David McNeill's article on Abe's resignation

David McNeill wrote an article for the Irish Times on PM Abe's resignation. It is published on 28 August 2020 for the Irish Times.

www.irishtimes.com


I wrote my comment in the readers' comment section for the article.


My comment is as follows (with some tweaks):

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It is interesting to compare this article with the one David McNeill wrote when Naoto Kan, the then-leader of the lefty Democratic Party of Japan (DPJ), stepped down as the Prime Minister in August 2011.

www.irishtimes.com


Kan’s record as the PM was dismal. He mishandled the 2011 earthquake/nuclear plant incident. He did not do any good to the economy or foreign affairs. The approval rating for his administration plunged to as low as 15%.


Despite all these, McNeill’s article for Kan’s resignation was sympathetic and even poetic (see the first paragraph of the article). The headline read “'Least bad' Japanese leader Naoto Kan throws in the towel”. He quoted two academics who both desperately tried to save Kan’s butt. No opposite view was offered.


On the other hand, in his latest article, McNeill tried painstakingly to make sure the reader would perceive Abe as a hawkish right-winger/revisionist, played down what Abe achieved and hoped Abe would be remembered as a caretaker (well, McNeill’s wording is “History may well record him as a political caretaker”).


Of course, Abe did not play a perfect game and his record is mixed. However, compared to Kan, he fared much better. In terms of the economy, Nikkei went up from 8,500 to 24,000, the unemployment rate came down from 4.3% to 2.4%, and the jobs-to-applicants ratio rose from 0.8 to 1.6. (The figures are all 2012 vs. 2019). The suicide dropped from 27,858 to 20,169 as well. As for the international relationship, he enhanced existing alliances and developed new partnerships. The number of Covid-19 deaths is relatively low.


According to the Kyodo poll conducted on 29/30 August after the announcement of his resignation, the approval rating for the Abe administration soared by 20.9% from a week ago to 56.9%. On hearing the announcement, Nikkei collapsed by nearly 600 points to 22,735 and ended the day at 22,882.


McNeill clearly failed to capture the reality and the prevailing sentiment in and around Japan again. Or he refused to do so. After all, McNeill is a kind of journalist who puts his own political or ideological agenda before journalistic commitments to finding the truth and documenting empirical facts. Look at the final line of the article. It is McNeill who wants to see Abe’s tenure as a failure. That is his wishful thinking. A wishful thinking does not belong to the straight news section. It may to the opinion section if anybody’s wishful thinking is ever worth publishing on a national newspaper.


Here is more realist/less ideological piece from BBC if interested.


www.bbc.com


This article is written by Dr John Nilsson-Wright, Chatham House (Korea Foundation Korea Fellow and Senior Fellow for Northeast Asia) & University of Cambridge


For what McNeill described as “School textbooks have removed references to war crimes” which was the highlighted text on the print copy, Nilsson-Wright said, “moved away from overly self-critical historical narratives in high-school textbooks.”


Regarding Sino-Japanese relations, Nilsson-Wright wrote:
“Sensibly, while Mr Abe has remained acutely aware of the geostrategic threat posed by China, this has not been allowed to block opportunities for pragmatic co-operation with President Xi Jinping.”


Nilsson-Wright concludes his article as follows:
“Notwithstanding Mr Abe's aspirational, but at best partially realised nationalist ambitions, his pragmatic achievements are likely to be his most enduring legacy.”


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デイビッド・マクニールが安倍首相辞任時と菅直人首相辞任時に書いた記事を比べてみた

日本外国特派員協会のデイビッド・マクニールが、アイリッシュ・タイムズ紙に安倍首相辞任に関する記事を書いていた。


www.irishtimes.com


2011年8月の菅直人の退陣時に彼が書いた記事と比べてみると、彼がジャーナリストとしての責務よりも、自分の政治的・思想的アジェンダを優先する人間であることがよくわかっておもしろい。


www.irishtimes.com


経済にも外交にも原発事故の処理にも、菅直人はいいところを見せられなかったのは周知の事実だが、それでもマクニールの記事は菅に非常に同情的だ。2人の学者 (上智の中野晃一とテンプル大のジェフ・キングストン) の言葉を引用して管を擁護する。反対意見は紹介されない。


今回の記事では、マクニールは安倍が祖父の岸信介の墓参りをして「日本の真の独立を取り戻す」と誓った話から入り、岸がA級戦犯で逮捕されていたことにも触れ、安倍が右翼的な政治家であることを読者に印象付けようとする。安倍の業績を過小評価し、「歴史は彼をつなぎ役 (caretaker) として記憶するだろう」と書く。


ご存じのように安倍政権下で日経平均は 8,500 から 24,000 へと上昇し、有効求人倍率は 0.8 から1.6へと大幅に改善した。失業率は 4.3% から 2.4% へと下がった (消費税を上げたのは間違いなく失策だったが)。外交でも力を発揮した。従来からの同盟関係を強化し、新しいパートナーシップも開発した。新型コロナによる死者数も比較的少ない。辞任発表後に日経平均は600pt近く急落し、共同通信の世論調査では内閣支持率が20.9%上がって56.9%となった。


菅辞任のときもそうだったように、今回もマクニールは日本内外の現実を記事に反映することができなかった。もしくは、そうすることを拒んだ。彼は真実を見つけて事実を語るというジャーナリストの責務より、自分の政治的・思想的アジェンダを優先させることを当たり前に思っている人間だからだろう。


アイリッシュ・タイムズはマクニールの記事を「Analysis」などと銘打っているが、たとえばこちらのBBCの記事と比べると薄っぺらさが際立つ。


www.bbc.com


マクニールは外交・経済・安全保障についてはおざなりで、安倍=右翼的と印象付けることにしか興味がないようだ。


BBC の記事は、チャタム・ハウス/ケンブリッジ大学のジョン・ニルソン=ライト教授が書いたものだ。


たとえば、マクニールは「学校の教科書から戦争犯罪に関する記述を削除した (School textbooks have removed references to war crimes)」と書いていて、アイリッシュ・タイムズの紙面ではこの部分が大きめの文字でレイアウトされている。ジョン・ニルソン=ライトの記事では、これは「高校の教科書に関して、過度に自己批判的な歴史記述から離れた (moved away from overly self-critical historical narratives in high-school textbooks)」となっている。


ジョン・ニルソン=ライトは、記事を次のように締めくくっている。「安倍の意欲的だが、よく言っても部分的にしか実現できなかったナショナリスト的大志よりも、実際的な成果こそが最も息の長い彼のレガシーとなる可能性が高い」(Notwithstanding Mr Abe's aspirational, but at best partially realised nationalist ambitions, his pragmatic achievements are likely to be his most enduring legacy.)


