではなく、チベットを含む56の国からなる帝国だ。彼女は、新彊 (”新しい領土” を意味する) と言わず、東トルキスタンと言う。それがより適切な名前だと思うからだ。「中国人の友人を持つのはかなり危険なこと。私は彼らを中国人工作員だと考えている」。ほとんどの中国人は、香港独立を支持する人を 売国奴と見なしている、と彼女は言う。

 

「私は、アイルランドにいる中国人は諸手を上げて中国共産党を受け入れていると思う。彼らは中国共産党を愛している。中国共産党がなければ、中国は貧しいままだったと考えている。台湾、香港、チベットの独立運動に反対している。中国共産党を支持している」

 

彼女はこう続ける。中国人は中国共産党が崩壊すれば、中国も崩壊するのではないかと恐れている。そして、それは彼らにとって悪いことだ。彼らは、中国共産党に権力の座に居続けてほしいのだ。

 

「左派は、自分のことを反帝国主義者だという。しかし、中国の帝国主義には目をつぶる。パレスチナ、カタルーニャ、クルドについて語る人々を見てきたが、彼らがウィグル人を支持しているようにはまったく見えなかった。彼らは単に知らないだけなのか、それとも何も起きていない振りをしているだけなのか?」

 

「誰が最大の憐憫に値するかという競争をしたいわけではない。東トルキスタンの死もパレスチナの死も同じだと言いたいだけである」

 

これは、中国が中国共産党に支配されているためではないか、と彼女は考えている。「ソ連は崩壊した。もし、中国が崩壊したら、左派イデオロギーはもうもたない。たぶん。しかし、これは一種の偽善だ」

 

アイルランド国会の Webサイトによれば、上院と下院を合わせてウィグルという語は4回言及された。新彊は0回、クルドは25回、カタルーニャは12回、パレスチナは25回だ。

 

トリニティ大学ダブリンで中国の歴史を教えるイザベラ・ジャクソン准教授によれば、西洋に来て、西側メディアや政治的議論に触れた多くの中国人は、中国をより肯定的に見るようになるという。

 

「中国人は、自国メディアがニュースや時事問題を非常に肯定的に取り扱うのに慣れている。そして、西側のメディアでは、悪いニュースが毎日報道されることに驚く。西側の社会のうまくいっていないさまざまな点を知るようになる。これにより、中国政府は一般的に正しいことをしているのだという意識が強化される。慣れ親しんだ中国文化に回帰することが安らぎになる場合もある」

 

政治的および歴史的な問題について、独善的な国家主導の単一の見方に縛られるのではなく、複数の解釈の存在が許されるのだということを中国人学生が理解するには時間がかかる場合がある、とジャクソン准教授はいう。

 

「新彊における少数民族の処遇などの問題について、中国政府の主張と異なるニュースを聞いた場合、中国人は最初、それは西側のプロパガンダの結果であると考えることが多い」

 

「共産党国家のナラティブに疑問を持ち始める人もいるが、矛盾する中国と西洋のストーリーのどちらが正しいか判断できないため、ニュースソースをまったく信じなくなる人もいる」(了)

 

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ジョーダン・ピーターソンにアイルランド系の血が入っているという話

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去年の10月にジョーダン・ピーターソンがデイヴ・ルービンとダブリンにやってきて、オリンピア・シアターで講演を行った。

 

アイルランドでの講演の枕として彼が用意していたのが、彼のお父さんにアイルランド系の血が30%ほど入っているという話。

 

1年ほど前のことなので、うろ覚えの部分もあるが、大きくは間違っていないと思うので、その話をここに再現する。

 

お父さんが孫 (ピーターソンの娘) が一人暮らしをしているところに訪ねていたときに急病に倒れて入院した。せん妄状態の中でお父さんは歌を歌い出した。しかも、英語ではない言葉で。普段は歌なんか歌うことのない人だったのに。のちに、その歌はアイルランド語の歌だとわかる。

 

ピーターソンの娘さんは難病を患っているのだが、娘さんは遺伝的に何か問題があるのではないかと考え、家族に遺伝子テストを受けてくれるように頼んだ。その結果、ピーターソンのお父さんにアイルランド人の血が入っていることがわかったわけだ。