結局のところ、マクニールのこの記事は、日本の左派野党がなぜダメなのかを図らずも体現するものとなった。安倍=右翼の印象操作だけできれば満足で、外交・経済・安全保障などの重要な問題についてはほとんど語ることができないのだ。

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記事翻訳『トランプの政治集会に参加した私は、民主党が2020年の準備ができていないことを悟った』

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『トランプの政治集会に参加した私は、民主党が2020年の準備ができていないことを悟った』という記事を訳してみました。記事を書いたのは、ニューハンプシャー州に住むカーリン・ボリセンコという女性。心理学の博士号を持っていて、ふだんは、労働環境などについて企業にアドバイスする仕事をしているそうです。

gen.medium.com


20年にわたる民主党支持者で、趣味の編み物に没頭していた彼女が、なぜトランプの政治集会に参加し、なぜ考えを変えたのか。彼女は、この記事を書くまで特に政治的な言論活動をしていたわけではなかったのですが、それはどうしても言葉にしなければならない体験だったようです。


記事を掲載したのは、ミディアム (Medium) というオンライン・プラットフォーム。Twitter や Blogger の共同設立者であるエヴァン・ウィリアムズが主宰するプラットフォームです。


記事が公開されたのは2020年2月11日。共和党の候補者が誰になるのか、激しい争いが繰り広げられていた頃の話になります。


(翻訳ここから)
トランプの政治集会に参加した私は、民主党が2020年の準備ができていないことを悟った。

私は20年間民主党を支持してきた。しかし、この体験 (トランプの政治集会に参加するという体験) は、私の党がこの国の一般的な人々からいかにかけ離れているのかを気付かせてくれた。

文: カーリン・ボリセンコ (Karlyn Borysenko)
2020年2月11日

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左派の私たちは鏡をじっくりと覗き込み、何が起きているのか正直に会話する必要があると思う。


ドナルド・トランプの政治集会に参加することになるだろうと3年前の私に誰かが言ったとしたら、私は笑い飛ばしただろう。そんなことなど起こりっこないと。3か月前ならどうだろう? 私の反応はおそらく同じだったはずだ。そんな私がなぜ、ニューハンプシャー州マンチェスターで、11,000人を超えるトランプ・サポーターに囲まれていたのか? 信じられないかもしれないが、すべては編み物から始まった。


編み物の世界は特に政治的だと思われてはいないかもしれない。しかし、それは間違いだ。編み物の愛好家の多くは、社会正義のコミュニティで活動している。そして、私たちの文化において編み物愛好家が果たしてきた革命的な役割について語りたがる。私がそれに気付いたのは1年ほど前だ。特にインスタグラムでその傾向は強かった。私が編み物をするのは、現実世界のあれやこれやを忘れてリラックスするためであって、現実世界にさらに深く関わるためではない。しかし、編み物コミュニティのオンライン社会正義戦士の一群が、彼らのイデオロギーに沿わない人々を追い掛け回し始めるのを無視することは不可能だった。インスタグラム上の編み物界の有名人たちは、一見なんでもないような言葉を発したために、何百人もの人々に叩かれ、もみくちゃにされた。ある男性は、あまりにこっぴどく叩かれたため、ノイローゼに陥り、自殺しないようにと病院に担ぎ込まれた。こうしたヘイトについて納得できないことはたくさんある。そして、政治的に私と同じ傾向を持つ人々が吐き出す辛辣な言葉を目にしたことで、私の頭の中に警報が鳴り響いた。


私は、トランプに投票する人はすべてレイシストだと考えるような民主党支持者の1人だった。彼らはひどい人々だと (そして、嘆かわしい人々だとすら) 考えていた。どんなに些細なコメントであったとしても、トランプ支持を表明する人をフレンド解除し、ブロックすることで、自分の空間から彼らの声を取り除くことに腐心した。私は MSNBC をよく視聴していた。そして、トランプはひどいことしかしないし、異性愛の白人男性以外の人をすべて憎んでいるし、欠点を補う長所などひとつも持っていないと信じ込んでいた。


しかし、この小規模でニッチな編み物コミュニティにおいて、左派からの大量の憎悪を目の当たりにした私は、すべてを疑い始めていた。意見の異なる人の声を聞くことで、エコー・チェンバーを打ち破るための積極的な努力を開始した。彼らの考え方を理解したかった。彼らは意見を同じくしないすべての人に対する憎しみで満ちあふれている。それが再確認でるはずだ、と信じていた。


だが、私は間違っていた。左派以外の声を聞けば聞くほど、彼らは悪い人々ではないことがわかった。彼らはレイシストでもナチスでも白人至上主義者でもなかった。社会的な問題や経済的な問題についての意見の違いはある。しかし、意見が違うからといって、彼らが本質的に邪悪だということにはならない。そして、彼らは議論を通じて意見を主張した。私が味方だと思っている人々が、がなり立て、わめき散らすことで意見を通そうとするのとは違っていた。


私は ウォーク・アウェイ (#WalkAway) ムーブメントを発見 (おそらく再発見) し始めた。#WalkAway については聞いたことがあった。MSNBC が、それはフェイクでロシアのボットだと言っていたからだ。かつては民主党支持者だったが、左派の振舞いに我慢ができずに民主党を離れた人々に実際に会ってみることにした。私は、さまざまなマイノリティ・コミュニティのために彼らが開いたタウンホール・ミーティングを視聴した (YouTube ですべてを見ることができる)。また、さまざまな肌の色、バックグラウンド、指向、 体験を持つ人々の分別ある理性的な議論に耳を傾けた。そのコミュニティの Facebook グループに参加し、毎日のように新しい人が現れては、民主党から離れた理由を語るのを聞いた。それはフェイクではなかったし、彼らはロシアのボットでもなかった。それは新鮮な体験だった。そのグループ内には、普遍的な合意などというものは存在しなかった。トランプを支持する人もいたし、支持しない人もいた。彼らは、罵声を浴びせるでも逆上するでもなく、互いを糾弾して排除しようとするでもなく、意見を交わし、シェアしていた。


(注: WalkAway キャンペーンは、もともとはゲイ・ライツの活動家だったブランドン・ストラカが 2018 年に始めたソーシャル・メディア・キャンペーン。社会の分断を拡大するような姿勢を取り続ける民主党から離脱 (WalkAway) することを呼び掛ける運動。ストラカの声明動画の翻訳はこちらから↓)


togetter.com


私はあらゆることを疑い始めた。真実ではないストーリーを私はどれほど信じ込まされてきたのか? 敵陣営に関する私の認識が間違っていたとしたらどうだろうか? 国の半分があからさまにレイシストなどということがありうるのか? 「トランプ錯乱症候群」(注: トランプのやることなすことすべてに反対する人々を指す言葉。揶揄として使用される) は実際に存在し、過去 3 年間、私はこの病を患っていたのだろうか?


そして、最大の疑問はこれだ。トランプと彼の支持者を困らせるためだけにこの国が失敗すればいいと考えるほど、私はトランプを憎んでいたのか?


ニューハンプシャー州の予備選挙に話を戻そう。あらゆる政治家が、有権者にアピールするために州内を駆け回っていた。私はほとんどすべての民主党支持者を実際にこの目で見た。そして、彼らのメッセージはほぼ間違いなく悲観的で陰鬱なものだったということを知った。ドナルド・トランプとの明白な意見の違いに焦点を合わせるだけでなく、この国がいかにひどい人種差別がはびこる場所だということを強調するのだ。


もちろん、人種について言えば、私たちが社会として検討しなければならない切実な問題を抱えていることは間違いない。私は、性別やバックグラウンドにかかわらず、あらゆる人が平等な機会を得るべきだと信じている。そして、ある人が別の誰かよりも本質的に価値がある、または価値がないという考えには反対である。2017年にバージニア州シャーロッツビルで行われた抗議集会では、本物のレイシスト、本物のナチス、本物の白人至上主義者が悲劇を引き起こした。しかし、こうしたレッテルは、ほとんどのトランプ支持者には当てはまらないことを私は理解し始めた。


それでもまだ、トランプの集会に参加すると考えることすら嫌だった。私は、トランプの態度がこの国で最高の公職に就く人物にふさわしいとは思わない。彼のツイートは大嫌いだ。彼の政策の多くに強く反対する。しかし、それでも、私は自分の目で確かめたかった。


正直に言えば、私は不安だった。そこで、慣れ親しんだ場所から始めることにした。集会から数ブロック離れた場所で MSNBC がライブで番組を中継していたので、まずそこを訪れたのだ。私は、トランプ帽に似た赤い帽子を被ることにした。しかし、トランプ帽とは小さな違いが 1 つだけあった。「Make Speech Free Again」(言論の自由を取り戻そう) と書いてあるのだ。それは、キャンセル・カルチャーに対する私のささやかな抵抗だった。笑い話にでもなればと、私はそれを被ったまま、MSNBC のキャスターのアリ・メルバーと写真まで撮った。


www.instagram.com


おもしろいのは、その帽子は人によってどのようにでも解釈できることだ。左派の人々といるときに被れば、それは右派に対して意見していると解釈される。右派の人々といるときに被れば、それは左派に対して意見していると解釈される。それは、私たち自身の視点やバイアスが世界の見方にどれほど影響を与えるかを、あらためて思い出させてくれた。


私は、収録の現場でおしゃべりする中で、トランプの集会に行ってみようと思っていると軽い調子で口にした。彼らは何よりもまず、私の身の安全を心から心配してくれた。見知らぬ人が、彼らを避けるようにとあれほど熱心に説得してくれたのは初めてだった。ある女性は、トランプ支持者は最低の人々だと言った。別の男性は、過去にトランプの集会に行ったとき、いかつい体をした大男たちの嫌がらせの的になったと言った。別の女性は、ペッパー・スプレーを持たせてくれようとした。私は大丈夫だし、不安になったらすぐに逃げだすからと、彼らを安心させた。


彼らが知らなかったことは、実は彼ら以外にも危険について忠告してくれた人がいたことだ。私は右寄りのオンラインの友人にも話を聞いていた。彼らも私が集会に行くことを本気で心配してくれた。ただし、他の参加者を恐れたからではない。左派が参加者を暴力的に攻撃することを恐れていたのだ。その前日、フロリダの共和党登録テントに車が突っ込むという事件があった。似たようなことが起こるのではないか、また、アンティファがボストンからバスで人を送り込むのではないかと、真剣に警戒されていたのだ。左寄りの人々に対してそうしたように、右寄りの友人にも私は大丈夫だと言って安心させた。そもそも、ニューハンプシャーではアンティファはほとんど存在感がないのだ。


しかし、不安をまったく感じなかったと言えば嘘になる。周りにいるすべての人があなたの身の安全を心配しているなら、彼らにも一理あると考えないわけにはいかない。しかし、だからこそ、私はこの目で確かめたくなった。どちらも相手を同じような目で見ていることが、はっきりと確認できたからだ。どちらも相手のことを恐れ、相手が何をするか不安に思っていた。少しの間でも、彼らが相手のレンズで世界を眺めることができたらどうなるだろうと考えざるをえなかった。自分たちが思うほど世界が見えていなかったことに、はっきりと気付くのではないか。


開場の 1 時間半前に私はアリーナに着いた。それは、すなわち、トランプが登壇する 4 時間前ということだ。ドアが開くのを待つ列は、既に 1 マイル (1.6km) にも達していた。待つ間、私は周りの人と会話した。事前に聞かされていた悪い話とはまったく逆に、彼らはとても感じのいい人たちだった。からかわれも、脅されもしなかった。一瞬たりとも身の危険を感じることはなかった。彼らは、どこにでもいる普通の人々だ。退役軍人もいたし、教師もいたし、自営業の人もいた。この集会に参加するという興奮を味わうために、あらゆる場所から集まってきている。彼らは上機嫌で、ワクワクしているのがわかる。私は、会話の中で、自分は民主党支持者だと口を滑らせもした。彼らの反応は、「よく来たね。ようこそ」だった。


会場の中は、ゴキゲンなムードに満ち溢れていた。それは政治集会というよりもロック・コンサートだった。人々は心の底から楽しんでいた。ラウドスピーカーから流れる音楽に合わせて踊っている人もいた。それは、私が参加してきたどの政治集会とも大きく異なっていた。2008年のバラク・オバマのときですら、これほどのエネルギーは感じなかった。


その 2 日前、民主党のすべての候補者が登壇したイベントに私は参加していた。会場も同じだった。しかし、雰囲気は対照的だった。まず、トランプの集会では、会場は上から下まで埋め尽くされていた。民主党の集会はそうではなかった。主だった民主党候補が全員出席し、無料チケットを配布していたにもかかわらずだ。トランプの集会では、すべての人々が 1 つの目標に向かって団結していた。民主党の集会では、聴衆は気にくわない候補者にブーイングし、互いに怒鳴り合っていた。トランプの集会では、未来を見る目はまぎれもなく楽観的だった。民主党の集会にあったのは、悲観と陰鬱さだった。トランプの集会には、アメリカ人であることを心の底から誇りに思う気持ちがあった。民主党の集会では、この国は上から下までレイシストなのだと強調していた。


トランプは常に最良のシナリオを提示しようとする。彼は嘘もつく。それは証明可能だ。しかし、この集会の強みは、事実や数字にあるのではない。自分たちの味方をしてくれる人がいる。自分たちのために戦ってくれる人がいる。そう感じて集まってきている人々。それがこの集会の強みだ。「そりゃあ、彼らは楽しんでいるのだろう。カルト集団なのだから」と言う人もいる。しかし、それは違うと私は思う。現実には、私と話をした人の多くは、なんらかの点でトランプに同意していない。必ずしもトランプの態度が好きなわけでもない。あんなにツイートしなくてもいいのにと思っている。カルトの崇拝者はリーダーに疑問を投げかけたりしない。私が話をした人は疑問を持っている。しかし、彼らの目には、良い面が悪い面をはるかに上回っているのだ。トランプは完璧だから愛されているのではない。欠点にもかかわらず愛されているのだ。トランプなら後ろ盾になってくれると彼らが信じているからだ。


集会が終わった。中に入れなかったためにアリーナの外で巨大スクリーンを見ていた何千人もの人々の横を通り過ぎながら、11 月の選挙でトランプが負けることはないと私は確信していた。そんなことはありえない。民主党が候補者に誰を指名しようが、トランプに打ちのめされるだろう。私の言うことを信じられないなら、彼の政治集会に参加して、自分の目で確かめてみるといい。心配しなくていい。彼らが襲ってくることはないから。


私は今日、ニューハンプシャー州の予備選挙で、ピート・ブティジェッジに投票した。ピートはこの国にとって素晴らしい働きができると心の底から思う。そして、将来的にチャンスを得ることもおそらくあるだろう。しかし、私は明日、投票者登録を民主党から無党派へと変更する。過去 20 年間支持してきた党を離れ、しばらくの間、中間地点から見守ることにする。どちらの党にも、私の居心地を悪くさせる極端な人々がいる。しかし、どちらの側であっても、ほとんどの人は善良でまともな人々であると私は基本的に信じている。どちらも、この国に最良のことを願っているが、そこに至るまでの方法について意見が大きく異なるだけだ。しかし、両者がお互いを人間だと認め始めるまで、分断に橋が架かることはないだろう。これ以上の分断に力を貸すことを私は拒む。投票先が異なるからといって、会ったこともない人を憎むことを私は拒む。この国を癒すつもりがあるなら、歩み去るのではなく、歩み寄る姿勢を見せ始めなければならない。


この 11 月、民主党支持者は手痛い一撃をくらうことになるだろう。選挙結果に大きな衝撃を受けるだろう。なぜなら、彼らは世の中の現実を反映していないエコー・チェンバーの中で暮らしているからだ。それが警鐘になればいいと思う。鏡の中を見つめ、どうしてこんなことになってしまったのか自問自答するきっかけになればいいと思う。そうすれば、彼らは人の話を聞き始めるかもしれない。その可能性はどちらかといえば低いと思うがが、希望を持つことは悪くない。

(翻訳ここまで)