 

ピーターソンの一家はノルウェー系で、彼のお父さんもノルウェー移民のコミュニティーで育ったのだが、実は養子だった。血のつながった親のことはわからないのだが、入院時に彼が歌ったアイルランド語の歌は、子供の頃に聞かされた子守唄かなにかだったのだろう。

 

この日の講演の内容は、前半はピーターソンがひとりでしゃべり、後半はルービンとの対話。前半では彼の著書「生き抜くための12のルール (12 Rules of Life)」の「猫を撫でる (Pet a Cat)」の章を膨らませて。脆弱性と限界についてしゃべった。

 

 

後半は、私が以前このブログにも書いた、アメリカでも80%がポリティカル・コレクトネスの文化を嫌っているという記事の話などをしていた。

 

tarafuku10working.hatenablog.com

 

聴衆はやはり男性の方が多かったが、女性も思ったよりは多かった。白人ではない人は少なかったが、まあダブリンはそれほど有色人種が多い場所ではないので、たとえばアイルランドの中堅ミュージシャンのコンサートでもだいたいこんな感じではないか。

 

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ムンク・ディベート

ムンク・ディベートは、カナダのトロントで年に2回開催される討論イベントだ。世界最大の産金会社であるバリック・ゴールド社などで巨額の富をなしたカナダ人実業家、ピーター・ムンク (Peter Munk) が妻のメラニーと共に始めたもの。

 

討論のテーマは主に社会的/政治的なもので、ディベーターも毎回豪華な人が登場。

 

たとえば、心理学者のスティーブン・ピンカーが登壇した2015年下半期のお題は「人類の未来は明るいか?」。このときの様子は本として出版されて日本語にも翻訳されている (『人類は絶滅を逃れられるのか』ダイアモンド社)。

 

また、2016年上半期には、UKIP党(当時)のマイケル・ファラージなどを呼んで、移民の推進について討論。討論の前後に聴衆にアンケートを取り、より多くの人の意見を変えさせた方が勝者となるのだが、このときはファラージのいた移民反対(慎重)陣営の方が大差で勝利した。

 

私がムンク・ディベートのことを知ったのは去年の5月のこと。ベストセラーの『12 Rules Of Life』を出版し、キャシー・ニューマンとのインタビューで欧州でも有名になったカナダ人臨床心理学者のジョーダン・ピーターソンが登場したから。議題は「ポリティカル・コレクトネスは進歩である」。Yes派の討論者は米国の黒人人権活動家であるマイケル・エリック・ダイソンとNYタイムズ記者のミシェル・ゴールドバーグ。反対派がピーターソンと英国人俳優・作家のスティーブン・フライ。

 

私はYouTube で見たのだが、白熱した議論で面白かった。アイデンティティ・ポリティクスを振りかざして時に糾弾調になるダイソン、リベラル派ながらPCの権威主義的な側面に懐疑を抱くフライ (ユーモアにあふれ、物腰もやわらかい)、ダイソンの理不尽ともいえる攻撃を蹴散らしながら、冷静さを失わず、知識と論理で信念を貫くピーターソン。見ごたえがあった。(ゴールドバーグは準備不足の感が否めなかった)。このときの討論の結果は、No 派が6%の意見を変えさせて勝利。

 

このときの様子はこちらで見ることができます↓

www.youtube.com

 

2018年下半期の「西洋の政治の未来はリベラルではなくポピュリズムである」もタイムリーなテーマで興味深かった。討論したのはスティーブ・バノンとデイビッド・フラム(ジャーナリスト)で、結果は引き分け。

 

次回のムンク・ディベートは12月4日。テーマは「資本主義はもう終わりか?」。ギリシャの元財務大臣であるヤニス・バルファキスなどが討論に参加する。

 

討論の模様はムンク・ディベートの Web サイトでリアルタイムで見ることができるはず。過去の討論のビデオも会員(無料)になれば視聴することができます。 

Munk Debates - Munk Debates

 

これまでの回のテーマや勝敗については、こちらの Wikipedia ページ (英語) を参照してください。 Munk Debates - Wikipedia

 

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