この記事がかなり話題となったこともあり、ボリセンコは先日、PragerU の動画に登場して、同様の趣旨のことを 5 分間ほどにまとめてしゃべりました。私が彼女の名前を知ったのも、そのときが初めてです。その動画を翻訳して Twitter にあげたところ、かなりの反応をいただきましたので、今回、この記事も訳そうと思いました。


PragerU の動画とその翻訳の書き起こしはこちらからどうぞ (スレッドになっていますので、クリックしてお読みください)。


編み物コミュニティと左派的な政治活動の組み合わせは、奇妙な組み合わせに思われるかもしれませんが、あの世界もかなり強烈なイデオロギーに支配されているようです。編み物というのは時間的な余裕がないとできない趣味ですし、教育レベルの高い中産階級以上の方々が多いと思われますので、左派/リベラル的政治傾向と親和性が高いのかもしれません。編み物クラスタ内の政治的軋轢/キャンセル・カルチャーについては、昨年、Quillette誌に3本ほど記事が出ています。

quillette.com

quillette.com

quillette.com


ボリシェンコは、2020年8月5日公開のポッドキャスト「Triggernometry」にも登場して、1時間にわたってインタビューを受けています。その動画へのリンクも貼っておきます。

www.youtube.com


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雑誌記事『カニエ・ウェスト、そして黒人保守派の未来』を訳してみた

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ラッパーのカニエ・ウェストが、大統領選挙に出馬すると宣言して話題になっています。そこで、ちょっと古い記事なのですが、彼について書かれた Quillette 誌の 2018年4月の記事を訳してみました。タイトルを『カニエ・ウェスト、そして黒人保守派の未来』といいます。

quillette.com


ウェストが、黒人女性の保守派論客でトランプ支持のキャンディス・オーウェンズに賛同したことで、大騒ぎになったころの記事です。


リベラル・エリートは、なぜそれほどまでに黒人の保守派を脅威に感じ、その声を無視しようとするのか、についてです。


記事を書いたコールマン・ヒューズは、このときまだコロンビア大学の学生。記事の翻訳のあとに、彼の簡単な紹介文も書きました。


(翻訳ここから)
カニエ・ウェスト、そして黒人保守派の未来
2018年4月24日
文: コールマン・ヒューズ

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(2018年) 4 月 21 日、カニエ・ウェストは 1,340 万人のフォロワーに向けて、次のようにツイートした。「キャンディス・オーウェンズの考え方はいいね」。有名人がお気に入りの政治コメンテーターへの支持を表明するのは、まったく珍しいことではない。しかし、空前絶後の知名度を誇るラッパーが、黒人でトランプ支持の熱狂的な旗振り役であるオーウェンズのような人物への支持を表明するのは、人生に一度あるかないかの出来事だ。オーウェンズは、ブラック・ライヴズ・マターやフェミニズムをはじめ、左派が推進するその他のさまざまな理念を批判している。また、共和党の路線を全面的に支持しているわけではないが、減税や個人の責任の重視など、伝統的な右派の価値の多くに賛同している。

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彼女のメッセージの核心にあるのは、「黒人は白人のレイシズムに絶えず晒されている」というナラティブを後生大事に抱え込んで離さない傾向が白人にも黒人にもあるという指摘だ。私たちが必要としているのは、ブラック・アメリカの可能性についての新しいストーリーであり、それはすなわち、醜い過去にしがみつくのではなく、明るい未来を見据えることだ、というのがオーウェンズの主張である。自身の将来について壮大なビジョンを想い描き、自分は現代のシェイクスピアだと考えているウェストが、現代的な抑圧のシステムにより過去のあからさまな不正義が繰り返されており、それによって黒人の可能性が制約されているのだとする左派の支配的な見方よりも、黒人の自己創造というオーウェンズのメッセージを好んだのは容易に理解できる。


ウェストがトランプ支持を表明したときと同様に (後に支持を撤回した)、オーウェンズに対するウェストの支持は、左派よりも右派に好意的に迎え入れられた。数は少なくなりつつあるとはいえ、この国の筋金入りの反黒人差別主義者は共和党に投票する傾向があるにしても、保守主義は原則としてレイシズムにはまったく関係がない証拠だとして、保守派メディアは黒人保守派に飛びついた。対照的に、リベラル・メディアや左翼メディアは、黒人保守派を無視し、彼らが存在しないかのように振舞うことに全力を尽くした。人種の問題について道徳性を独占しているのは左派だというナラティブが乱されると困るからだ。カニエ・ウェストがラッパーであり、黒人のアイコンであることは、本来なら左派に分類される「べき」資質なのだが、それだからこそ彼が保守主義を好むという事実がいっそうの破壊力を持つのだ。


しかし、黒人の保守主義に蓋をし、黒人は声を揃えて左派の意見に同意しているのだと言い募る左派の戦略は、現実離れしているので永遠に続くことはない。さまざまな人種関連の問題についてどう思うか黒人に聞いたとき、その答えはリベラルの原理原則とは異なる場合も多い。たとえば、「教育レベルの高くない黒人の成功を妨げているのはレイシズムではない」と白人が言えば、この人物は構造的な不正義について嘆かわしいほど無知であると左派は考えるだろう。しかし、2016年のピュー・リサーチ・センターの調査によれば、大学を出ていない黒人の 60% が、彼らの肌の色は成功のチャンスに影響は与えなかったと考えている。もし白人が「ラップ・ミュージックは社会に悪い影響を与えている」と言えば、この人物は潜在意識として偏見を持っていると左派の多くが考えるだろう。しかし、2008 年のピュー・リサーチ・センターの調査によれば、黒人の 71% がこの意見に同意する。


さらに、ほとんどの黒人はマイクロアグレッション (訳注: 本人は自覚していないちょっとした差別的言動) を気にしていない。2017 年のケイトー・インスティチュートの調査によれば、黒人の回答者の半数以上は、「あなたは自分の考えをはっきり伝えることができますね」(訳注: 黒人は一般的にそうすることができないと言っているようにもとれる) 「私は他人の人種を気にしない」「この社会では、懸命に努力すれば誰もが成功できる」「アメリカはメルティング・ポットだ」などの言葉を不快に感じていない。だが、進歩派は、マイノリティを守るという名目で、こうした言葉は無神経であると鋭く批判する。どうやらマイノリティのほとんどが気にしていないにもかかわらずだ。


黒人は「進歩的な」政策と親和性があるという見方も、多くの黒人が民主党に投票することを考えれば理解はできるものの、同様に間違っている。アファーマティブ・アクションが良い例だ。この政策は、左派の間では何十年にもわたって批判されることがほぼなかったが、黒人の間ではそれほど意見が一致しているわけではない。2016 年のギャラップ社の調査によれば、大学の入学プロセスにおいて、人種/民族性は「一切考慮されるべきではない」と、黒人の 57% が考えている。既に 2001 年の段階でも、ワシントン・ポスト紙による同様の調査において、優遇政策の目標が「マイノリティにより多くの機会を与えること」であったとしても、採用や入学は「人種や民族性ではなく、厳格に能力や資格に基づいて」決定されるべきである、と 86% の黒人が考えていることがわかっている。


黒人コミュニティの大多数の考え方が正しいかどうかは別の問題だ。しかし、白人リベラル層の多くが支持も許しもしないであろうこうした考え方が、黒人の間では非常に一般的であることについては疑いの余地がない。さらに困ったことに、人種的な優遇措置は実際には黒人の生徒に害を与えているという無視できない証拠について、多くの進歩派は興味を抱いていないか、気付いていないように見える。スタンフォード大学で法律を教えるリチャード・サンダー教授は、アファーマティブ・アクションは黒人学生の失敗のお膳立てをしていると主張する。不釣り合いな学校に入学させることを組織立って行うことで、その環境においては学問的に準備不足の黒人学生が生まれているというのだ。誠意に基づきこの証拠に反論することはかまわない。しかし、サンダーや、同様の主張をする人々が直面しているのは、左派の多くからのレイシズムという非難である。


左派は、世論調査を無視することはできるかもしれないが、カニエ・ウェストを無視するのは簡単ではない。過去には、左派は、支配的な通説に異議を申し立てた黒人の有名人を無視することに成功した実績がある。たとえば、リル・ウェインが、ひざまずいて抗議するコリン・キャパニックを支持しなかったとき。デンゼル・ワシントンが、黒人の受刑率が高いのは、「システム」のせいではなく、父親のいない家庭のせいだと論じたとき。モーガン・フリーマンが、レイシズムはもはや問題ではないと主張したとき。こうした考え方に真剣に取り組めば、それを認めることになる。そしてそれは、左派の考え方のみが、レイシズムに反対する者が持つことができる唯一の考え方あるという神話を脅かすことになる。こうした有名人を単に無視するか、裏切り者、変人、巨万の富に頭をやられた無知な人間だという理由で相手にしないほうがずっと簡単だ。ウェストの評判を落とすために、これからどのような戦術が使われるのかはわからない。しかし、ウェストがテレビの生放送で「ジョージ・ブッシュは黒人になんか関心がない」とブチあげたのは有名な話だ。そんな男を簡単に黙らせることができると進歩派が考えているなら、彼らはおそらく間違っている。

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左派は、人種的正義の問題に関する彼らの独占を守るために、レイシズムという非難を頻繁に用いる。ペンシルバニア大学で法律を教えるエイミー・ワックス教授に最近起きたことを見ればわかるとおり (訳注)、反対意見を唱える者が白人なら、その非難は正当だとみなされる可能性が高い。だからこそ、オーウェンズのような黒人の保守派は彼らにとって大きな脅威なのだ。彼らが存在するという事実だけで、反対意見にタブーを押し付ける左派のパワーが乱されてしまう。シェルビー・スティールやトーマス・ソウルなどの著名な黒人保守派が、あからさまなレイシズムの時代に育ち、1960 年代を活動家/マルクス主義者として過ごした後、保守主義に立場を変えたという事実は、保守主義は白人至上主義の巨大な隠れ蓑であるというイメージは誤りであることを示している。こうした黒人保守派の存在が、レイシズムについて保守派が無罪であることの証明にならないというなら、次のデータを検討してみてほしい。2016 年にワシントン・ポスト紙に掲載されたセオドア・R・ジョンソンの分析によれば、アメリカの黒人の 45% が自身を保守派だと認識している。それに対して、リベラル派と自認するのは 47% である。また、一般的に言って、黒人は白人に比べて宗教に熱心である。

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(訳注: ペンシルベニア大のロー・スクールで教鞭をとるワックスは、彼女の教えるクラスで「成績上位4分の1に黒人学生が入ったことはなく、上位半分に入ることもまれである」等と発言し、レイシストと非難された。大学側は、1年生のカリキュラムから彼女を外し、選択科目だけを担当するようにした)


しかし、保守的な黒人とリベラル派の黒人に数の上での大きな差がないなら、なぜ彼らは大挙して民主党に投票するのか? ジョンソンはこう指摘する。「1960年にケネディが黒人票の 68% を得て以来、民主党の大統領候補が獲得した黒人票が 82% を下回ったことはない」「バラク・オバマの再選時には 93% の黒人が彼に票を入れた」。ジョンソンの研究が示唆するのは、黒人がリベラルの政策を好んでいるのではないということだ。「2 人の候補がいて、まったく同じ政治的立場を持ち、まったく同じ社会的条件のもとで立候補した場合でも、黒人は共和党候補よりも民主党候補を好む」 (強調は筆者)。ジョンソンは、黒人が民主党に忠誠心を示す本当の理由は、民主党は公民権法を推進したが、共和党は推進しなかったという一般的な認識にあるのではないかと疑っている。


しかし、民主党がエイブラハム・リンカーンの党よりも公民権に関して高い実績を持っているという考えは、控えめに言っても疑わしい。社会学者のムサ・アルガービが指摘するように、公民権法を実際に施行したのは共和党のドワイト・アイゼンハワーであり、彼の前任者である民主党のハリー・トルーマンはほとんど何もできなかった。ロナルド・レーガンの対薬物戦争は大きな非難を浴びたが、ビル・クリントンの犯罪防止法も非常に評判が悪い。それにもかかわらず、1960 年代にリンドン・ジョンソンが広範囲の公民権法を成立させたことから、民主党はこれまでずっと善人だったという印象が生まれた。過去 50 年間のすべての大統領選挙において大多数の黒人票を獲得するにはそれだけで十分だったのだ。


トランプの時代において、リベラルのエリートたちがアメリカの一般的な白人から乖離しているという事実についてはさまざまな場所で書かれるようになった。しかし、リベラルのエリートたちがアメリカの一般的な黒人から乖離しているという事実にはあまり注意は払われていない。また、こうしたエリートたちが、何百万もの黒人が抱く意見を、よくても「支持されてない」、悪くすれば「レイシスト」と表現する事実について払われる注意はさらに少ない。カニエ・ウェストの知名度を考えれば、歯に衣着せぬ彼の物言いが、人種や社会政策の議論にまつわるリベラル派のタブーを壊す力になればと人々が望むのも無理はない。しかし、こうした作られたタブーはリベラル派エリートの見識の構造に深く埋め込まれているので、戦いなくして壊れ去る可能性は低い。しかし、ウェストのような人々が何度も何度もそのタブーを壊していけば、再燃するレイシズムに対する最後の防波堤であり、反レイシズムを真剣に考える人の唯一のオプションであるという左派のセルフイメージが、静かに不同意を表明する何百万もの黒人アメリカ人の重みに耐えかねて崩壊するのも時間の問題だろう。

(翻訳ここまで)


この記事を書いたコールマン・ヒューズは、この記事を書いた2018年の時点では、コロンビア大学の哲学専攻の学部生でした。コロンビア大学の学生新聞であるコロンビア・スペクテーター紙や、ヘテロドックス・アカデミーという非営利団体のブログに既に記事を書いていました。


現在は、City Journal 誌やオーストラリアの Quillette 誌に寄稿するほか、自身のポッドキャスト「Conversations with Coleman」を主宰しています。最近は、ブラック・ライヴズ・マターに懐疑的または批判的な立場から、さまざまなポッドキャストにゲスト出演しています。


その中から2つほどリンクを貼っておきます。TRIGGERnometry と UnHerd のポッドキャストです。

www.youtube.com


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中国が新型コロナウイルスに関連して非常に否定的な論調で語られている - 英国のポッドキャスト番組から

ちょっと古い話になってしまうのだが、先月、新型コロナウイルス関連のポッドキャスト動画をYouTubeで見ていた。その中で、識者 (学者やジャーナリスト) が中国に対して非常に否定的な見解をあからさまに述べる動画がいくつもあったので3つほどご紹介します。


地上波や新聞などのメインストリーム・メディアでは、ここまではっきりと中国に否定的な論調が出てくることは (私の見る限り) あまりない。


まず、UnHerdという英国のオンライン・マガジンのポッドキャスト。インタビューに答えるのは、ニール・ファーガソン (Niall Ferguson) という英国出身で米国在住の歴史学者。政治的には保守。コロナウイルス感染症について英国政府に助言した公衆衛生研究者のニール・ファーガソン (Neil Ferguson) とは別人。5/20公開の動画。


www.youtube.com


25:07 あたりから。「アメリカは終わりだとか、これからはアジアの世紀だとかいう文章が毎日のようにリリースされる。しかし、こうした記事は結論を急ぎすぎている。中国で作られたウイルスによって非常に深刻な制度上の問題が発生したが、それを見ていないからだ。今年の中国の経済成長は彼らの予想を大きく下回るだろう。こうした衝撃を受けて、安定した体制が保たれるかどうかはわからない」


次は、TRIGGERnometry。デビッド・マクウイリアムズというアイルランド人経済学者がインタビューに答えている。この人はメディアにもよく登場するので、アイルランドでは知らない人がいないと言っていいほどの有名人。政治的には中道左派と自分で言っている。5月6日公開の動画。


www.youtube.com


動画の35分ぐらいから45分すぎぐらいまで、マクウイリアムスはサプライチェーンの一方の端を中国に置くことのリスクに欧米の国々や企業が気付いてしまった、という話をしている。


(37:43)「長期的な視点で新型コロナが中国に与える影響を考えた場合、UK、ドイツ、フランス、米国などどの国も、基本的な装備を中国に頼ることは今後はけっしてしないだろう」


最後もTRIGGERnometryから。ゲストは英国人ジャーナリストのダグラス・マレー(以下DM)。彼が中国について話しているところをざっと翻訳してみた。46:25ぐらいから。司会はコンスタンティン・キシン(KK)とフランシス・フォスター(FF)。2人とも英国のコメディアン。


www.youtube.com


(翻訳ここから)

FF: 中国の話をしよう。コロナの件、中国というか中国共産党(CCP)はどのくらい責任を負うべきと思うか?


DM: 市場からか研究所からか、事故なのか故意なのか、どのシナリオでもCCPはその責任をとらないといけない。ウイルスが中国で発生したからだけでなく、何か月にもわたって世界を騙したからだ。そして、全体主義政権がいつもやることを行った。つまり、現地の災害を世界的なものに変えたのだ。世界経済を焼き尽くした中国の政権との関係を見直すためのとても複雑だが必要なプロセスが私たちを待っている。


KK: 賠償金が必要だと思うか?


DM: もちろん、あらゆる可能性を排除せずに検討すべきだ。私たちの同盟国や友好国はCCPにひどい扱いを受けている。中国は豪州政府をいじめている。


KK: この件はあまり知られていない。


DM: 過去にも書いたが、UKはCCPについてあまりにも考えが甘かった。おそらく金(きん)の蛇口としか見ていなかった。


この話は7年前に信頼できる筋から聞いたんだが、キャメロン首相(当時)がダライ・ラマと会談した後、CCPはUKとの新しい投資に関する貿易関係を打ち切った。キャメロンがダライ・ラマと距離を取る、二度と会わないとアナウンスし、ひどくこびへつらった謝罪を表明した後、UKの代表団が北京を訪れた。


中国代表団はテーブルの向こうから英国政府の謝罪文のコピーをUK代表団に渡し、立ち上がって読むようにと言った。で、UK代表団は言われたとおりにした。着席するとCCPの担当者は笑顔を浮かべ、本気かどうか知りたかったんだ、と言った。


KK: わお。


DM: この話を聞いたとき、私、というか英国民を代表して、それほど卑屈になるヤツがいるのかとひどく驚いたのだが、しかし、私たちは我慢することを選んだのだ。金や投資が欲しければ(金や投資が重要でないとは言わないが)、彼らのルールでプレイしなければいけないと。


ここ数週間、オーストラリア政府は同様の体験をしている。これは強調しておきたいが、UKがいま学んでいることを、彼らはUKより先に、より速いスピードで学んでいる。それは、地理的に近いことと、ここ数十年の貿易関係から。豪州を訪れたときに感じたが、一般の豪州人は、中国との関係には何かが付随してくるという事実を、英国人や米国人よりはるかに意識している。2~3週間前、豪州政府は、ウイルスがどこで発生してどう広まったかについて、独立した国際的な公式調査を行ってはどうかと示唆した。豪州政府がそう示唆した後、CCPはいつもと同じような反応を示した。豪州を脅したのだ。


在豪の中国外交官や大使は、中国は豪州の製品、牛肉、ワインの購入をやめる可能性があると言った。これは人種差別のようだと言った。ある著名な中国政府の御用記者は、「豪州は中国の靴の裏にくっついたチューインガムだ。削り落とさないといけない」とWeiboに投稿した。これは、CCP高官の典型的なものの言い方だ。


KK: それこそレイシストのように聞こえるね。


DM: おもしろいことに、ナンシー・ペロシやその仲間たちは、ウイルスがどこで発生したか言うのは人種差別なのではないかと心配していた。2月の終わりか3月のはじめになっても、連帯を示すために地元のチャイナタウンに行くことをペロシは奨励していた。フィレンチェ市長は、中国人を見つけてハグしようと市民に呼び掛けていた。レイシズムとコロナウイルスを同時に撃退するためにだ。それが、フィレンチェがどこよりも早くロックダウンに入った理由かもしれない。


ウイルスが中国から来たと言うことが人種差別かどうかを私たちが懸念しているというのに、中国は世界のあらゆる人に対して好きなだけレイシストとしてふるまう。これこそ、私たちの愚かさが現実にぶちあたった典型的な例だ。現実の中国は、レイシズムのことなどこれっぽちも気にしない。しかし、私たちが気にすることを彼らは知っている。そして、私たちについて何でも好きなことを言い、私たちの恐怖を巧みに操る。


話を戻すと、豪州は中国に製品をボイコットされようとしている。よくも中国に歯向かったな、よくもウイルスの起源について独立した国際的な調査を行うことを示唆したな。そんなことをしたらどうなるか教えてやる、というわけだ。今こそ連帯のときだ。ニュージーランドが私たちの友人で同盟国の豪州の支持を表明したことを嬉しく思う。


今こそ民主的な連帯のときだと思うし、私たちの同盟国をいじめておいて、私たちがその同盟国から距離を置くなどと思うなよ、とCCPに言うべきときだと思う。コロナウイルス騒動の後、中国についてはすべてをテーブルに載せて検討すべきだと思う。

(翻訳ここまで)

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伊藤詩織氏のBBC『日本の秘められた恥』での発言について(特に「sexual assault」と「everyone」の訳について)

2018年にBBCで放映された『日本の秘められた恥』(原題: Japan’s Secret Shame) という番組が、最近またツイッターなどで議論の的になっている。この番組は、性的暴行を受けた(と主張する)伊藤詩織氏を追ったドキュメンタリーである。


www.bbc.com


議論の的になっているのは、上記のBBCのページに掲載された、上から2番目の動画。この動画で、伊藤氏は英語でこう語る。

If you grow up in Japanese society, everyone have experienced sexual violence, or sexual assault, but not everyone consider it was. Especially when you start using public transportation as a high-school girl. That's when it happens every day. So whenever we go... get to the classroom, that was always the topic: today, this man jerked off on me, today this man cut my skirt. But this was something that we have to deal with. We never reported it.


これに対して、BBCは字幕をこうつけている。

日本社会で育つと誰でも性暴力や性的暴行を経験しているんです
ただし自分が被害に遭ったんだと全員がそう思うわけでもない
特に女子高生として交通機関を使うようになると
そこから毎日そういう目に遭うようになるんです
だから毎朝教室に着くたびにいつもその話題で持ち切りでした
今日はどんな男が自分の上にかけてきたとか
今日は別の男にスカートを切られたとか
でもそういうものだと受け止めるしかなかった
通報なんかしませんでした


この伊藤氏の発言を問題視してツイッター等で抗議の声を上げているのは、shin氏(@shin_shr190506)やSachi氏(@sachihirayama)である。両氏の主張は、私の理解するところによれば、伊藤氏は日本の性被害の状況を、事実に反して、または誇張して表現しており、それによって間違ったイメージを日本人(主に女性)に抱いた外国人が、日本人(主に女性)に実際に性的な害を加える可能性が高まる、というものである。


これに関連して、カツミタカヒロ氏という方がNoteで記事を書いておられた。

note.com


タイトルが「【翻訳検証】BBC Two『Japan's Secret Shame』(2018)の番組で伊藤詩織さんが語ったことが問題視されている点 #JapansSecretShame」であり、問題となっている伊藤氏の発言が冒頭で引用されていたので、Shin氏やSachi氏への反論として書かれた文章かと思って読んでいたのだが、読んでいるうちに、どうやらそういう意図ではないのかもしれないという気もしてきた。


カツミ氏は、最初の段落で「字幕の訳が物議を醸した」(太字は筆者)とはっきりと書いており、詩織氏の英語での発言が主に英国の一般視聴者にどのような影響を与えるかを議論しているShin氏やSachi氏とは、問題意識の持ち方がまったく異なるからである。


カツミ氏は、その後の文章でも、日本語の字幕を付けるとしたら、どのような字幕が最適なのかについて詳しく議論されているので、伊藤氏の発言がSNSで議論になっていることをきっかけとして、その議論とは関係なく、字幕翻訳に関するご自身の知見を披露しようとされただけなのかもしれない。しかし、もしShin氏やSachi氏の議論への反論として書かれたのであれば、問題意識が根本からずれているので、カツミ氏の文章は残念ながら議論としてはかみ合っていない。


そのあたりを疑問として残しつつ、伊藤氏の英語での発言が(主に)イギリスの一般視聴者にどう理解されたのかを日本人に理解していただくにはどう訳せばいいのか、カツミ氏の訳を参考にさせていただきながら考えてみた(私はビジネス翻訳歴25年。母語は日本語。アイルランド在住28年です)。


始める前に、以下の2点についてご留意いただきたい。

(1) カツミ氏も、「筆者が行った原文の修正、再翻訳と再字幕化については賛否両論あるだろう。筆者もさまざまなことを勘案して類推してベストと思える、美しい翻訳を心がけたまでのことなので、批判はあって然りだと思う」と書かれている。一般に、翻訳に「賛否両論ある」「批判はあって然り」というのは私も同感であり、翻訳である以上、元の文章や話者の意図なり情緒なりを翻訳で100%伝えるのはほぼ不可能である。何かを生かすために何かを落とさなければならない場合もあれば、知らず知らずのうちに訳者がなんらかのバイアスをかけてしまう場合もある。今から私が行う翻訳や考察についても、当然、批判はあって然りと考えている。


(2) 私の考察は、「伊藤氏の英語での発言が(主に)イギリスの一般視聴者にどう理解されたのかを日本人に理解していただくにはどう訳すか」が目的であり、カツミ氏の訳は「日本人視聴者向けにどのような字幕が最適か」が目的なので、訳は違って当然である。


では始めます。

(A) 「sexual violence, or sexual assault」の訳について。伊藤氏があえて選択したのかどうかはわからないが、「sexual violence」や「sexual assault」はかなり強い言葉として英国の一般視聴者に受け止められるだろう。であれば、英国の視聴者がどのように受け止めたのかを日本人に説明する目的では、それと同じくらい強い言葉を訳語として選ぶべきである。BBC の字幕は「性暴力」「性的暴行」と言う訳語を選択しているが、英国の一般視聴者が受ける印象もこれに近いものだと私は考える。


英語の「sexual assault」も日本語の「性的暴行」も、辞書的には「望まない身体接触すべて」を指す。したがって、言葉から一般的に受ける印象とは異なるかもしれないが、痴漢も含まれる。詩織氏が、一般的には「痴漢」に対して使われる「groping」ではなく、「sexsual assault」という語感の強い語を使用したのであるから、伊藤氏が英語で何と言ったのかを日本人に伝えるには、同程度の強さを持つ「性的暴行」と訳すのがよいだろう。


カツミ氏は「長年に及ぶ筆者の人権界での経験と、様々なメディアや専門家による文献などに直接接してきたことから得られる結論」として「一般に国際社会においては”sexual assault”と認識されている暴力であり、対する正規訳は「性的加害」であると理解している」と書いておられる。そして、「sexual violence, or sexual assault」をまとめて「性的加害」と訳しておられる。人権等の専門家の間では、正規訳が「性的加害」であるのかもしれないが、オーディエンスが一般視聴者であるという事実を考えた場合、「sexual violence, or sexual assault」を「性的加害」という一般になじみのない言葉に訳すのは、英国人一般視聴者がどう感じたのかを日本人に伝える目的では不適切と考える。


(B) 「Everybody」の訳について。BBCの字幕は「誰でも性暴力や性的暴行を経験しているんです」。カツミ氏の訳は「性的加害を見聞きした経験を持つでしょう」で、「everyone」をあえて訳出していない。もちろん「Everybody」が文字どおり「全員」の意味でないことは常識で考えればほとんどの人がわかる。ただ、話している内容についてオーディエンスが認識を共有している場合にくらべて、オーディエンスが認識を共有していない場合は(日本での性暴力について話を聞いている一般英国人視聴者がそうだ)、「Everybody」が文字通りの意味なのか、強調で使われているのか、強調だとすればどの程度の強調なのか、混乱する人の割合は増えるだろう。


インタビューの中で、事実として「Everybody」という言葉は使われた。伊藤氏は性暴行の被害者(少なくともご自身はそう主張している)であると同時に、ジャーナリストでもある。ジャーナリストとしてはこの言葉の選択は精緻さに欠けるだろう。それでもこの言葉を使った。精緻さを犠牲にしてでも強調して感情に訴える方が効果的だと考えたのかもしれないし、単に英語力の問題かもしれない。だが使った事実はまちがいない。「それほど強調したいことであるのだな」と思う人もいれば、「不誠実に話を盛っているな」と受け取る人もいるだろう。それは、「Everybody」を聞いた英国人視聴者でも、「誰もが」を聞いた日本人でも同じだろう。だったら、シンプルに逐語訳で「誰もが」とすればいい話である。


(C) 「experienced」の訳をカツミ氏は「見聞きした経験」と訳されているが、この文脈で「見聞きした」の意に受け取る英国人一般視聴者は非常に少ないのではないか。


(D) 「this man cut my skirt.」の「cut」が「caught」ではないかという指摘。たしかにこれはどちらにも聞こえる。この発言の直前にあるのが「this man jerked off on me」(男に精液をかけられた) というかなりひどい被害について話しているので、それに匹敵する被害ということで「cut」の方が文脈上は可能性が高い気もするが、これはどちらにも聞こえるので意見は差し控えたい。


伊藤氏の英語での発言が(主に)イギリスの一般視聴者にどう理解されたのかを日本人に理解していただくという目的で私が訳すとすれば以下のとおり。基本的にBBCの訳を踏襲している。

日本社会で育つと誰もが性暴力や性的暴行を経験します
ただし自分が被害に遭ったんだと全員が思うわけではない
特に女子高生として交通機関を使うようになると
毎日そういう目に遭うようになります
毎朝教室に着くと、いつもその話をしました
今日はどんな男にかけられたとか
どんな男にスカートを切られたとか
でもそういうものだと受け止めるしかなかった
通報はしませんでした


また、舩田クラーセン・さやか氏という方も「everyone」と「sexual assault」の訳についてカツミ氏と同様の意見をお持ちのようである(ご本人のツイートは見つからなかったので確認していないのだが、ラサール石井氏が日刊ゲンダイに書かれた記事を参照した)。



舩田氏のご意見についても、私の意見はカツミ氏の訳文について書いた上記の文章と同じである。


以上です。


ここからは、BBCの番組を離れての余談となります。


このBBCの番組が放映されたのと同じ頃に、伊藤氏はヨーロッパのほかの番組にもいくつか出演しました。その中の1つ、北欧のトーク番組「Skavlan」(トークは英語で行われる)に出演した伊藤氏を見て、私は当時ツイートした内容を再録します。



(再録ここから)
詩織さんが出演した北欧のトーク番組「Skavlan」を見た。彼女は例によって日本の性を巡る状況が西洋と大きく違うことを印象付けようとする。ここでも刑法の性的同意年齢にのみ言及し、18歳未満との性交を刑事罰化する淫行条例の存在には触れない。この態度はあまりに不誠実。


彼女はまた、日本では女子高生にとって痴漢が日常茶飯事であり、10歳のときにはプールで体を触られたと告白する(もちろん彼女はここで視聴者が驚いてくれることを期待しているはずだ)。しかし、ここで司会者は別のゲストのイギリス人女性作家Jojo Moyesさんに話を振る。


Moyesさんは、自分も不愉快な体験を20回はしたし、話を聞いた女友だちのうち1人を除いて全員が10回以上被害にあっていると語る。夫に話したところ、夫はショックを受けていたと。被害に遭わないためのTo-Doリストがソーシャルメディアで共有されてるとか。


だから、どこの国でもそうだが、イギリスには日本人を珍獣扱いする「Japan's Secret Shame」を制作するErica Jenkinさんのような知的に不誠実な女性もいれば、Jojo Moyesさんのように国境を超えた女性の連帯を模索する誠実な女性もいるということ。


また、詩織さんのストーリーをニュートラル化するためにJojo Moyesさんを同席させて話をさせたのは、スウェーデン/ノルウェーのテレビ製作者とイギリスのテレビ製作者の誠実度の違いを示しているのかもしれない。


あと、日本では子供への性的暴行を「tricked」(いたずら)というぼかした言葉を使うと詩織さんは言っているのだが、英語でも普通に「molest」という単語を使うので、これも日本が特に特殊なわけではない。

(再録ここまで)

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英国の人種平等対策委員会のトップに任命されたミュニラ・マーザ氏

ミネアポリスで黒人男性が警官に殺されたことを受けて、英国でもデモが各地で発生しています。ボリス・ジョンソン首相は人種平等対策委員会の設置を決め、そのトップにはミュニラ・マーザ氏が任命されました。

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彼女は、イングランド北部のオールダム出身。1978年生まれ。父母はパキスタンからの移民です。ジョンソンがロンドン市長だったときに、教育/文化担当市長代理を務めていました。若い頃は共産主義の政党に参加するなど左翼だったのですが、時を経るにつれて政治志向は変化したようです。ブレグジットでは離脱派。また、アイデンティティ・ポリティクスには非常に懐疑的な態度を示しています。


今回の人選には、英国の左派は不満のようで、ガーディアン紙などは癇癪を起こしたかのように批判記事を書いています。

www.theguardian.com


この批判記事に対する学者さんの反応を2つご紹介します。

シンクタンク研究フェローのラキブ・アサン博士: 「(イングランド)北部出身の優秀なパキスタン系ムスリム女性。そして、アイデンティティ主義者には同調しない。現代英国の左派にとっては最悪の悪夢のような存在。だから、こうした記事がガーディアン紙から出てきたことには驚かない」


ロンドン大のエリック・カウフマン教授: 「平等に関する政策を策定するにあたって、科学とエビデンスが批評人種理論にとって代わる可能性に、ガーディアン紙が動揺している」


ガーディアン紙もひどい言われようですね(笑)。


2017年に英国政府が人種不均衡に関する監査報告書を出したとき、ミュニラ・マーザ氏はBBCの時事番組に出演して、短いインタビューに答えています。彼女の考え方がよくわかるので、そのときの発言を翻訳します。

www.youtube.com

(1:43)
司会: あなたは、政治的スペクトラムのあらゆるところで、反人種差別が武器として利用されていると考えている。これは公正な見方か?


マーザ: この種の報告書は、今日の英国で民族集団がどのように暮らしているかについて、ネガティブなイメージを過剰に強調しがちである。これを人種的な不正という観点でとらえることで、不均衡が存在する理由について非常に誤解を招くようなイメージを拡散している。そしてそれは、民族集団内の怒りや恨みに火を注いでいると思う。


司会: 事実を単に述べているのではなく、怒りに火を注いでいる(fuelling)とあなたが考える理由は何か?


マーザ: 彼らが使う言葉は非常に興味深い。首相は「火急(burning)の不正」と言った。肌の色によって異なる扱いを受けていると。しかし、集団間で不均衡や異なる結果が発生する理由はさまざまである。英国のBME(black and minority ethnic: 黒人および少数民族)の半数近くは国外で生まれている事実を考えれば、言語や資格の問題がある。BMEの大多数は労働者階級の出身で貧困地域に住んでいる。このように、さまざまな要因がある。これが制度における不公正な差別によるものだ、または肌の色のせいだと言うことは、非常に誤解を招く言い方だと思う。実際には、いくつかの集団は平均よりも良い結果を出している。教育機関で(少数)民族集団が良い成績を収めているので、現在は白人集団の方が人種的不正に直面しているのだ、などという奇妙なロジックを政府は使い始めている。誰もが恨みを抱くことを奨励されているようだ。


司会: 誰もが恨みを抱くことが奨励されているとあなたは言うのだが、人種に関する差別は公共部門にはまったく存在しないと言っているのか?


マーザ: いや、そうではない。差別はある。この国にレイシズムはある。しかし、レイシズムの度合いや差別の度合いを誇張することは、誰のためにもならないと思う。報告書で示された不均衡のうちいくつかは、民族集団だけでなくすべての集団に影響を与えるさまざまな要因で説明できると思う。刑務所に女性より男性の囚人の方が多いからといって、ジェンダー的不正があるとは言わないだろう。南アジア系のクリケット選手がサッカー選手より多いからといって、人種的不正があるとは言わないだろう。こうした不条理なロジックは、社会はあなたの味方ではない、あなたは不利な立場に置かれている、努力しても無駄なこと、などのネガティブなメッセージを、特に若者たちに向けて送っていると思う。それが、コミュニティのまとまりや社会の調和にとって良いことだとは思わない。これは道徳的価値観の見せびらかしにすぎず、レイシズムだろう。誰のためにもならない。(4:22)


(7:08)
マーザ: 数週間前にラミー・レビュー(訳注: デビッド・ラミー議員による人種不均衡に関する報告書)が公開されたとき、私はそれについて批判的に書いた。デビッド・ラミーは刑事司法制度に人種的な偏見が存在すると主張する。しかし、この報告書で彼が示したエビデンスはすべて、逆の事実を指し示している。中に入ってみれば、制度は非常に公正である。問題はある。カリブ系黒人集団は逮捕される可能性が高い。その原因として、さまざまな社会的理由が考えられる。しかし、制度自体、つまり公共サービスが肌の色によって人々を不公正に扱っていると主張することは、基本的には白人の担当者が民族によって人を不公正に扱っていると主張することであり、それは非常に害が大きく、公共サービスへの信頼を破壊し、こうした民族集団に属する若者を疎外する。率直に言って、統計の背後にあるものをより正確に語ることを阻むような形で統計を利用することは無責任である。
(8:13)
(翻訳ここまで)


また、2018年12月にはポッドキャストの「TRIGGERnometry」にも出演して1時間ほど話しています。こちらは私もまだ全部は見ていないのですが、リンクを貼っておきます。

www.youtube.com


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